表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
369/874

錠剤


38


 ジャイアントの頭へと転移した僕に対してジャイアントが取った行動は上を向く、だった。

 そうすれば後頭部が下がり、僕がずれ落ちる算段だった。

 けれど狙いはたぶん、それだけじゃない。僕は額へ向かうように前髪をよじ登る。ごろん、と頭の揺れで転がり、目尻のあたりを通って鼻にぶつかる。そのままずれ落ちそうになって、穴が見えた。

 それはジャイアントの口腔。ジャイアントは上を向いてから巧みに揺れて僕を口まで誘導していた。

 そうだろうと推測していたから僕の行動は早い。ジャイアントとこうして戦ったのは一度や二度じゃない。

 初めて頭上に乗ったときは、口腔に落ちかけて、下でぬめりとなめられ、歯で体を切断されかけたけれど、もう手慣れたものだ。

 もっとも油断はしない。狂靭化して、どれほどまで強くなっているか見極められていないからだ。

 それでも倒せると予想はしているのだけれど。

 鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を鼻に突き刺す。鼻の穴にフックのようにひっかけるのではなく、鼻の側面、外側へと突き刺す。

「うぼぼぼぼぼぼぼっ!!」

 ジャイアントが痛みに悲鳴。比較的痛みを感じない部分ではあるけれど、穴が開けば痛いに決まっていた。

 宙ぶらりんになって数回揺れて止まる。転がり落ちるのだけはなんとか防げた。

 そうして素早く次の一手。

 僕が引っかかっていると分かれば手で払いのければいい。

 むしろ初めからそうすればいいのに、頭上や顔に乗ったものを食べてやろうとする習性がジャイアントにはあるようだった。

 鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を【収納】して一瞬だけ宙に浮いた時間を利用して【転移球】。

 落ちてくれれば幸運だと思っていたのか、いまだぽっかりと空いた口腔の上空へと転移。

 わずかに睨みつけて【造型】した【掘削球】を真下に投擲。

 ジャイアントの口の中へと入り、口蓋垂を掘削してさらに奥へ。食道を入り曲がる。

 【変化球・利手曲】で投げていた。

 異物混入を許したジャイアントが咳き込むが、【掘削球】は刺さった魚の骨のように咳き込めばどうにかなる問題でもない。食道に突き刺さってなおも回転をし続け、食道をぶち破り喉仏の下ぐらいを突き破って外に出てくる。

 その証拠に咳き込むとともに口から流血。

 大量の血が周囲へと飛散していた。

 異物として混入した球も回転が止まり、何度目かのジャイアントの咳払いで外へと吹き飛ばされる。

 咳き込む頭に着地した僕は不安定な足場に体勢を崩し、下へと落下。ジャイアントの咳払いが続いていたことで、ジャイアントは僕に無警戒のため難を逃れて、地面へと安全に【転移】。

 掘削され猛烈に痛いのかジャイアントの動きが鈍る。次の行動に移りやすくなった。

 そうしてディエゴに対する新技能を作る際に何かの役に立つかもと作っておいた回復球種を造り出す。

 作り立てなので、瞬時ではあるけれど、まだ【造型】にはわずかに時間がかかるが完成。

 新技能【錠剤球タブレッター】を握り締める。

 狂靭化が魔物に対する感染症である、と聞いたとき僕はこの新技能が通用するかもしれない、という直感があった。

 この球は万病とまではいかないけれど、病原菌をわずかに除去する効果を持つ。

 もちろん、癒術士系複合職がいれば、僕が【合成】した【錠剤球】は不要だ。

 そういう意味でも今まで病気、というか状態異常を治す投球技能がなかったのだろう。

 だから作った。癒術士よりも効果は薄く、役立つ場面も少ないかもしれないけれど、それでもないよりはマシなはずだった。

 再びジャイアントの口付近に転移して、その【錠剤球】を投げつける。ジャイアントは僕が現れた瞬間、口を閉じて警戒したけれど、それを読んでいたからこそ喉に穴を開けていた。その穴めがけて投擲。

 高速で投げた【錠剤球】は穴を通って口の中へ。回復球種なので必中だけれど、僕はジャイアントという漠然とした狙いではなく、ジャイアントの胃に狙いをつけていた。

 食道に入ればそのまま真っ直ぐと胃へと向かってくれる。ジャイアントの内部構造は人間と同じだって聞いたことがある。

 球である以上、球形ではあるけれど、僕が【合成】時に内服薬をイメージしたので胃腸で消化したほうがより効果を発揮するようになっていた。

 新技能の初回使用なら十全に効果を発揮させたいと思うのは欲張りだろうか。

 なんにせよ、球は食道を通り、胃へと到達。胃液によって球が壊れ、中に入っていた効果が威力を発揮する。

 ただ僕も一度で効力を発揮するとは思っていない。癒術と比べてやっぱり効力は低いのだ。連投によって胃の中にどんどんと【錠剤球】をぶち込んでいく。口と、喉に空いた穴どちらも押さえようとするジャイアント。けどそんなことはさせない。

 時折、【掘削球】を喉を押さえようとする手に投げ、突き刺し回る痛みで抑えるのを防いだ。

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 しばらくしてジャイアントがお腹を押さえてしゃがみ込む。まるで腹痛を我慢するように。

 そしてそのまま頭を地面につけて、

「おごっ、おごぉおおお!」

 何度もえずく。胃の中の異物を吐き出そうとするように。

 胃液が草原へと吐き出され、ジャイアントはそのまま倒れる。

 その頃にはジャイアントの皮膚と目の色は元に戻っていた。

「なんていうか……効いたって感じじゃないな……」

 感想としてはそんな感じだ。感染症とは言っていたけれど、本当は感染症のようなもので本当に病気かすら分かってないのかもしれない。そんな推測を立てる。

 ジャイアントが偶然にせよ元に戻ったということはさっきの胃液の中にあった何かが原因なのだろうか。

 時間があれば原因を探りたいけれど今はそんな時間はなかった。

 何よりほかにもジャイアントがいる。

「そいつも頼みます」

 グランデニューに告げて、他の狂靭化したジャイアントへと向かう。

 最中、

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 周囲のジャイアントの雄たけび。僕が元に戻したジャイアントを中心として連鎖するように雄たけびが続く。

 そうして全てのジャイアントは元の姿に戻っていく。いやジャイアントだけじゃなく狂靭化していた魔物たちすべてが元の姿へと戻っていた。

 何が起こったのか分からない。

 狂靭化が一時的な症状だったのか、それとも僕が元に戻したジャイアントが発生させていたのか、何もかもが不明だった。

 けれど考えるのはやめる。これはチャンスだった。

「一気に殲滅するよ!!」

 大声でシッタとアルルカに伝える。

「「「「「「応っ!」」」」」

 ふたり以外の冒険者も呼応した。

 ちょっとそれに戸惑うけれど、これなら殲滅できるだろう。

 魔物の数が減っていく中、周囲を見渡すと冒険者の数も減っているように見えた。

 殺された、のではないと気づくと同時に冷や汗。

 救うためとはいえ、僕の行動が敵の行動をも手助けしていた。

「シッタ。アルルカ。ここはほかの冒険者に任せて引き返すよ」

 シッタもアルルカも周囲を確認して理解。僕たちが来てから見当たらなくなった冒険者は僕たちが来た方向へと毒霧を抜けて進んでいったのだろう。その場所は毒霧が薄い。それを見抜かれたのだ。

 きっとその中にはディエゴもいるだろう。

 無事でいて、と願いながら僕は来た道を引き返していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ