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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
357/874

実態

26


「ペリカフィム、エンデッタ。合わせやがれ」

 その決断にジージロンダを制止していた浄剣のエンデッタは同調。ディエゴと互角とは言わないまでも致命傷を避けていた四つ腕のペリカフィムが頷く。

 エンデッタは死刃流に弟子入りする前に兄弟子になる冒険者と喧嘩になり破門となった【浄華塵】が得意な聖剣士で、ペリカフィムは悪の改造組織ジョーカーによって改造を施され復讐を成し遂げたが、異形な体が大勢に受け入れられるはずもなく、討伐対象にされ、ジージロンダのもとへと身を寄せた剣魔士だった。

 ジージロンダにその実力を認められているふたりが、ジージロンダに合わせて動く。

 放剣士たるジージロンダもすでに抜刀。魔充剣ライガーライガーは雷牙団の刺青のもとになっている魔充剣で、牙のように反りながらもくの字に逆くの字を繋げたように刀身自体が折れ曲がっていた。

 そんなライガーライガーに宿るのは攻撃階級5【突神雷】。ヴァシィ、ヴァシィとライガーライガーに宿った【突神雷】が怒号を響かせる。

「覚悟しやがれ」

 四つ腕のペリカフィムが四つの剣を前に突き出し、駆けだす。その後ろにはエンデッタ。最後尾がジージロンダ。

 四つの剣は剣先を合わせまるで四つ刃の掘削機のように見える。自動的に回転はしないが一点を突き、そのまま手動で同じ方向に回すことで攪拌器具(ミキサー)のように肉を抉り血管をブチ破ることは可能だった。

「甘ェよォ!」

 ディエゴが当然、そんなことをさせるつもりはない。

 神速展開された【弱火】がそのままペリカフィムを焼き尽くす。マツリやキセルのようにすんでで魔法詠唱を見切り、避けてきたペリカフィムも仲間が後ろに、特に団長が後ろにいるとなれば避けれない。ディエゴの魔法詠唱を視認できていれば可能だが、ペリカフィムの背が視認を阻害した可能性もある。

 燃え尽きる前にペリカフィムは前進。自らの全身を肉壁として後ろにいるふたりを覆い隠す。

 エンデッタとジージロンダがその壁から左右に割れて突撃。

 エンデッタの【浄華塵】とジージロンダの【突神雷】が宿ったライガーライガーの同時攻撃。

 だけじゃない、ペリカフィムはなおも前進。火傷どころか現在進行形で燃焼しているにも関わらず、四つ刃の突きを崩さずペリカフィムはただただ前へと進む。特攻する。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 それはある意味で吶喊だった。ジージロンダとエンデッタの士気は否応がなしにあがる。もちろん残りわずかとなった雷牙団の士気も。

「覚悟しやがれ!」

 ライガーライガーの雷を纏った牙がディエゴに噛みつく。

 寸断。

ヴァシィと轟いていた雷鳴がまるで泡が弾けたように消失。

 極小の【耐雷壁サンダーレジストウォール】がディエゴの前に展開されていた。

 一定の大きさで出現し、雷属性の攻撃を緩和するその援護魔法をディエゴはわざわざ小さくして、ライガーライガーの射線上に置いておいた。

 さすがに戦闘中の一瞬でジージロンダは気づけない。

 【耐雷壁】を展開してすぐ、刹那の瞬間、ディエゴは【硬化】も展開。黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕に圧倒的な頑丈さが備わる。

 雷を消失させ、脆さしかないライガーライガーの未来は見てとれた。まるで美味しいお菓子を延々と食べてしまうように勢いは止めれない。止められない。

 ヴぉぎんと鈍い音。通常の剣と比べて脆い魔充剣が刀身の中腹あたりからふたつに折れていた。

 しかも不運にも折れた刀身の切っ先がジージロンダの顔へと突き刺さっていた。

 絶命こそはしないものの目をざっくりとやられ失明は免れないでいた。

 だがジージロンダはこう考える。手痛い出費を払ったが、ジージロンダの一撃に対応するためにエンデッタとペリカフィムの攻撃には対応できていない、と。

 ジージロンダ、エンデッタ、ペリカフィムの三人をひとりだと見做せば、まさに肉を切らせて骨を断つ戦法。

 がそれは見通しの甘かったことだと知る。

 エンデッタは【硬化】直後に展開した【微風】で腕どころか胴体を切り刻まれ、即死。ほぼ死に体のペリカフィムは武器ごと【直襲撃々】で破砕されていた。

勢い余って二人の死体がディエゴの後ろへと流れていくなか、ディエゴはこう尋ねた。

「本物のジージロンダはどこにいる?」

 ジージロンダにわずかに動揺が走る。 

 それを悟られないように隠して

「俺がジージロンダだ!!」

 叫ぶ。

「いいや。お前はジージロンダじゃない、双子の兄のヂーヂロンダだ」

 発音だけでは名前の判断がつかない。けれどディエゴはとっくに看破して双子の兄を付け加えていた。

 ジージロンダにヂーヂロンダという兄がいることをディエゴはエンドコンテンツで手に入れた情報で知っていた。ただし顔は精緻。黒子の位置でさえも同じ。体格も一緒とくれば見分けるのは難しい。

 それでもある情報を手に入れていれば、極端に難易度が下がる。

「さっさと弟を出せェ!」

「初めから分かりやがっていたわけかよ、俺がヂーヂロンダでジージロンダではやがらないって」

「初めからじゃねぇよォ。戦ってからだ。兄のてめぇのほうが放剣士。弟のほうが魔道士だろうがよォ! それさえ知ってれば、ガキだって解けンぞ!」

 ヂーヂロンダはそれを隠ぺいしてきたつもりだったがあらゆることを知れるエンドコンテンツならばそれも意味がない。

 情報屋ですら知らないことをディエゴが知っている。そのことにヂーヂロンダは恐怖を覚えた。

 その反面、ジージロンダの居場所は知らないというのだから不思議だ。

 エンドコンテンツはあらゆる情報を知れる反面、ある程度ざっくりとした情報しか得られない。ジージロンダがこの付近に潜んでいると分かっていもどこにいるかまでは正確に分かっていない。

 挑戦状は自らが届けたのではなく、実際には依頼して届けさせたのだが、そのあとを追尾したりして居場所を知るのはディエゴ的には面白くない。

 だから穴倉に煙を焚いて動物を炙り出すように確実に関係者だと思える人を脅したりしてディエゴはざっくりとした場所で目的を探していた。

「いいから早く弟のほうを出せやァ!」

「はいそうですかって言いやがると思いやがるなよ」

 ライガーライガーの折れた牙を振りかざし、【突神雷】を宿す。

「そんなに雷属性を容易に宿していいのかよォ。見る人が見れば偽者だってわかるぜェ」

 その程度の力しかヂーヂロンダにはない。

「黙りやがれ! それでも俺はよ、弟を守るんだよぉ!」

 それは兄だから。

 家族だから。

 傷つけてしまったから。

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