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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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課金


 108


「ふん。ようやく起きたか」

 宿屋の下に降りるとアエイウが待ち構えていた。

 大抵の宿屋は酒場も兼ねているからそこで朝食を摂っていたのだろう。

 僕が降りてくるのが見えて、いちいち席を立って仁王立ちする意味は正直ないけれど、まあそれはいい。

「ここにキミも泊まってたの?」

「バカを言え。こんな宿屋などに誰が泊まるか!!」

「前になんかしたらしくてこいつだけ出禁らしいわよ」

 アリーがため息を漏らす。エリマさんならすぐに止めれただろうから、そういう意味でも失ったものは大きい。

「じゃあなんでここに?」

「アエイウはお礼を言いにきたんだよ」

「ふざけるな、ミキ。エリマを救えなかった時点で、コイツに言うお礼などない!!」

 だとしたら、ますますここに来た意味がないようにも思えるけれど口には出さない。誰かに指図されるのが嫌いなアエイウはミキヨシに指摘されてする気がなくなったというところだろう。

「別にいいよ。お礼なんて。それよりミキヨシがいるってことはキミは一度拠点(アジト)に戻ったの?」

 ミキヨシの酒場を拠点にしているというのを小耳に挟んだことがある。

「まあそんなところだよ」

 ミキヨシがアエイウに代わって答えるとアエイウは明らかに不機嫌になった。

「とはいえ、ボクはキミにお礼を言いたかったからアエイウについてきただけなんだよ」

 言ってミキヨシは頭を下げる。

「エミリーさんたちの助けになってくれてありがとう」

 アエイウと言わなかったのはアエイウがお礼を言わないという意を汲んでだろう。

「いや、いいよ。そんな……」

 エリマさんを助けれなかったという事実を引きずる僕は素直に受け止めれない。

 アリーが頭を小突く。

「何も考えず、どういたしましてでいいのよ」

 誰にだって後悔はあるけれど、僕はいつだって後悔を引きずる。少しだけでも強くなっているのだろうか。

「どういたしまして?」

「なんで疑問系なのよ」

 アリーが笑う。それがいつも少しだけ救いなのだ。

「今度、ボクの酒場にも遊びに来てよ」

「来ないでいい」

「キミがそうやってお客を追い出すから、割と赤字なんだよ」

 ミキヨシが呆れ交じりで怒る。

 アエイウが客をえり好み、女性を招きいれ男性を追い出す光景が目に浮かんだ。

「エミリー! 飯をさっさと食え! 帰るぞ!」

「ひゃひ!」

 驚いて喉に詰まらせたエミリーの背中をミキヨシがさする。

「余計なことをせんでいい!」

 ミキヨシを撥ね退け、少しだけ強くエミリーの背中を叩く。

「乱暴すぎるよ」

「ええい、うるさい。とにかく帰るぞ」

 皿に料理は残ったままだが、アエイウはエミリーを担いで宿屋を出る。

「これ、包んでもらえますか? 度々すいません」

 ミキヨシが店主に平謝りしながら料理を包んでもらい去っていく。

 その後、店主はアエイウのみを出禁にする貼り紙をいままで以上に目立つように貼り直していた。

 ……。

「……ま、まあなんにしろアイツのことはいいわ。大変そうではあるけれど」

「大変そうって、何が?」

「だって拠点を襲撃されたってことはそこには大陸に出た新人冒険者も全員いたんじゃないの。そこに襲撃があったんだから、ショックで冒険者を辞める、辞めなくても精神的磨耗はそうとうなはずだから立ち直るのに時間がかかるかもね」

「なるほど。確かにそうだね。でもアエイウはたぶん見捨てたりなんかしないよ。ある意味で女の子にだけは親切だから」

「なんだかんだでよく分かってるじゃない」

「分かりたくはないけどね、アイツだって必死なんだよ」

 変にライバル視されているのはイヤだけれど、ライバル視しているアエイウが凹んだ様子を見せないのだ。

 そんな彼が僕にわざわざ顔を見せてきたのは、このぐらいでへこたれるなと言っているようにも思えた。

「僕も頑張ろう」

 小さく呟くと横に並ぶアリーがそっと手を握ってくれた。

「頑張りなさい」

 恥ずかしくて、手を握り返すどころか離してしまう。もったいないことだけれど、手を握ったアリーですら照れていた。

「……デビたちはこの街にいるの?」

「デデビビたちは大草原よ。シッタの弟子ともども訓練してる」

「シッタが?」

「ええ。フィスレの傷が癒えるまで弟子を特訓するって意気込んでたから、デデビビたちもついでにね」

「そっか。それは頼もしいね。でさ、デビたちは人形の狂乱に行ってもらうとして僕たちはどうすればいいのかな?」

「鮮血の三角陣まではまだ時間があるし、そもそもデビたちが人形の狂乱を合格しないと始まらないわ。といっても修行するしかないんじゃない? 賞金首倒したり」

「まあそうだよね」

「なら、こっちを手伝ってほしい」

 僕たちの会話に突然割り込んできた闖入者はジョバンニさんだった。

 バシン、とアリーがまずは殴る。

「ちょ、やめないか!」

「ジェニファーに変な言葉を教えた罰よ。罪を知りなさい」

「ちょ、ごめんごめんって。けどそれどころじゃない、バルバトスが襲われたんだ」

 アリーの猛攻を受けながらもジョバンニさんは衝撃的な一言を告げる。

「安心して。死んではいないよ。それに原因だっては分かってる。課金(ガチャ)だ」

 

 ***


「久しぶりの外だなァ! おいィ!!」

 世界の牙(カウリオドゥース)と呼ばれるガニスタ岬。

 そこに突如現れた男は、久しぶりの日の光に背を伸ばす。

 彼の名はディエゴ・レッサー・フォクシーネといった。

 周囲を眺め、にんまりと笑う。

 彼の周りには彼の存在を把握した魔物たちが近寄っていた。

「まずは準備運動ォ! んで資質者(ポテンシャリスト)に挑戦状を送らねぇとなァ!」

 宣言した頃には魔法が飛び、魔物は一瞬にして殺されていた。

 彼はランク7全司師。才覚は〈全質(エレメンタリスト)〉。

 エンドコンテンツからの帰還者だった。

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