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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
333/874

蹂躙

 

 2


 JIJIJI-JIが下がり、四人は体勢を整える。

 倒すべき相手がだたひとりと聞いたとき、四人は楽勝と喜んだ。

 前回の戦いは八人の敵を二十四人で倒さなければならなかったらしい。

 しかも連携が巧く取れずひとりも倒すこともできずに全滅したという報告が情報屋FIMIのもとに寄せられていた。

 難攻不落。そう言われながらもこの世界の挑戦者は絶えない。

 JIJIJI-JIたちもそうだった。この世界には秘宝があってそれを集めれば願いが適う。

 それは当然転生者にも適用される、と信じられているからだ。

 MIKEがJIJIJI-JIを回復させ、ほぼ全快に近い状態となる。

 ディエゴは動かない。

『RED★STAR>俺に合わせろ』

 RED★STARが詠唱を開始。カウントダウンはしない。そのタイミングは何回も練習してきた。

 四人による連携攻撃。異なる世界ではその連携で何人も蹂躙してきた。

 OREがステップを加速させ、転職したMIKEが腰に下げた鞘に刺さった剣の柄を構える。

 JIJIJI-JIが能力上昇技能をフルスロットル、体から煙が出るほどに発熱。

 そうしてRED★STARが魔法を発動……できなかった。

 発動する瞬間、RED★STARの口が封じられていた。

 誰の目にも明らかな沈黙だった。

 だがディエゴが魔法を発動した様子はなかった。

 【沈黙(サイレント)】は援護階級9の魔法ゆえにディエゴといえど詠唱には時間がかかる。

「アイテム使ったらダメなンてルールは当然ねェよなァ?」

 ディエゴが使ったのは魔巻物だった。もちろん、通常使用時と同様の詠唱時間がかかるが、相手の詠唱に合わせて発動しておけば、詠唱時間を稼げるうえに不意打ちにもなる。

 本来の【沈黙】の効果はわずか数秒にも満たない。それが減衰して、数秒ですらない状態にはなるが、だからどうしたとディエゴは開き直る。

 その数秒ですらない沈黙の状態異常で魔法は封じ込め、それを起点とした連携は封じ込められる。

 それゆえにディエゴは状態異常関連の魔巻物を作製して持っていた。

 RED★STARの足がわずかに止まる。状態異常は何より作ろうとしていた戦闘の調子(リズム)を狂わせる

 だが足が止まったのはわずか一瞬。それは全員が目を見合わせほくそ笑むためだった。

 JIJIJI-JIが突進し、OREとMIKEが続き、RED★STARが再詠唱。

「単調だなァ、オイィイイ!」

 向かってくるJIJIJI-JIに向けて魔法を詠唱しようとして、できないことに気づく。

 魔法が使えない感覚、状態異常。沈黙だと理解。

「魔法返しの装束ってわけか、それ」

 RED★STARの防具には魔法を跳ね返す効果があると判断。その割には攻撃魔法を恐れたので、援護魔法しか跳ね返せないのかもしれない。

 ともあれ、くそったれ、と毒づく。危機的状況だからではない、面倒臭いからだ。

 ぎりぎりでJIJIJI-JIを避けるとすぐそこにはOREがいる。

『ORE TSUEEEEEEEEEEEE>はははは、魔法使いは近寄られると無能だって分かってるんだよ!』

 OREの刃が迫ってくるなか、ディエゴはその発言に思わず笑う。

 いつの情報だ?

 ディエゴは黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕を振り上げ、OREの頭めがけて振り下ろす。

 脳髄がぶちまけられ、その場で一気にOREが崩れ落ちる。

『MIKE NYANYA>ORE氏、終了のお知らせ……』

『RED★STAR>何が起きた? この世界の魔法用杖はそんな威力でないだろ。データにない』

 RED★STARが戸惑い、後ずさる。恐怖による後退だった。

「データにないのは当然だぜェ? これはよ、最近生まれた技能だ」

 エンドコンテンツはあらゆる情報が何よりも早く入手できた。

 それこそ、ブラギオたちウィッカを嘲笑うかのように。もちろん、情報を手に入れたところで共有できるのはエンドコンテンツ内に限られるため、流布を目的とする集配社の存在意義はなくならない。

 なんにしろ、それによってディエゴは、クレインが打術技能を生み出したことを知った。

 それを知った時からディエゴは待ちに待っていた技能がルーンの樹に定着し、そしてクレインという冒険者が技能を他の冒険者に教えるのを。

 固有技能はルーンの樹に定着したあと、そのコツのようなものを他人に教えることで他の冒険者が使用でき、固有技能ではなく職業技能と昇華する。

 ディエゴはその機を待っていた。固有技能修得者の独占欲が強いかどうか、その技能の万能性はどうか、それらによって職業技能と昇華されるかどうかが決まる。

 近接技能を欲していた魔法士系冒険者は多いと踏んで、おそらく打術技能が職業技能になると信じていた。

 事実、そうなった。クレインは共闘の園にて賢士に打術技能を教えていた。ゆえにそれは職業技能に昇華され、上位職である全司師にも使用可能になった。

 迷わずディエゴはそれは覚えた。

 ORE TSUEEEEEEEEEEEEを一撃で粉砕したのは、クレインが一番初めに覚えた【直襲撃々】だった。

 使いこんではいないが、先ほど【分析】したデータを見ればATKは一万越え、軽装で速さ重視のOREには十分通用した。さらにOREにこの威力ならばRED★STARやMIKEにも十分通用する。

「次はどいつにするかなァ? 俺はまだ本気を出していないぜェ?」

 わざとおどけてディエゴは挑発をする。MIKEが詠唱を始めたところで、ディエゴは走り出す。

 MIKEはまた転職をして、蘇生を試みていた。

 MIKEを狙わずディエゴはRED★STARへと接近。OREほど速くないほかの三人はその速度についていけずにいた。

 即死。何もできぬままRED★STARが倒れる。まるで物を払いのけるのようにRED★STARの首が【直襲撃々】でちぎれ飛ぶ。

 途端に蘇生でOREが復活。そのOREへとディエゴが接近。【直襲撃々】とOREの短剣が激突。

 短剣が手ごと吹き飛ぶがOREは全身。口に含んでいた針を噴出した瞬間、風が吹いた。

 一瞬の詠唱による【微風】が襲いかかる。

 その強さはそよ風程度ではない。強風、暴風の域。含み針を全て追い返して、OREが毒に冒される。

 RED★STARがMIKEによって蘇生。同時にディエゴがOREに留め。

 次に向かうのは再度、RED★STAR。敵わない恐怖に駆られたRED★STARが逃げ出す。背後から迫るディエゴの追撃を防ぐべく、JIJIJI-JIが盾を投擲。当たれば一時怯みの効果。

 【吹水】によって盾を押し返したディエゴはそのままRED★STARを粉砕。粉砕。粉砕。

 恐怖を植えつけるように、右手、左足、頭の順で破壊していく。

「損傷が早えェ」

 直に杖で攻撃をする打術技能は魔法詠唱と比べて武器の損傷が早い。

 デメリットを知り、無駄遣いしたことを少し後悔。とはいえ必要経費と判断。

 ひとり倒す時点でひとり蘇生していたMIKEに疲労の顔。精神磨耗の影響が出ていた。

 蘇生の時間が遅くなり、残るはMIKEとJIJIJI-JIのみ。

 JIJIJI-JIは盾を跳ね返され、怯んでいた。その隙にMIKEへとディエゴは近づく。

 MIKEは蘇生を中断。魔法剣士へと瞬時に転職。この世界の魔法剣士とは異なる魔法剣士。

 未知の敵だがディエゴに恐れはない。魔法防御重視にチューニングしているMIKEに、あえてディエゴは魔法の選択。

「数多の精霊よォ、俺の声を聞きやがれ――」

 あえてゆっくりと詠唱。JIJIJI-JIの怯みが解けても関係なかった。

 いわゆる舐めプ。舐めたプレイ。ディエゴは余裕は見せつける。

『MIKE NYANYA>ふざけんなああ!!』

 その態度に激昂して、MIKEは我を忘れる。それすらもディエゴの計算のうち。

「南に熱さ。北に乾き。消し炭になれェ、【弱炎】!」

 光速で展開された炎はちっとも弱くなかった。

 瞬きする暇すら与えず、詠唱時間よりも短い時間でMIKEに衝突。一瞬にして炭と化した。

 JIJIJI-JIの足が止まる。

「じゃあな、あばよォ!」

 先ほどよりも雑に早く【弱炎】を詠唱し発動。

『JIJIJI-JI・JI-JIJI>難易度高すぎるだろ、なんてクソg――』

 JIJIJI-JIが捨てゼリフを吐いて消滅。

「お前らみたいな転生者が<5th>と<8th>を蹂躙しまくったから、エンドコンテンツが入口になったンだろうがァ。クソボケがァ!」

 無礼にも死体に唾を吐き捨てる。勝利の悦に浸る程度のものでもなかった。

「ンじゃまあ、外に出るかァ、オィイイ!」

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