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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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双子


27


 ジージロンダとヂーヂロンダ。

 発音だけでは分からない名前は差がなく育つように、と想いを込めて名付けられた。

 ルルルカやアルルカ、パロンにポロン、一字違いの双子は双子の名前としては定番。

 そういう有名な双子の名前で考えると字で書けば違うのに音では一緒なんていうのは珍しい。

 それでも同じ名前というのがヂーヂロンダにはなぜだか嬉しく思えた。

 とはいえそんな双子も育つにつれ、差が見えてきた。

 幼いヂーヂロンダが知ることはないが、ジージロンダには才覚があった。

 冒険者は早い時期から親元を離れ、原点回帰の島での生活となるから親の反応は分からない。

 けれど差を嫌う親なら気遣ってくれたからもしれない。でも周囲にいるのは他人ばかり。

 弟ばかりがすごいと言われ、教師に褒められヂーヂロンダは明らかに卑屈になった。弟のことが嫌いになった。

 それでも自分を頼ってくれる弟を突き放すことはできなかった。ひとりでやれば、自分よりうまくやれるくせに何かとヂーヂロンダを立てる。そんな弟だから嫌いになれなかった。

 それが情けなくて情けなくてたまらなかった。

 そんなおり、ジージロンダの才覚が発覚した。〈雷質〉。

 そうなると周囲の反応は一変する。

 だからジージロンダはできる人間なのだ、と。あのぐらいできて当たり前なのだ、と。

 周囲の人間やヂーヂロンダが苦戦する魔物をすんなり倒せるのはそのお陰だった、と気づく。

 いいなあ、という羨望が、ずるいなあ、という嫉妬に変わった。

 ヂーヂロンダを含めてジージロンダの周りには才覚に嫉妬を覚える人間が多かった。

 ジージロンダに向けられる嫉妬の視線は増え続けた。

 目に涙をため、まるで迷子の子猫のような顔を向けてきたジージロンダをヂーヂロンダは拒んだ。助けてという視線を無視した。

 それが原因だったのか、ジージロンダはあばら家に引きこもって数年は出てこなくなった。

 だからと言ってヂーヂロンダは悲しくもなかった。比較されなくなっても嬉しくもなかった。いなくなった弟に対して急に無関心になった周囲にも何とも思わなかった。

 ただただジージロンダが引きこもったのは自らの才覚に押しつぶされただけだ、そんなことを思った。

 そんなある日、ヂーヂロンダは元犯罪者の男と出会う。テヘロと彼は言った。

 彼は罪を償って集落に戻ってきたが、妻にも子どもにも拒絶され、村人には石を投げられ、居場所を失って倒れていた。

 罪をいう烙印を押されたテヘロと才覚という力を与えらえた弟が被る。

 テヘロもジージロンダも与えられたものは違うが似たような苦しみを持っていた。

 ジージロンダの悲しみの全てを理解したわけではない。

 それでもヂーヂロンダの足は弟が引きこもる家へと向かっていた。

 弟はそこで死んでいた。いや死にかけていた。

 いよいよとうとう生きている意味も見いだせなくなったのか自殺しようとしていた。

 ヂーヂロンダがもし今日テヘロと出会ってなかったら確実にジージロンダは死んでいただろう。

 自殺未遂に留めるべく治療しながらもヂーヂロンダは泣きわめき、今までのことを詫びた。

 ジージロンダは回復しそれ以降自殺しようとはしなかったが、どことなく翳りを帯びたように見えた。

 自分が望む望まないにしろ嫉妬を受けていたことにショックを受け引きこもっていたジージロンダは周囲の人間の抱える悩みを理解しえなかった。

 才覚持ちのジージロンダにとってはそれがごく当たり前だったから。

 だからヂーヂロンダの気持ちを知って、反省した、落ち着いた。自分にも非があったと認めた。

 けれど割り切れはしない。才覚は持って生まれたものだ。失うことはできない。だとすれば自分はずっと才覚を認めてくれない人たちの嫉妬を受け続けなければならないのか。

 それに耐えうる人間もいる。けれどジージロンダはそうではなかった。

「大丈夫だ。心配しやがるな」

 不安を口にした弟にヂーヂロンダは言った。

「俺が作る。お前みたいなやつらが集まる場所を作ってやる。だから、お前はいつかきっときちんと向き合ってくれる人を待ちやがれ」

 そうして作られたのが雷牙団だった。最初の団員は三人。ジージロンダとヂーヂロンダとテヘロ。

 テヘロは夢半ばで、志をふたりに託して死んでしまったけれど、そこから仲間は増え続けた。

 そのせいで悪事に身を染める必要性に迫られた。きっちりと物資を確保する前に、地盤を作る前に仲間が増えすぎたのが原因だった。それでも生きなければならない。

 集落の人間は知らないことだがそのうえでヂーヂロンダは雷牙団にひとつのルールを作る。か弱き人は殺さない。殺していいのは悪人に限る。

 今まで集落を襲っても殺してきたのは一見善人でも悪人ばかりだった。

 臓器売買をする孤児院の院長や、患者で自分の欲求を満たす医者、私服を肥やす村長。そんな奴らを殺して強奪を繰り返した。

 か弱い人に該当する人からも食料は奪ったので決して善人ではなかったけれど。

 理解者は本当に現れてくれるのか、時にはそう思いながらもヂーヂロンダは生きてきた。ジージロンダを誰か認めやがれ、と心は叫びたがるどころか叫んでいた。

 そこに現れたのが殺戮者だった。ディエゴだった。

 ディエゴは〈雷質〉を含む資質者の自分へと攻撃を恐れて、先に攻撃を仕掛けている。

 それは裏を返せばジージロンダの強さを認めている証左でもあったが、ヂーヂロンダにとってはそんな理解者より手と手を取り合って、一緒に研鑽しあってくれる理解者を求めていた。

 お前のような人間は理解者とは言いやがらねぇ!

 ディエゴへと折れた牙を向けて、振りかぶる。

 ザシュ、と斬れたのはヂーヂロンダのほうだった。ディエゴの【光線】だった。瞬時に身を逸らさなければ即死だった。

「どうして、そんな威力がでやがるんだ」

「日々の努力の賜物に決まってんだろうがッ」

 さらりと言ったディエゴの言葉に痛感する。

 誰しもが努力をしていると思っていても努力を真にしているものからすれば努力とすら呼べない、呼ばない程度の努力しかしてない場合がある。

 ヂーヂロンダは圧倒的な差を通じてそれを思い知った。

「だとじても、弟は殺させやがらねぇぞ」

 血交じりの唾をディエゴへと吐いて、一矢報いるためにヂーヂロンダは再び宿していた【突神雷】を解放。切っ先から解放されるその魔法をぐるりとディエゴは潜るように身を低くして回避しながら数歩で近寄る。

「なんだよ……」

 ヂーヂロンダは呟く。ディエゴの卓越した技量に。

 ……ではない。

「俺にもありやがったのかよ……」

 自らに宿る才覚を悟ったから呟く。自分には宿ってないと思いこんでいた才覚を今更自覚して。

 【分析】したりされたりすれば自覚なしに才覚を知ることもできたかもしれない。

 けれどヂーヂロンダはジージロンダのふりをするために正体を隠す必要があり、保護封を必要以上に持ち歩いていた。

 ゆえにヂーヂロンダが才覚を知るには自覚する以外にあり得なかった。

 そのあり得なかったことが今、起こった。

「ありやがった、ありやがった!!! ハハハハ、ありやがった!!」

 動きを止め、ヂーヂロンダは笑う。

 その不気味さにディエゴも動きを止め、警戒。

 ヂーヂロンダは笑いながら倒れる。しばらく笑っていたヂーヂロンダの笑い声がどんどん小さくなり、やがて死んだ。【光線】を避けたとはいえ、出血が多すぎた。興奮したことで血が止まらなくなり、致死量になったのだ。

 最期にヂーヂロンダが知った自らの才覚は少質(リトルポテンシャル)

 全質の劣化版とでも呼べばいいのか、全属性の魔法威力を少しだけ引き上げる才覚。弟のように雷属性を使っていたヂーヂロンダはそちらとばかり比較して、他の人よりも少しだけ優れていたことを知りもしなかった。

「なンだったンだ?」

 死に際にヂーヂロンダが才覚を自覚したことを知りもしないディエゴ。

 その目の前でヂーヂロンダにさらに変化が起こる。

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