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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
334/874

抹殺


 3


 PCを倒したディエゴは、別れも告げずエンドコンテンツを脱出し、資質者に挑戦状を送った。

 資質者の一人、〈土質〉ジョー・ゴンダワラが死んだのがディエゴが外に出ようと決めたきっかけだった。

 世界は数多に存在し、その世界のなかにもいくつもの次元(サーバ)が存在する。

 転生したPCに蹂躙されてほぼ人間が存在しない<5th>と<8th>を含めて、存在している次元は〈1st〉から〈10th〉までの十つ。

 その十個の次元全てにディエゴは存在している。

 もちろん、多少の違いはあるが、十次元全てのディエゴが〈全質〉を持っており、そのほとんどの次元においてディエゴは資質者によって命を落としていた。

 エンドコンテンツに先にいた〈3rd〉のディエゴによってそれを知り、〈3rd〉のディエゴもまたエンドコンテンツへと追ってきた〈3rd〉のジョー・ゴンダワラを含んだ資質者によって殺されていた。

 だからこそ、自分の次元〈10th〉にて資質者のひとりが死んだ今、ディエゴは資質者の抹殺を決めた。

 資質者は八属性に対応し、土属性のジョーは死んでいるため残り七人。

 〈炎質〉シャアナ・ジジ・ヲンヴェ

 〈風質〉グリングリン・ウインドー

 〈水質(アクアポテンシャル)〉アクテリア・ンヴォノージョ

 〈氷質(アイスポテンシャル)〉グロージズ・ゲーショフロスト

 〈雷質(サンダーポテンシャル)〉ジージロンダ・コーミッシェル

 〈光質(ライトポテンシャル)〉アズミ・マガツカミ

 〈闇質(ダークポテンシャル)〉ゲシュタルト・"(ムーンドラゴン)"・ブレイジオン

 資質(ポテンシャル)があるぶん、冒険者としても名は知られている。

 情報が手に入りやすいエンドコンテンツで現在のおおよその所在と名前を入手したディエゴが挑戦状を出すのは容易いことだ。

 近場だったアメリアの宿で連絡を待つ。挑戦的な資質者のほうが倒しやすいし、逃げ腰ならばそれはそれで面白い。傭兵を雇おうが圧倒的な力を見せつけて抹殺するつもりだった。

 数日後、ディエゴのもとに三通の返信が届く。意外と好戦的な冒険者に笑う。

 まずはこの返信してきた命知らずだ、と三通のなかなら一番近い場所へと赴いた。


 ***


【滅我戯駕砲】。

 実はそれは戦隊のようなレッドガンたちが、ジョーカーに対応すべく編み出した固有技能で、唯一五人いなければ使えないという技能だった。

 ジョーカーは悪の(自らそう称している)改造組織。強くなりたいという純粋な願望は無視し、娘をたぶらかした男を殺したい、不倫した女を殺したい、夫を殺した貴族を殺したい、ふんだくった商人を殺したい。そんなねじ曲がった復讐のみに手を貸し、改造を行っていた。改造の成功率は高く、総じて復讐の成功率も高い。

 そんな組織ととある理由からレッドガンたちは戦い続けている。

 レッドガン自身はそれを正義ある行いだと自覚はしていない。ただ熱意あるままにジョーカーを殲滅しようと動き、ほかの四人がそれに同調してくれていた。

 その組織に対抗すべく編み出した【滅我戯駕砲】は様々な場面でレッドガンたちを救ってくれた。

 今もまた、救ってくれる……はずだった。

 一縷の望みを絶望へと染めるように

「遅ェ……!」

 ディエゴはその必殺技を避けた。

 ディエゴが送った挑戦状に対して応じたのはグリングリンではなくレッドガンだった。

 〈風質〉のグリングリンからすれば自分を抹殺するという挑戦状なんてくそくらえで、レッドガンの行為にふざけるなと思ったが、レッドガンは逃げるよりも戦ったほうが自衛になると判断していた。挑戦状が届いた以上、何らかの方法で居場所は知られているのだから。

 その判断にはグリングリンも納得する。もちろん、勝手に応じたというしこりはあるが。

 当然、その程度で戦術に鈍りはない。

 自分たちの得意とする場所で待ち構える。十全な対応をすれば勝てる。

 それは甘い考えだったのか。

 レッドガンは【滅我戯駕砲】を避けられ、そんなふうに感じた。

「もう、終わりかァ? 言っとくが本気のホの字も出しちゃいねェぜ。手応えないなァ、オォイ!!」

 ディエゴの挑発じみた笑みに全員が動けない。

 ランク1とランク7はいくらなんでも差がありすぎた。

 全員がランクアップをかまけていたわけではない。ランク1のままでネイレスのように強くなることもできた。

 技能の熟練度はかなりのもの、固有技能だってある。

 けれど実力差がありすぎた。

 ランクもレベルも、熟練度も、戦術さえも劣っている。

 勝っているのは数だけ。けれど今まで培ってきた連携でさえ通用しなければ、ディエゴにとっては烏合の衆。ただの雑魚だった。

 今までレッドガンが戦いぬけてきたのは熱意が何よりも勝っていたからではない。

 改造組織ジョーカーの戦闘力はたかが知れている。彼らは冒険者じゃない。その組織で生まれた改造者は各々の目的を達するために動き、ジョーカーを助けるはぐれ者はごくわずか。そのはぐれ者ですら冒険者じゃないことがほとんど。そんな奴らはランク1でも対応できた。

 果し合いやヤマタノオロチの戦いを生き抜けたのは、五人が揃えばなんでもできるからではない。圧倒的強者たちがいたからだ。

 そんな彼らとランク1にして互角だと勘違いしていたのではないか。

 もちろん、ランク1としてはレッドガンは異質だ。異質の才能があった。

 前述したが技能の熟練度もランク1ではありえないほどで、固有技能すら持っている。

 なのに今、レッドガンには煮えたぎるような後悔がぐつぐつと沸いていた。

 イエロウが知らぬ間に吹き飛び、ブルーメンが一瞬にして焼き焦げている。

 いつ魔法を詠唱したかすら見極められなかった。

 グリングリンが逃げ出し、ディエゴが追う。その進路にはピンクチェリーがいた。殺気だけで、殺されると気づいたピンクチェリーが隣のレッドガンに泣きすがる寸前、頭を粉砕される。レッドガンの目にはピンクチェリーの泣き顔が張りつく。

 震える体を抑え、一歩進む。追いかけるために足を動かす。

「バァアアアアニング!」と叫び、熱意だけで熱血だけでやっていた頃が懐かしい。

 つい先日のことなのにそう思った。

 ピンクチェリーの首なし死体を越え、ブルーメンの焼死体を追い抜き、イエロウの死体を越え、レッドガンはディエゴを追う。

 その先にはグリングリンがいた。胸に穴を開け死んでいた。泣き叫んだのか、顔には涙と鼻水の跡があった。挑戦状に返信をした自分を怨んだだろうか。後悔は増す。

 ディエゴの姿はない。目的を終えたディエゴはとっくに姿を消していた。

 グリングリンを追う進路上にいなかったから自分は助かった。ただそれだけのことが無性に悔しい。

「うあああああああああああああああああああああ!!」

 今まで自分は何をやってきたのだ? 守れるときに守れない。レッドガンは血の涙を流した。

 復讐してやる。強くなって、復讐してやる。

 心の叫びは、レッドガンをあるところへと向かわせた。

 悪の改造組織ジョーカー。

 単身乗り込んだレッドガンをジョーカーの総統は拒まなかった。むしろ復讐に囚われたレッドガンを喜びさえもした。

 道を踏み外し、彼はそうして改造人間となっていく。

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