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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
363/874

二百

32


「大変なことになったである」

 レスティアに集まる二百人を超える冒険者たちを見てイロスエーサは【電波】で大草原に待機している集配員へと通信を繋げる。

 レスティアは課金籤のおかげでそれなりに賑わっていたがそれは数日前までの話。

 レシュリーが課金籤屋を追い込み開店休業中になってからは閑古鳥が鳴いている。

 類似の課金籤屋もできてそれなりに賑わったこともあったが、ニヒードが仕入れたほどの目玉はなく、規模を縮小するか閉店するものもあった。

 それに比例して冒険者の数も減っていたはずだった。

 けれどイロスエーサが訪れたその日は冒険者の数が賑わっていた頃にまで回復していた。

「何が起こったであるか」

 イロスエーサがレスティアに訪れたのはただの偶然にすぎない、けれどそれがレシュリーたちにとっては僥倖ともいえる情報をもたらすことになる。

 偶然、立ち寄った冒険者を装って、集団のひとりへと話しかける。

「籤石の配布イベントさ。前金で一万籤石。見事達成したら百万籤石貰えるニヒードさんが打ち出した一大イベントだよ、うおおおお、燃えてきたー」

「イージーですぞ、こんなの。とっととクリアして百万籤石はワタクシがもらいますぞ」

 配布イベントの詳細は立て札に書かれていたためイロスエーサも読んでみる。

 参加条件はランク2限定と、不問に分かれており、まずはランク2のほうに目を通した。

『ネイレスに触れる。なお、ネイレスは人形の狂乱に挑戦中』

 その文字に驚きながらも不問のほうを見る。

『アリテイシア、ヴィヴィネットの両方に触れる』

 そう書かれていた。

 触れる、と書いてあるが意味もなく三人が触らせてくれるはずもない。

 触るためには動きを封じる必要がある。そのためには戦って多少は痛めつける必要も。

 しかも達成報酬は十名限定という狭き門だ。

 そのせいで丁寧に説明して交渉を、なんて時間はないと考える。余裕が奪われ、冒険者らしく戦って、もしくは少し卑怯だけど仲間を人質にとって触れるしかない、という短絡的な思考に陥っていた。

 これのずるいところは触れる手段について何も書かれていないところだ。

 ニヒードはただ触れるということを条件にしている。

 触れるために何をしようがどうなろうがそれは参加した冒険者の責任になる。

 無謀だと思うなら参加しなければいいだけ、参加してケガをしたから責任を取れは冒険者の間では迷惑だとしか思われない。

 前金だけ受け取って止めるというも手ではあるが、受け取った手前、挑戦しないなら臆病者とののしられるだけだ。

 結局受け取ってしまった時点で、ニヒードの思うがまま、前[十本指]の武器を奪う作戦に加担させられてしまうのだろう。

 その作戦のことも、作戦がいつ発動するのかもイロスエーサには分からない。

 極秘依頼が課金籤に関係しているというところまで掴んだが今のところそれ以上の進展はない。

 それでも課金籤屋の雇われ店主ドーラスが参加を表明した冒険者たちに籤石を配っているのを見てイロスエーサは推測する。

 最悪今日、良くて近日中には二百人を超える冒険者が大草原にやってくる、と。

 ディエゴもおそらくそのぐらいだろうとイロスエーサは推測していた。イロスエーサが情報を漏らすことはないが、集配社は救済スカボンズだけじゃない。資質者の動向を仕入れるぐらいは三流でもできる。

 だとしたらこの軍勢はレシュリーにとって都合が悪い。

 情報さえ揃えば誰にでもできる予測を立てたイロスエーサはそうして大草原へと【電波】を繋いだ。

 

 ***


 休息を終えたイチジツたちがテントから出てくる。

 ディエゴの目的は不明だけれど強さは大体わかった。

 でもそれは想像の強さ。実際に戦った人がいるなら聞くのが手っ取り早い。

 僕はみんなが回復するのを待ってざっくりとそれまでのことを総括。

 それからみんなに話を聞いていく。

 誰もが強いと口を揃えて言ったあと、ディエゴの戦い方について教えてくれる。

 そうして分かったことは三つ。

 一.無詠唱に近い魔法詠唱。

 ニ.魔巻物を使って防御。

 三.打術技能を使用。

 戦い方を整理しながらも三.については苦笑い。クレインが教えたことで魔法士系複合職(スタンダード)の技能として広まり、それを使ってきたことになる。【加速】もあいまって破壊力がありあまるらしいので、それの対策が必要そうだ。

 ニ.に関してはどのぐらいの量を持っているか分からないから対策の仕様もなくその場で対応していくしかない。

 一.については――

「我策有」

 イチジツが言う。

「キセルさんとマツリさんが避ける方法を残してくれたんです」

「それはどうやんだ?」

 シッタが興味ありげに舌をなめずる。アリーやアルも若干前のめり。

 ディエゴとの戦いにおいて前衛となるであろうアリーやアルたちにとってもそれは有益な情報だった。

「杖頭のプリママテリアが発光する瞬間を見極めて避けるのだそうです」

「それはディオレスもやっていたがあったでござるな。魔法が発動する向きを予測して避けるだけという単純ながらにして高度な技術でござる」

「なんか一回自慢げに話してたことあったわね、そういえば。鬱陶しくて聞いてなかったけど」

「ちなみにコジロウはできる?」

「やったことがないので分からぬでござるが、早さよりも経験や勘の鋭さが必要な気がするでござる」

「できるかどうかはともかく時間があれば練習しておいたほうがいいですね」

 口々に意見を交換してその場は一旦解散にした。

 時間がどのくらい残されているか分からないけれど休息もまだまだ必要な人もいた。

 それに一向に帰ろうとしないタフブプさんや、戦う力はあっても冒険者を辞めたグラウス、マリアンをどうやって守っていくかも考える。ヴィヴィやルクス、マイカを戦力として数えるなら、何かしらの方法を考えたかった。

 時間は限られているのに、明らかに足りない。それにディエゴの無詠唱に近い魔法へと対抗策も不完全だ。マツリさんやキセルさんが避け方を残してくれたとはいえ、それには経験が加味されている。技量不足とは思ってないからこそ教えてくれたのだろうけれど、経験は不足している。

 リアンが比較的詠唱が速い魔法を展開して、アルたちが練習しているけれどそれで補えるかどうか不明な以上、僕も何かしら考えておく必要があった。

「あノ、レシュりーさン」

 僕がぶつぶつと考えていると後ろから声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには普段はなりを潜めているはずのヴォン・デ・ジュカが姿を見せていた。

 ローブで覆われていて最初に見たときは幽霊か何かだと思ったけれど、今も少し吃驚してしまう。

「火急の用件がイロスエーサさンから入ってまス」

 ヴォンは救済スカボンズの集配員のひとりでイロスエーサが残してくれた連絡手段だった。

 彼の【電波】でアルたちの近場にいる救済スカボンズの集配員と連絡を取り、アルたちと合流したのだ。

 そんな彼が再び姿を現して【電波】でイロスエーサと繋げる。

『レシュリーさんであるな』

「慌てた口調だけどどうしたの?」

『そっちに冒険者が二百人ぐらい向かっているである。狙いはヴィヴィどのとアリーどの、それにネイレスどのである』

「ヴィヴィとアリー……ネイレスさんも? どういうこと?」

『狙いは調べてまた連絡するである。ただ課金籤屋が絡んでいるであるな』

「僕への嫌がらせとか……そんな単純なわけないか……」

『それにディエゴがそちらに向かっているという情報も掴んでいるである』

「うん。でも情報くれてありがとう。これで目処がついたよ」

『何の目処であるか?』

「いや、こっちの話。イロスエーサは課金籤屋の狙いを探っておいて」

『助太刀は不要であるか?』

「戦わせるわけじゃないけれどヴォンさんを貸してもらえれば。あと人員に余裕があるならネイレスさんのほうに」

『了解である。どうやらその二百人も動き出したである。ご武運を』

 言って通信が切れる。

 僕はヴォンを含めてみんなを集める。数時間後にはもうディエゴも二百人の冒険者も襲来する。

 目的が違うため、共闘はしないと予想。

 そのうえでイロスエーサがもたらした情報と合わせて二百人に対抗する作戦を練り、伝える。

 全員がその奇抜さに驚く。ここが大草原という利点を存分に使ってタフブプさんたちにも役に立ってもらう。

 まず第一に僕はスキーズブラズニルを空へと展開。乗っていたジェニファーに大声で伝言する。

 作戦の始まりだった。

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