選定
109
ティモルベがアリサージュの空いた穴に、役目に収まったように、世の中は空いた穴、役目を埋めるようにできている。
「大きな穴がふたつも開いてしまったであるな」
あまり困った様子もなくイロスエーサはつぶやく。
「それな」
ウイエアも同感だった。
目に見えて空いた穴はふたつ。
「某らも関わったこととはいえ、ウィッカは壊滅」
「ついでに[十本指]も半壊ときてる」
それが空いた穴だった。
情報収集の半分以上を担っていた集配社ウィッカの壊滅。
そしてそのウィッカが編纂し、冒険者の指針、目標となっていた[十本指]の欠番。
「至急に埋める必要があるである、特にウィッカの代わりは」
「そりゃそうだっぺ。放っておけば結果は見えてる」
イロスエーサのトップである救済同盟は我こそは、と名乗り出る。
ウイエアが所属するスカル&ボーンズも我こそは、と名乗り出る。
お互い引くことはないだろうから抗争が始まり、そうなってしまえば
ナンバー2であるウイエアは無論、トップであるイロスエーサでさえも止めることはできない。
「ヴリル協会や三百人委員会ではまだわいらほどの情報収集ができるわけないっぺ。つーことはここでお互いが争いあうのは正しいとはいえないっぺ」
「その認識はこちらとて同じ。どうやら同じことを思っていたであるな」
「ということで早速するっぺ」
お互いの認識が一致したと見るや、ここで気まぐれを起こすわけもないが、そうそう会議は開かれた。
その会議にはイロスエーサとウイエアだけではなく救済同盟のナンバー2、ジェリオ・グェリドとスカル&ボーンズのトップ、コーエンハイム・グエジーズもいた。
集配社のトップとナンバー2による話し合い。
とはいえ、即決。イロスエーサとウイエアだけでなくウィッカ壊滅の情報を得ていたジェリオとコーエンハイムの認識もイロスエーサたちと同じだった。
話し合いにより、救済同盟とスカル&ボーンズの合併が決まる。
「でここ重要っぺ」
即決した会議の終わり、ウイエアは言う。
「合併した集配社の名前を決めるっぺ。何か案がないっぺか?」
ウイエア以外の全員が押し黙る。即決した議案よりも下手をすれば長引く。
「なら、わいに一任してくれ。こう見えてセンスはあるっぺよ?」
そうだったかなあ? とコーエンハイムは僅かに疑問に思うが、集配社の名前ごときで会議を長引かせるわけにはいかなかった。
「ならウイエア殿に一任でいいであるか?」
イロスエーサの提案にジェリオとコーエンハイムは頷く。
「うっし。ならこれからわいたちは集配社・救済スカボンズとして活動するっぺ。異論反論口論は受け付けんっぺ」
「「「……」」」
三人分の沈黙と一任した後悔がそこにあった。
何にせよ、新集配社・救済スカボンズが誕生した。
こうしてウィッカがなくなった穴は埋められた。ウィッカを壊滅させたのはレシュリーたちだということは世界に報せることにした。理由もなくなくなったというのはあまりにも不自然だったからだ。
だがDLCの存在は黙秘。グエンリン以外の幹部が持っていたDLCの流出によって噂は出回るかもしれないが、それがウィッカが作っていたと探れない程度の情報規制を敷いた。
ゆえにウィッカは幹部が経験値を得るために手下を皆殺しにしたため、レシュリーたちが成敗したことになっている。実際には蟲毒を模した経験値集めでDLCの適合者を作ろうとしていたのだが、それを伏せる意味でもそういうことにした。
DLCの存在を伏せる意味でもそうだが、蟲毒の経験値稼ぎは確かに効率がよく、不徳者のもとで実行される可能性があったからだ。
そのような一定の情報規制と情報流布をしたあと、いや、それに並行して救済スカボンズはもうひとつの穴を埋める。
「次は[十本指]であるな」
「ああ、ヤマタノオロチとの戦いの前で一~三本指が死亡。ブラギオを名乗っていたグエンリンも先の戦いで死んだっぺ」
「まあ、レシュリー殿たちは繰上げで問題ないであるな?」
「当然。順当だっぺ。まだランク6の情報は少なすぎる。わいらが持っている情報を元に作るっぺから、そこで適当なランク6の名を連ねるわけにはいかないっぺ」
その結果、
一本指 動乱の救い手 レシュリー・ライヴ
二本指 首刎ね三剣 アリテイシア・マーティン
三本指 変幻自在 コジロウ・イサキ
四本指 第二聖魔女 リアネット・フォクシーネ
五本指 剣技伝承 アルフォード・ジネン
六本指 近寄危険 アエイウ・エオアオ
となる。 以前あった異名が変わっているのは以前から今までを加味してだ。
「では残り四人を選出するである」
「そこで提案がひとつ。救済スカボンズのトップは一応イロスエーサはん、あんさんっぺ」
「そうであるな」
名前が不服ではあるが、と一任した以上声には出さない。
「となれば当然、前スカル&ボーンズの連中の中には気に食わないという声が上がるっぺ」
「それも当然であるな」
「だから七本指にコーエンハイムさんを据え置く」
「情報ではあんさん、実力ではコーエンハイムとすれば少しは反感が減るだろう」
「事実だから異論はないである」
七本指 新伝達者 コーエンハイム・グエジーズ
イロスエーサが紙にそう記していく。
「じゃ、あと三人だっぺ」
ヤマタノオロチの戦いは部下によって観察させていた。
その戦いで活躍または話題性になりそうな人物、そしてウィッカの壊滅に関わった人物、そのあたりからふたりは選出していく。
前スカル&ボーンズのトップたるコーエンハイムはウイエアにこの仕事を一任しているため、結果には文句は言わないだろう。
コーエンハイムも今回は暫定的な決定で脱出してきたランク6の台頭によって今後覆ることもあると分かっていた。
熟考に熟考を重ね、ふたりは残りの三人を決める。
「シッタはんが見たら、どう思うっぺか」
ニヤニヤとウイエアは笑う。
八本指の欄にはこう書かれている。
八本指 舌なめずり シッタ・ナメズリー
続いて九本指は今まで陽の目に当たらなかった人物を据え置く。
目立っていなかったがその実力は折り紙つきだった。
九本指 永遠の新人 ネイレス・ルクドー
もはやランク1ではない彼女にふさわしいとはいえない異名だが、それでもその異名を知らない冒険者は少ない。
残る最後の人はヤマタノオロチ戦前後で姉とともに実力を発揮してきた冒険者にすることにした。亡き姉は空中庭園で聖女となり話題性は抜群とも言える。
十本指 次期聖女 アルルカ・アウレカ
ランク5にも満たない冒険者がいることに冒険者たちは震え上がり、封印の肉林から脱出できたランク6の冒険者たちにも火をつけた。すぐに覆させてやる、と。
それでも一本指のレシュリーの力を認めている冒険者も少なくないのも事実。
ともすれば他の[十本指]も相当の実力を持っているのではないか、と憶測が流れる。
それを利用してか、いち早く課金籤屋の店主はこんな煽り文句を掲げ始めた。
「[十本指]の倒し方、知ってますよ」と。
その煽りを受け、課金籤は加速していく。




