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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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回数

 9


 宿の予約をした後、貯金を降ろした僕はそのまま課金籤屋へと向かう。

 課金籤屋はどこにあるのか迷うかと思ったけれど、すぐにわかるとジョバンニが言ったようにすぐにわかった。

 ジョバンニの護衛というわけではないけれどジェニファーを貸し出した僕はひとりで籤屋へと向かう。アリーはさも面倒くさそうに「修行してくる」と言い、コジロウもその付き添いだった。

 けれど正直その選択は正しい。籤屋の前は長蛇の列。

 極大当たりはまだ出ていないとはいえ、籤をするまえに何時間待たされるかわからなかった。整理札なんてものはなく、人によっては徹夜さえするらしい。それはあんまりしたくない。

 とりあえず列の最後尾まで移動しよう、少しばかり辟易しつつ歩く。

 籤屋の特徴はなんと言っても屋根に乗っかった大きな球体だろう。何度も何度もぐるぐると回る。

 その球体こそが籤の入った大きな箱だった。隙間から中を覗く。

 球体には取っ手がついていて、それを回すと球体が回り、開いている穴から手のひらに収まるほどの球が落ちてくる。

 白い球。

「当たりー、当たりー、当たりでーす」

「外れみたいなもんじゃあねぇかよ」

 愚痴る冒険者は当たり部屋に入っていく。そこにはいわゆる闇市場の不良在庫があるのだろう。

 どうやら出てきた色で判別しているらしい。店の前の看板にも書いてあった。

 極大当たりが金、極当たりが銀、大々当たりが銅、大当たりが黒で、当たりが白らしい。

 その横には景品リストと書かれた冊子が置かれていた。随分と分厚い。

 それを手に取ろうとすると

「レシュリーさん!? 来てくださったんですね!」

 見知った声。声の主を探そうと列を見渡すとそこには、

「アルルカ!? アルルカがどうしてここに?」

「ワシらもいますのぢゃ!」

 モッコスが筋肉を見せつけ、その間からモココルが手を振る。

「ジョバンニさんに呼ばれてきたんですよね?」

「そうだけど、どうして?」

「依頼を受けてくださったんではないですか?」

「いや受けたけど……」

 そこでピンときた。

 景品リストを手にとって極大当たりの景品を見る。

「そういうことか……。ようやくアルルカがいる意味が分かったよ。ジョバンニさんは景品がなんであるか言ってくれなかったから」

 これはどうしても手に入れないといけない。

 取り返さないといけない。

 極大当たりの景品は三つ。

 星岩の螺旋巻杖〔情熱の吟雄ジョー〕

 巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕

 匕首〔空庭の聖女ルルルカ〕

 それはヤマタノオロチを倒した、僕の、いや僕たちの偉大なる仲間、英雄の魂が受け継がれた武器だった。

 バルバトスさんは造った武器を遺族や仲間の冒険者に譲ることが多い。アルルカもルルルカを手渡されるはずだった。

 なのにそれは奪われ、そうして人々の好奇心を誘う道具として利用されている。

 それはまるでもてあそばれているような感じがして、怒りを覚えた。

「取り返して、くれるんですか?」

 ちょっとだけアルルカは涙目。

「ワシらはこれで五度目の挑戦。お金も何十万もつぎ込んだのぢゃが、一向に当たらん」

 よくて大々当たりらしい。

「ひとつ聞きたいんだけど、このぐらいの列だとどのぐらい待つことになる?」

「たぶん、今から並ぶと~夜になっちゃうかも~」

 五度目ということはこの長蛇の列をそれなりに体験しているだろう。体験者の推測なら大幅に外れるってことはないだろう。

 それだとどれだけの冒険者が挑戦することになるのか。当たってしまえばそこで依頼は失敗。依頼に失敗することは別にいいのだけど、本来、使うはずだった人へと渡らず、見ず知らずの冒険者に使われるのはなんかイヤだった。

「アルルカたちはもうすぐ挑戦できるんだよね? 籤石は買った?」

「いいえ、籤石は籤の前に買うので」

「だったらこれを」

 僕は【収納】から箱を取り出す。結構な重さ。

「これは?」

「中身を見ても驚かないでよ」

 ちらりと箱の蓋を開き、隙間から札束を見せる。

「こ! これ……もしかして全部札束なんですか?」

 中身を見て一瞬大声を上げかけたアルルカだけどすぐに声を潜める。

「そうだよ。ざっと一千万。これをアルルカに託すよ」

 今度は言葉を失って絶句するアルルカ。

「でも……当たらなかったら」

「当たれば万々歳だけど、これは時間稼ぎ。籤を他の冒険者にやらせないためのね。その間に彼女がくれば、きっと極大当たりは出ると思う」

 僕が今から並んでも夜になるなら遅すぎるからね、というとアルルカは少しだけ安心した。

 他の冒険者が手に入れる可能性を少しでも引き下げるなら、列のかなり前にいるアルルカたちに託したほうが効率がいい。

 そう考えての行動だった。

 しばらく待つとアルルカたちの番になった。極当たりはまだ出ていない。

「籤石交換お願いします」

 礼儀正しくアルルカが言う。

「いくらだい?」

「一千万イェンです」

 予想だにしなかった金額に店番の男が、後ろの冒険者が、結果に落胆していた前の冒険者が驚く。

「本気か?」

「本気です」

 バン! とアルルカは一千万イェンの札束を置いた。

「こりゃあぶったまげた」

 店番の男ドーラスはその札束が本物かどうか確認しながら数を数えだす。

 数十分を有して、確認したドーラスは興奮冷めやらぬ様子。

「確かに受け取った。で何回やるんだい?」

「やれるだけ!」

 アルルカは応えた。男はほらよ、と釣銭の100籤石のみを手渡す。

 それ以外の999万9900イェンは籤をするためすでに交換済みと見做されていた。

 籤を引ける回数は33333回。

 前代未聞の数字だった。

「帰るか……」

 アルルカが出した金額を見て後ろの冒険者はため息。

 今日中にはおそらく籤を引くことができないと悟ってしまった。

 後ろの冒険者が帰っていくのを見て、そのまた後ろの男がラッキーと言わんばかりに列を詰め、アルルカが回す回数を知って呆然として帰っていく。

 連鎖的にそれが起き、どんどん列から冒険者が離れ、その数が減っていった。

 比例するように観客は増える。映像投影機(モニター)が設置されているので、その周囲には人だかり。

 それだけやって、どのくらい当たるのか情報収集には持ってこいだし、純粋に興味もあるのだろう。

 アルルカが引く。ぐるぐると回す。球体が回る。

 穴から球が落ちてくる。

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