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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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火花

 99


 肥大した腕がバネのように縮まり、伸びた。

 エリマの横、アエイウの横をすり抜けて毒の腕は毒竜のようにエミリーへと向かった。

「ええい、避けろ」

 舌打ちエミリーに怒鳴るが、エミリーは一歩もたつく。

 戦闘中にも関わらず、どこか警戒レベルを下げてしまうのがエミリーだ。

 武器を取り出していても構えていない。

 もたついてもなんとか回避。壁にぶつかって、腕は曲がる。

 壁が一瞬に腐食し、常人ならば即死してしまうことをで予測させる。

 それをまじまじと見てわずかに怯えながらエミリーは走る。

 武器である魔法筒〔慌てふためくテンテコマイ〕はエミリーが軽々と持てるものではない。引きずって走る。【収納】すれば早いがエミリーの頭にはそんな応用力はない。

「しまわんか、武器を!」

 アエイウが追いつつ、エミリーに怒鳴る。気づいて【収納】するが、やはり一歩遅い。毒の腕がエミリーを捉える。

「ふん!」

 エミリーの姿が消滅。毒素によって消された、わけではない。

 エリマが【速勢・跳躍型】で壁を跳ぶように走って、尻尾でエミリーを救出していた。

「エミリー、反撃だよ」

「は、はい!」

 尻尾に巻かれたまま魔法筒〔慌てふためくテンテコマイ〕を構える。

「不安定だけど、ここまま行くから」

 言って、エリマは走り出す。

 【速勢・跳躍型】のままエリマは壁を自在に走り出して、グエンリンへと接近。

 エリマよりも近くにいたアエイウは未だにエリマの長方形剣〔巻舌のヒュッヒューイ〕を握り締めグエンリンを攻めるが、毒の鎧に阻まれ決定的な一撃を加えることはできない。何度も武器が触れれば解けてしまう。メンテナンスすれば修復するとはいえ、原型が破壊されれば修復は難しい。アエイウは攻勢に出るために長方形剣をエリマへと放り投げる。エリマは【収納】を前に開いてそれをしまった。それを見向きもせずアエイウはグエンリンに殴りかかる。

 拳なら再生できる。遠慮はしない。両腕がエリマたちを狙ってるぶん、グエンリンに攻撃の手段はない。核を狙うように拳を放つがその拳をグエンリンから伸びた靄が包み込む。

「手がないから、打つ手がないとでも思っていたんですか?」

 毒素で顔を作るグエンリンの口元がこれでもかと三日月のように吊りあがる。

 毒素を取り込んだときからグエンリンに形はない。ただ人の形をし、DLC『恐/狂竜感染:腕龍』の伸びる腕の形をしていただけだ。元々その形をしていないといけない枷はない。

 アエイウの奥底での思い込みを突き、グエンリンはここぞで形のなさという利点を使ってきた。ぐんぐんとグエンリンはアエイウを取り込んでいく。

「お前がクラミィを惑わした、だからお前が一番先に死ね」

「何を言ってる。エリマから誘ってきたんだぞ!」

「そんなもの信じない」

「ガハハ、見苦しいぞ。漢なら認めたうえで奪い取ってみせろ」

「汚い手でクラミィを奪っておきながら、よくもそんなことが言えるね。穢されたクラミィも穢したお前も、お前の大事なものも全て壊してやる」

 エリマが有望株として(変態とは知らず)アエイウを勧誘した事実を認めず、グエンリンは叫ぶ。

 拒絶したエリマも、その原因を作ったであろうアエイウも滅ぼす算段で、グエンリンはアエイウを取り込んでいく。

「ガハハ、それで倒せるつもりか?」

 七割方吸収されながらもアエイウは笑う。余裕があった。

 すでに発動している、グエンリンにはアエイウの種も仕掛けも分かっている。

 アエイウが毒に取り込まれ、消失すると同時に【偽造心臓】が発動。

 失った肉体ごと再生していく。

 拳は再生時点から核を狙うように連打していた。風圧で周囲の毒素を蹴散らす。瞬時に集合、拳を破壊して行く手を阻む毒素だが、徐々に拳は前へと進む。

 核に届く一歩手前でアエイウが再び消失。【偽造心臓】で再生。狂戦士の厄介なところはこの耐久力にある。

 拳の連打を繰り返していく。

 グエンリンに焦りはない。むしろアエイウに焦りがあった。

 【偽造心臓】にも限界がある。一回使うごとに自慰をした後の虚脱感、無力感が遅い、体力消費はそれ以上。加えて拳が破壊されるたびに【肉体再生】を使っている。

 毒素効果を薄めるために実は【滅菌抗体】を常時展開しているため、いくら情事で体力を鍛えているアエイウと言えど、きついものがある。

 繰り返していけばむしろグエンリンにある愚策だが、アエイウはもう一度続ける。

 核に迫れば迫るほどグエンリンの注意がアエイウに向く。

 毒腕の操作が疎かになる、とアエイウは読んでいた。

 事実そうだった。毒腕は狙い澄まさなくても対象を攻撃できるが、それは矢を射るときに的を見ないようなもの。

 いつの間にかアエイウに注意を向けてしまっていたグエンリンの緩いとも言える毒腕の攻撃をかいくぐり、エリマと尻尾に巻かれたエミリーは目前に迫っていた。

 エミリーが【閃光弾(フラッシュ・バン)】を発動。筒の口径と同じ程度の光球がのろのろとグエンリンに迫り、破裂。大きな閃光となって周囲を眩しく照らし、視界を奪う。さらにおどおどとしながら、次弾装填。【紫煙弾(スモーク・スクリーン)】を発動させる。もくもくと紫色の煙を上げる。色は紫だが、毒は含んでいない。【煙球】よりも濃く、あちらよりも視界を奪うことが可能だった。

 エミリーが視覚を奪う同時にエリマは加速。アエイウの解放に動くが、グエンリンには感じられていた。毒素と融合した時点で視覚よりも聴覚で認識していた。

 そのまま近づけばエリマも手痛い反撃を受けてしまうはずだった。

 エミリーが【火花】を使うまでは。

「はわわ、間違いました~」

 正確には使ってしまうまでは。

 本当は【炎連弾】を使うはずが、どこをどう間違えたのかエミリーは【火花】を使っていた。色取り取りの火花が空に花を咲かせる。

 大きな音を立てて。

 聴覚に頼っていたグエンリンにその音は痛烈だった。視覚を奪われた程度では認識できていたエリマの位置も、アエイウを包んでいた感覚も、認識できなくなっていた。

 【火花】は断続的に続き、音も断続的に続いていた。【閃光弾】はとうに消え、展開されていた【紫煙弾】の幕ももうすぐ薄れる。

 なんとなくの位置でグエンリンを認識しているであろうエリマにも完全に把握される。

 その通りになった。

 【火花】の音が切れると同時にエリマは眼前も眼前。アエイウをグエンリンから引き剥がし、核めがけて、鉄盾銃〔ごり押しのヴェーヴェッカス〕を連射。

 単発式ゆえに連射速度は遅く、何発かは毒素によって消滅される。

 運頼みではあったが、一発が運良く核を掠る。

 毒素で形成されているにも関わらずグエンリンの顔が歪む。

「ガハハ、助かったが……さすがにしんどい」

「それでも攻撃の手は緩められないよ」

 とはいえどんな手を打てばいいのか判断に迷っていたのも事実だった。

 だがグエンリンは追いかけてこず、なぜか全身を見渡す。何かが起こっていた。

「これは……まさか……そんな……」

 想定の埒外、とでもいうのかグエンリンは呟いた。

 グエンリンの変化は上がもたらした変化だった。

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