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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
362/874

何者


 31


 どういう護衛をするか、僕は数日間考えていた。

 ディエゴの強さは分からないけれど、たぶん生半可では勝てないように思える。

 それに護衛対象はもはやゲシュタルトだけではなくなっていた。

 ゲシュタルトの護衛を決めた数日後、アルやヴィヴィ、それにラインバルトから連絡があった。

 アルは旅先で〈雷質〉に遭遇。ヴィヴィは〈光質〉とイチジツさんが海から降ってきたところを救出したのだという。アルとそれにイチジツは他にも伝えたいことがあるらしかったが、何よりもイロスエーサの部下の言伝で僕がゲシュタルトの護衛を引き受けたことを知り、大草原に向かっているらしい。

 ふたりからの報告は大草原についてからだ。

 意外な連絡はラインバルトから。

「お前には頼りたくなかったが」というのはシャアナが異様に僕に好意的だからかもしれない。

 シャアナが連絡せずにラインバルトが連絡してきたっていうのもそこに絡むのかもしれないけどそれはともかく、ラインバルトもイロスエーサの部下によって僕が護衛依頼をしていることを知り、連絡してきたらしかった。全員がイロスエーサの部下の【電波】によっての通信だった。

 それを聞いたアリーは余計なことを、とイロスエーサにため息をついていたけれど、僕にとってはある意味で懸念材料が減った感じではあった。

 狙われたと聞いたときからシャアナやイチジツさんのことは心配だったし、資質者を狙っているのならまた狙われる可能性だって十分にある。

 一か所に集まる危険性は重々承知だけれど、僕のいないところで死んでしまったら救うことすらできない。

 守るためには、救うためにはやっぱり僕の目の届くところにいてほしいのだ。

 だとしたら僕が四人の護衛を引き受けるのが手っ取り早い。

「どう見ても人手不足よ」

「大丈夫だよ」

「どう、大丈夫なのよ」

「アルルカたちにも助っ人を頼んだ」

「このたらし」

 アリーは割と本気で怒って僕を殴ってきた。アルルカの実力は僕もアリーも十分知っているはずだ。

 何をそんなに怒っているのか。まあ、だいたい察しはついた。

「アリーを一番頼りにしてるからね」

「うっさい! 分かってる!」

 今度は顔を真っ赤にして殴ってきた。結局殴られたけれど心地が良かった。


 ***


「一度戻ってくるんや」

 連絡を待っていたジェックスにニヒードは偵察用円形飛翔機ドローンでそう伝える。

「口頭では伝えれないことなんですか?」

「そんなことはない。ただ、さすがに残り三本を手に入れるにあたって四人では心もとない。そうやろ?」

「ええ、まあそうです」

「そこでや。人員増強や」

 ジェックスは珍しいと思った。極秘依頼をしたときにニヒードは応募してきた冒険者すべてを雇うのではなく人を選んだ。もし人員増強の意図があるなら、最初から全員雇うべきだ、とそう思ったのだ。

「今更っちゅー顔しとるな? そもそも最初から増員するなら面接なんてするな、って感じや」

「いえ……、はい。まあ」

「ま、簡単なことや。全員を雇ったら金がかかる。経費削減は当然やろ」

 商人として生きたことのないジェックスにはそれだけは当然意味が分からない。

「今回出す依頼はお前らの手伝いやからな。それも報酬は籤石や。籤ができるだけの石っころ。でもそれを欲しい奴らはごまんと集まった。課金中毒の連中や」

 確かにそれだと極秘依頼の依頼料よりも何倍も安く済むうえに、籤の景品が大当たり以下なら、はっきり言って冒険者たちはただ働きになる。

 なのに、結構な数が集まったという。課金籤に興味がないジェックスとしては魅力が全然分からない。

 つまりジェックスはそんなどこの誰ともしれない課金中毒冒険者のお守りもさせられるのだ。連携もあったものでもないが、壁ぐらいにはなるだろう。

 そう割り切ってジェックスはひとまずレスティアへと帰還する。


 ***


「レシュリーさんはディエゴについてどれぐらいご存知ですか?」

 日が暮れる頃にやってきたアルたちはそう言った。

 イロスエーサ配下――救済スカボンズの集配員(レポーター)に使ってもらった【電波(レパシー)】による連絡でだいたいの位置は聞いていて場所的には一番近くだったアルたちだけど、ユグドラ・シィルにでも寄ってきたのだろう、アルたちがついた頃にはもうみんながとっくに到着していた。

 最初にやってきたのは助っ人を頼んだアルルカにモッコスとモココル。アルルカの仲間であるふたりも当然ついてきてくれるだろうと計算に入れていた。

 おっとりしているようで狩士のモココルの多彩な戦い方は知っているし、モッコスの筋肉も存外に役に立つ。課金籤の件では何度もお礼を言ってくれたはずなのにまたここでもアルルカはお礼を言ってくれた。

 次にやってきたのはヴィヴィ。ヴィヴィはイチジツさんと〈光質(ライトポテンシャル)〉のアズミさんを連れてきた。それにもうひとりタブフプという道化師もくっついてきた。手にはピーボルくんという人形を持っている。「女の子がいっぱいだ」とその人形は喋った。少し驚いているとヴィヴィが自分の師匠だと紹介した。冒険者ではない彼は戦えないのについてきたらしい。若干、イヤな顔をしておく。

 次にラインバルトとシャアナがやってくる。空中庭園から帰る際に遭遇して命を狙われたらしい。不運としか言いようがない。

 それでも殺されないために、とラインバルトは僕を頼ることを決めたのだという。

「いいか。絶対に守れ。死んでも守れ」ラインバルトは何度もそう言った。原点回帰の島からずっと旅をしていたヒルデとシメウォンよりもシャアナを生かした。その責任に突き動かされているようだった。

 ネイレスさんたちはとっくに人形の狂乱(ドールズカーニバル)へと向かっていてここにはいない。

 とはいえネイレスさんたちがいつも作っている簡素な野営地はそのまま残してある。もし移動するならテントを畳んで移動しなければならない。

 位置が知られている可能性があるから、全員がそろったらまずは移動しようと思っていたのだけれど、ディエゴから逃げてきたアズミさんたちは疲れている様子。特にラインバルトの顔色はひどい。

 たぶん、大丈夫。と楽観的に決め込んで休むことを進める。誰も断りはしなかった。

 アズミさんたちが男女に分かれて休息を始めてしばらくした夕暮れ、そこにアルたちがやってきた。

 アルとリアンと〈雷質(サンダーポテンシャル)〉のジージロンダ。

 そうしてようやく話は戻る。

 アルの問いかけに

「資質者を狙っていること以外はほとんど知らない。あとランク7だって聞いた」

「なぜ、資質者を狙っているか、はご存知ですか?」

「知らない。アルは知ってるの?」

「いえ。俺も……ただ、俺とリアンはもう少しだけディエゴを知っています」

「知り合い、ってこと?」

「ええ。随分と昔。原点回帰の島にやってくる前の話です」

 僕にアリー、コジロウとアルルカ、モココル、それにジージロンダにリアンが話を黙って聞いていた。リアンは聞く側というよりも話す側だろうけれど。

 ちなみにほかの人はテントで疲れを癒すため寝ており、モッコスは暇だからと夕食を狩りにでかけていた。

「それってリアンの出自に関係あったりする?」

「ええ。でも大丈夫です。集配社(ライブラリアン)によってリアンの正体は知れ渡っていますし、何かあれば俺が守ります」

 さらりとそんなことを言ってリアンは大いに照れていた。アルはなぜ顔を赤く染めたのか理由がようやく分かって、照れた。

「いいから。続き話しなさいよ」

 アリーが見てられないと続きを促す。アルは咳払いをして、

「ええと、ディエゴは……正直に言えばリアンの兄にあたります。腹違いの、ですが」

「……想像の斜め上を行き過ぎてよく分かってないけど……本当ってことでいいんだよね?」

 リアンに問いかけるとリアンは頷く。

「ディエゴ・レッサ―・フォクシーネっていう名前で、父と側室の方から産まれた子らしいです」

「なるほど。でもそのリアンのお兄さん的な人がどうして資質者を倒して回ってるんだろう……ってそれはまだ分かってなかったね」

「っていうかそいつは今までどこにいたのよ。ランク6が最近まで封印の肉林(シールフォレスト)から脱出できなくて、最近になってうじゃうじゃ出てきたのは知っているけど、ディエゴはランク7なんでしょ? ブラギオは情報をつかんでいたのかしら」

「でも掴んでいたのなら[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]に選びませんか? 他の集配社(ライブラリアン)だってそんな情報を一番に手に入れてたなら“ウィッカ”の鼻を明かそうと情報を開示そうなものです」

「そうね、イロスエーサも知らない感じだったわ」

「異端の島にいたとかでござるか? あそこなら未知の島でござろう?」

「俺たちは数年前に行方不明になった時点で、ディエゴは死んだか、異端の島に捕らえられていると思っていましたが、違うようです」

「だとしたら~、う~ん、どこだろ~。誰も知らない場所にずっといた、とか~? でもそんなところなんてあるの~?」

「そういえばディエゴは言っても分からないとは言ってました」

「原点草原みたいなところがあるのかもね」

 僕はぼそりと言う。原点草原の仕組みについてアルたちは知らないようだったので、ランクによって進める場所が存在することを説明しておく。

「あんなところそうそうないとは思うけれど、確かにランク7がポッと出てきたってことを鑑みるとその可能性が高そうだわ」

「拙者たち、というよりランク5では認識できないところでござるか。いやブラギオが知らなかったところを見るとランク6でも把握できない場所なのかもしれないでござるな」

「どこから出てきたかを推測しても無駄ってことか。どこから出たかによって目的が何かわかりそうかもと思ったのに」

「それよりも作戦を考えなさいってことね」

「作戦か。正直、ディエゴが強いってことはイメージできてもどのぐらい強いのかイメージができないんだよね。アリーと比べてどっちが強いの?」

「そこは自分と比べなさいよ」

「でもアリーのほうが強いのは事実だから」

「おそらくではなく、確実にディエゴのほうが強いと思います」

 アリーとディエゴ、ふたりの実力を知っているアルが告げる。

 それだけでヤマタノオロチやDLCを使ったブラギオたちよりも強いのだろうとなんとなく分かった。

「アル、それにジージロンダさん。実際戦ってみて何を使うのか教えて」

 それにラインバルトやイチジツさんにもどんなふうに襲ってきたのか聞かなければならない。

 もうそれしかヒントがない。それを聞いたうえで対応策を考えよう、僕はそう決める。

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