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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
339/874

依頼

8


 一方、

 ジョバンニの依頼で僕たちはその街へと足を踏み入れた。一度来たことはあったけれどそのときよりも様変わりしているように見える。

 宿を確保に行く傍ら、薀蓄のようにジョバンニが教えてくれる。

「ここは商業都市レスティア。ディオレスのアジトがあったから足を運んだことはあるとは思うけれど詳しくは知らないだろうから説明するけど死者の道具、武器が転送される闇市場が有名だ。闇市場っていうのは死者の【収納】していた武器や道具が転送される場所のことだ」

「そこから武器を仕入れていくわけですか?」

 商人たちの商売の一端に触れた僕は尋ねる。

「いわゆる中古品だけどね、もちろん、キミが使っていた武器なんかは死後、プレミア価格になったりする。値段は闇市場の管理人がそういう評判をもとに勝手につけてるらしい」

「新品ならジョバンニたち鍛冶屋から、中古品ならここの闇市場から仕入れるでござるな」

「ご明察。とはいえ評判で値段がつくということは無価値や低評価のものは不良在庫として残ってしまう」

「値段が低いから良品ではない、って判断して誰も買わないわけね」

「そう、仮に安いから仕入れても大した利潤は生まず倉庫を圧迫してしまう。冒険者のように【収納】は使えないからね」

「だとすると大量の在庫が闇市場にはあるんじゃあ?」

「昔はね。今はないよ。それこそ闇市場の在庫――不良在庫をどうするか、はこの街の課題だった。それをひとりの男が解消してみせた」

「もしかしてそれが課金籤ですか」

「その通り」

 いちいち街の説明を始めたジョバンニが無駄なことを話すわけがない、そう考えた僕の考えは正しかったようだ。対峙するにしろ、退治することになるにしろ、知識は必要だった。

 耳を傾ける。

「発案者はニヒード・ベルブリッジ。彼は闇市場に蔓延る不良在庫を使って、金儲けする方法――課金籤を考えたんだ」

「でとっととその課金籤とやらを説明しなさいよ。富籤や道具籤と何が違うのよ?」

 アリーが急かす言葉のなかに出た富籤は7桁の数字の書かれた籤を買い、当たり番号と一致すればお金がもらえるという籤で、道具籤は一律1000イェンで籤を引き、出た道具がもらえるというもの。購入すれば50000イェンもする道具がもらえることもあったはずだ。

「まず特徴はイェン紙幣を使わず籤石(ジェム)と呼ばれるものを使って籤を引くってことかな」

「紙幣じゃ何か都合が悪いわけ?」

 分からずアリーが尋ねる。

「一度交換すれば籤石は現金には変えられない。しかも1000イェンを1000籤石と交換で、1回300籤石だから、3回やっても100籤石は無駄になる」

「それを考えると無駄にしないように10回やりたくなるね」

「そこが巧いところなんだ。籤を10回やって不良在庫しか当たらなかったら、0イェン当然の武器でニヒードは3000イェン手に入れたことになる」

「なるほど。そうして大当たりにはかなりいいものを置いて、冒険者を釣るわけだね」

「そういうこと。まあ、一番の当たりは極大当たりで、極当たり、大々当たり、大当たりと続いて、不良在庫は次の当たりに分類されるんだけどね。当然、外れはなし」

「でそれがバルバトス殿とどう繋がるでござるか?」

「極当たり以上にはバルバトスの武器もあるんだよ」

 その言葉で全員が気づく。

「もう気づいているとは思うけれど正規の取引によってニヒードは武器を購入している。その正当性は誰もが認めるところだけれど……極当たりの確率ってのが問題でね」

「確率は提示されてないんですか?」

「提示するわけがないよ。たぶん、極当たり以上はそうとう低確率だろうけど、それを提示したら集客が減るからね」

 当たるわけがないと思われたら商売として成り立たなくなる。その按配が重要なのだろう。

「とはいえ、極当たりですら出るのが稀。そうなるとどうしてもストレスが溜まってしまう。数十万イェンつぎ込んでも欲しい武器が手に入らないのだから」

「それでバルバトスさんは八つ当たりされたんだ」

 ジョバンニさんが頷く。

「もちろん、犯人はすぐに捕まえた。けれどそいつはバルバトスが造った武器も盗んでいった」

「けど、すぐに捕まえたんなら事なきを得たんじゃないの?」

「いや。ここで闇市場のもうひとつの特徴が問題になる」

「問題?」

「あそこは盗品ですら買い取る。ベテランの商人ならその盗品を買わないように目利きをするけれど、問題はニヒードがその武器を買ってしまったことだ」

「じゃあその武器は今、籤の景品になってるってことか……」

「そう。それを取り返して本来渡すべきだった人に渡してほしい」

 それがジョバンニの依頼だった。バルバトスさんにケガを負わせた犯人は捕まっているし、課金籤は新たな商売の可能性であるため、潰す気はないらしい。もちろん悪徳なものは淘汰すべきだろうけれどニヒードの場合、まだ確信がないとのことだ。

「ただ、そうなると力ずくにでは無理でござるな。闇市場が盗品を買い取るのは正当なことで、それを故意であるかどうかは分からんでござるがニヒードとやらが正当に買い取ったのでござろう?」

「まあそうだね。バルバトスを襲った犯人とつながっていれば黒なんだろうけれど、今のところは証拠はないね」

「でも……なんとかなりそうな気もするよ」

 僕には妙案があった。

「それにはあの子の力が必要だけれど」

 僕が概要をざっくりと話す。

「それなら行けそうだね。彼女はボクが迎えに行くよ」

「でも、それよりも早く極大当たりが出たらどうするのよ?」

「今の今まで出てないとはいえ、出ないという保証は確かにない、でござるな」

「ジョバンニさん確認したいんですけど、課金籤を誰かがやっている間って、他の人がやったりとかできますか?」

「いや、できないはずだよ。同時に大当たりが出て欲しい武器が被ると問題が起きて困るだろうからね、そういうリスクは避けてると思う」

「なら、僕が時間を稼ぎますよ。貯えならあるので」

「なんとなくやりたいことが分かったわ」

 アリーは呆れているけれど、これもまた人助けだと思えば無駄遣いではないだろう。

「じゃあ、取り返しに行こうか」

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