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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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真姿

 96


 昇降機で最上階にたどり着いた矢先、

「動かないで」

 エリマがそう告げた。ここに来ての裏切り――というわけではない。

「そのまま昇降機に乗っていて。本当の最上階は、ここから昇降機でしかいけないのさ」

「しかし以前この階にブラギオの私室と思しき部屋はあったである」

「そこでDLCを見つけたと聞いたでござるが……」

「幹部たちは幾つも部屋を持ってるんだ。ブラギオは幹部と、それに人質だったアタシにしか教えてない部屋があるのさ。それがこの上。本当の最上階にある」

「つまるところ、この階を最上階と見せかけて、もう一階上を作っていたというわけであるか」

「ええ、外から見えても見えないように工夫してね。見つけれないのも無理はないさ」

 言いながらエリマは『開』のボタンを三度押す。

 全員を降ろす際に気を遣って『開』ボタンを押しっぱなしにすることはあっても、三回も押すことは少ない。始めはつぼを押すように強く、次は触れたかどうかわからないように軽く、最後は最初よりも弱くけれども弱くもないという按配。

 それがまず一段階目。

 すると階層の数字が書かれたボタンの少しの上に黒く長細い板のような浮かび上がり、そこに白い下線(_)が四つ点滅を繰り返している。エリマは手早く階層の数字が書かれたボタン『0839』と押すと、点滅していた白い下線が消えて、そこに同じ数字が浮かび上がる。これが二段階目。『閉』ボタンを押すと上へと動き始める。

「そういえば、昇降機に押しても変化がないボタン『0』があると、以前に報告があったであるが、それはこのためだったであるな」

「そう、そこが気づきのポイントにはなるけれど、それを気づいたところで必要になるのはこの入力の段階。しかも三回ミスをしたら催眠ガスと麻痺針が飛び出す仕様だからたどり着くのは難しいわけさ」

 さらに詳細を述べるならば、昇降機の階層ボタンでいける最上階。イロスエーサたちがDLCを発見させられた部屋がある階でこの動作を行う必要があるのだがエリマはそれを省いた。もちろん聡いイロスエーサはもちろんレシュリーたちも理解していた。

 イロスエーサとエリマの会話は僅か。一階分ならその程度。その僅かの時間で昇降機は本当の最上階にたどり着く。

 広い部屋はガラスで仕切られ、大きな凸部屋と左右の小さな四角い部屋に分かれていた。

 左には薬品棚や机などの実験室のような造りになっていた。右には本棚があり、ここに情報が網羅されているのかもしれない。

 中央の凸型の部屋の尖った部分の壁面にはモニターがあった。

 レシュリーたちが警戒しつつ散開して、部屋に散らばるとそのモニターの前にあった椅子を回転させてブラギオが昇降機のほうと向いた。よく見ればモニター横にはアリサージュが直立不動していた。

「ガハハ、決着をつけに――おれ様が来た!」

 正面に向き合うことになったレシュリーを押しのけて前に出たアエイウが宣言。

「おれ様の女を奪ったことを後悔しながら死ね!」

 前進すると上下左右から格子のように稲妻が迸る。光速の蛇のような電撃がアエイウを焦がす。

 間一髪で避けたが右腕が消失。【肉体再生】で事なきを得るが、電撃は正面で格子状の網を作る。

「まずはそれを突破しろ、ってことみたいね」

「あなたたちに果たしてできますか?」

 ブラギオの不敵の笑み。

「やるしかなかろう」

 アエイウも不敵に笑う。

 ブラギオは想像しただろうか。

 アエイウが今まで配慮していたのが嘘だったかのように【収納】によって長大剣〔多妻と多才のオーデイン〕を取り出した。刃先は真上。

 刃先が天井を穿つ。屋上までその刃先は突き出ていた。ある意味、暴挙。

 そもそもアエイウが屋内の戦闘においてこのような暴挙に出なかったのは、天井を突き破った刃先が万々が一にもミンシアを突き刺す可能性がないとも言い切れなかったからだ。

 そう考えるとここは最上階。それより上に部屋はない。それにミンシアは三階にいると予想されていた。

 安全性がある程度確立されているのなら、アエイウに遠慮はいらない。

「ぬおおおおおおおおおおっ!」

 天井を切り裂いて、長大剣は格子状の電撃網へと振り下ろされ、その先にいるブラギオどころか壁面のモニターにまで到達していた。

 ブラギオはまだ動かない。

 格子状の網が長大剣を蜘蛛の巣のように絡みつき、進行を阻む。ブラギオを縦断する間際のところで刀身は止まる。

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 【筋力増強】はすでに使用済。レシュリーが援護をしようとするが、アエイウは睨みつけ、邪魔をするなと制止。

 それは意地にも似ていた。アリーンを殺され、ミンシアを人質に取られ、エリマを変えられた。

 そこまでやられて何もし返さないアエイウではない。

 ブラギオはこの罠を突破できないと睨んでいる。しかも複数人でも無理だと、言葉ににじみ出ていた。【抜目】すら使えないように対策を打っている可能性だってある。コジロウやネイレスがその場にいるのにその余裕ぶりはおかしい。

 だとすればその鼻を明かしてやる必要がある。

 だからこそ、アエイウはたったひとりで罠の突破に挑む。

 そんな思惑からレシュリーの援護は不要。制止を振り払ってでも何かしようとするならば妨害するつもりでもいた。

 けれどレシュリーはおとなしく手を引いた。

 アエイウの気迫に何かを感じたのかもしれない。

 実はアエイウにもはや打つ手はない。【筋力増強】はフルスロットル。最大限発揮していた。【大袈裟斬】も発動し、長大剣は闘気を纏っている。武装すら破壊するそれを用いてもなお、破れない。

 残るは気合しかない。

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 息切れしそうなぐらいの気合の咆哮をまき散らしながら、不乱に電撃網に絡め取られた長大剣へと力を入れ続ける。

 無謀にも思える挑戦に、ときに世界は気まぐれを起こして応えてくれる。

 突破できないと踏んでいた電撃網を打ち破り、その切っ先がブラギオに向かう。

 憎らしげに表情を歪めてブラギオは回避。

「これだから才覚持ちは嫌なんですよ」

 ステゴが嫌悪したように、ブラギオも言葉を吐き捨てた。

「土壇場で、固有技能をこうもすんなりと覚えるんですから」

 ブラギオの言葉通り、アエイウは二つ目の固有技能を覚えていた。

 【偽装押倒(ギミックブレイカー)】。罠やバリアなどを突破する技能だった。

 ブラギオが展開していた電撃網には【抜目】では突破できない仕組みを作っておいたが、無理矢理突破できる固有技能を使われては元も子もない。

 こんなにも都合良く突破できるのは才覚持ちだからに他ならなかった。世界に愛されて生まれてきているとしか思えない。

 ステゴなら間違いなく激怒するだろう。ブラギオも少なからず苛立ちを覚えていた。

「覚悟はいいな、ブラギオ! 一時であれ、おれ様の女を奪った罪、償ってもらうぞ!!」

 宣言して勢い良く飛び出していこうとするアエイウの首をエリマが掴む。

「ぐえっ! 何をする、エリマ」

「少し話したいことがあるのよ」

「おれ様に? 手短に頼むぞ」

 違うわよ、とエリマは罠が他にないか警戒しつつ、アエイウよりも前に出た。

「アンタにじゃなくて、ブラギオに。ううん――グエンリンに話があるんだよ」

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