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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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雷牙

25


 アデス川には雷牙団がいる。

 いつしかアデス川周辺の名もなき集落にはそんな噂が流れるようになった。

 雷牙団は河賊だった。

 山を縄張りにするのが山賊、海を縄張りにするのが海賊。拠点を持たずその場しのぎのように盗みを働くのが盗賊。そんな分類をするのなら河川を縄張りにするのが河賊ということになる。

 周囲の魔物を狩るだけならそんなことは言われない。

 ときには川辺の集落を襲い、川釣りをしていた村人の収穫物を奪う。

 そんな悪事も働くから雷牙団は河賊と呼ばれている。

 雷牙団は誰しもが頬に雷を模倣した牙の刺青を入れて、周辺の人々はその刺青を見たら近づくなと警告していた。

 そんな彼らを率いているのが雷牙団団長〈雷質〉のジージロンダ・コーミッシェルだった。

 雷牙団を作ろうと思ったのはなんてことはない。

 その才覚ゆえに仲間外れにされたのがきっかけだった。

 嫉妬、あるいは劣等感。秀でているジージロンダを認めようとする人間が、皮肉にもジージロンダの周りにはいなかった。

 居たらおそらくジージロンダは河賊なんてやってないだろう。夢物語かもしれないが[十本指]の一角にでもなっていたかもしれない。そんな未来もあったかもしれない。がジージロンダの今は、過去のめぐり合わせでできていた。ジージロンダの過去の環境が今を形作り、はぐれ者たちをまとめる雷牙団の団長に収まっていた。

 雷牙団は仲間外れになっていた冒険者や冤罪で追われた冒険者、罪を償ったのに許してもらえない冒険者、そんな行き場のない冒険者を集めて作られていた。

 本当なら傭兵集団として戦場を転々とするのが目的だった。

 けれど真っ当に生きたいという思惑を周囲の環境が許さなかった。

 あいつらは真っ当な道から外れてきたから、信用ならない。言われずとも雷牙団を見る目がそう言っていた。

 依頼もろくに受けれないから常に金欠で、食糧難。

 だから賊まがいのことをやって生きるしかない。

 盗み追剥ぎ、殺して奪いを繰り返しても、それは解決されない。

 道を外れた者は意外と多い。そしてジージロンダは彼らを絶対に拒まない。

 拒まれたときの悔しさ、哀しさを自分が知っているから。

 勢力が拡大してもジージロンダはアデス川流域から出ようとしない。

 道を外れてもなお、ルールは守れると証明するように、守ってみせると意地になるように、自分に、そして雷牙団に課していた。

 そんな自分たちを見て、誰かが自分たちを受けれ入れてくれる、依頼をくれて、活躍させてくれて真っ当な道へと拾い上げてくれる。

 それこそ夢物語だとしてもジージロンダはそう信じていた。

 なのに。

 アデス川は血に染まっていた。大量の血。

 まるで伝奇にでもなりそうなほど、川が赤く染まっていく。

 目の前でデシュアが斬られた。

 知識と経験を多く吸収できる才覚〈白眉〉を持っていたせいで仲間から嫉妬され、魔物の群れに置き去りにされた冒険者だった。

 変わりに毛が白くなってしまうなんて悩みを置き去りにした仲間たちは知りもしないだろう。

 デシュアに恋をしていたゴゴリドが突撃。一瞬で追い討ちを受け、肩と足、頭の一部に穴を穿たれ即死。

 ゴゴリドは〈汚濁〉という呪いに悩まされていた。汚れがなかなか落ちず臭いが蓄積するため迫害を受けていた。

 ゴゴリドに続いて、娼婦殺しのバリドー、闇医者ゲリゲデ、不倫相手を殴殺した元大工の冒険者ジャギアン、次々と殺されていく。全員が罪を償ったが世間から外されて行き場のなくしていた人間だった。

 その殺戮に巻き込まれて病弱なメリガールも死んでいた。メリガールの家庭は貧乏で、治療もろくにできないため捨てられた経緯を持つ。

 仲間の死に怒り狂いベベ、ジジ、ガガの三兄弟も突撃。

 同じ相手に惚れていた三兄弟は、その惚れた女に利用されていると分かっていても同時多段攻撃で惚れた女に不利益となる人物を抹殺してきた。

 そんな卓越された同時多段攻撃すらもすんなりと回避され、死んでいく。

「ああ、やめろ……もうやめやがれ」

 相手の目的はジージロンダの殺害だった。だから仲間たちはジージロンダの下へと行かせまいとその相手へと――ディエゴへと向かっていく。

 次々と殺されていく仲間達の姿をジージロンダは見たくなかった。

 行き場がなく自分を頼ってきてくれた仲間だ。そんな仲間が死んでいく姿を見ているのは辛かった。全員が逃げてくださいとジージロンダに仕切りに叫ぶ。そんなことできるはずがない。逃げれるはずがない。仲間を置いて逃げれるはずがない。だが立ち向かうこともできない。制止されている。前に出てむざむざと殺されたら仲間の死が報われない。

 それでもジージロンダは前に出る。ディエゴは目前に迫っていた。

 ならばここで逃げても無駄死にになる。決断するにしろ、何にしろ全てが遅すぎた。

 逃げるならすぐに逃げるべきだった。すぐに殺されるとしても戦うなら戦うべきだった。

 判断が決断が、何もかも遅かった。

 いよいよ、とうとうという時期になってようやくジージロンダは選択した。

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