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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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救出

 95


 レシュリーたちはそのタイミングで、一階へと降りてきていた。

 眼前に広がるのは、周囲が燃えるなか、短剣を突き刺され絶命したノードンと短剣を突き刺したリザードレディ(蜥蜴女)に獣化したかのようなエリマの姿だった。

「エリマ。無事だったのか! それよりもなんだ、その姿は……」

「はは、気になるかい? とはいえ、アエイウたちも戦ってきただろう?」

「あなたもDLCを使ったんですか?」

 エリマの言葉にピンときたレシュリーが問いかける。

「使ったというか使わざるを得なかったんだよ。ミンシアが人質に取られていたからね、殺されないためには従う必要があった」

「確かに、そうですね」

「でミンシアはキミたちのところへ合流したかな? ノードンの部屋にはいなかったから」

「いえ、僕たちも二階で戦っていて、火の手に気づいて降りてきたので」

「おい、エリマ。なぜ、こいつとばかり話をする! おれ様の相手をきちんとしろ!」

 アエイウの声にエリマは笑った。「嫉妬かい、アエイウ」

「断固違う。ええい、それよりもミンシアを探してとっとと帰るぞ!」

「いや、私にはやることがあるわ。DLCの解除方法も必要じゃない? 他のDLCを解除するときにも応用できるかもしれないし。それに……」

「それに、なんだ? 言え」

 言いよどんだエリマをアエイウは問いただす。エリマのほうが年齢的には上で師匠ではあるのだが、主従でいえばアエイウのほうが主だった。

「ブラギオとは少し因縁があるのよ」

「因縁だと? どういうことだ? 元彼か?」

「キミさ、そういうの平然というのやめなよ」

 プライバシーへとずかずか踏み込むアエイウにレシュリーは毅然と注意する。円滑性を求めるうえでもアエイウには今は自重してもらう必要があった。

「貴様、いい子ぶるなよ」

「いい子ぶってでも今はそういう話をしてる場合じゃないだろ」

「いいのよ。いいの。元彼なんてもものじゃないわ」

 僕たちの言い争いにエリマが爆笑し、釣られて場が自然と和む。

 空気が変わったことがアエイウにも感じられて、「だから気に食わん」とそれっきり黙った。

「とりあえず、ミンシアも探しながら……」

「その……そのミンシアさんなんですけど」

 エリマの言葉に挟まるように、ムジカが意を決して言いただした。

「私たちで探してはダメですか」

「ダメ、ではないわよね?」

 エリマがレシュリーに問いかける。

「うん。まあそうだけど……いいの?」

「はい。それが今回の私たちの役目だと思うので」

 対して戦闘で役に立てなかったムジカたちはどうにか役に立ちたいのだろう。レシュリーがケガ人を守れと言ったときのように推察してそう宣言した。

「でもメリーちゃんは連れて行ってあげてくださいよ」

「言われなくても。毒素にはきっとメレイナがいないと勝てない」

「じゃ、捜索班と討伐班に分かれましょう」

 その提案でレシュリーたちはパパッと二手に分かれた。

 捜索班はムジカとセリージュ、ケガから治ったばかりのウイエアとフィスレ、リアンとアル、エミリー、シッタが担当。ついでに縛られたティモルベも連れていく。

 大所帯なのは、この建物のなかに以前強化動物が放たれていたことを懸念して、だ。おそらく罠の類もあるだろう。

 エリマの情報によれば、一番危険なのが三階だという。

 討伐班はレシュリー、アリー、コジロウにイロスエーサ、メレイナ、ネイレス、それにアエイウとエリマとなる。戦力的にはイロスエーサは足手まといだと自覚していたが、エンバイトの件を見届ける役目もあった。イロスエーサが同行しないとなればウイエアがついて行くと言い張るだろう。

 こちらが把握しているのはブラギオとアリサージュだが、ティモルベのように把握できてない冒険者がいるとも限らない。

 討伐班は昇降機で最上層に、捜索班は階段で上層へと向かう。

 どちらの班にせよ、より警戒して動く必要があった。



 ***


 

「あーあ、これじゃああんまり変わらないです」

 三階へと向かったミンシアは檻に捕らわれていた。なんてことはない侵入者撃退用の罠にはまってしまったのだ。

 迂闊といえば迂闊。油断といえば油断。ノードンが降りてこなかったのが救いだろう。

 檻が変に頑丈なのは幸運とも不運とも呼べた。

 ガンッ、ガンッと鳴り響く音が止む。

 自分の力では破壊できないのは不運だが三階に解き放たれていたステルスジャガーの攻撃をビクともしない。先ほどから二度、三度体当たりしていたステルスジャガーが檻の破壊を、強いてはミンシア自体を攻撃するのを諦めてくれたのは幸運ともいえた。

 四階が居住区で安全すぎる反面、三階はがっちりと罠と魔物の巣窟になっている。

 変なところに舞い込んでしまった、とミンシアは今更反省する。

 通路を慎重に歩いていたつもりだったが、突然、天井から檻が落ちてきて脱出する前に捕らえられた挙句、部屋の壁が開き、檻ごと部屋のなかへと引きずり込まれてしまっていた。

 再び壁は締まり内窓もないため通路からは確認できない。ただ、通路ではなく部屋に引きずり込まれた以上、それには理由があるはずだった。檻と部屋の隙間にはステルスジャガーが鎮座しているが、それ以外の理由もあるように思えた。

 それがミンシアにとっては不気味でならない。

 そんな不穏な空気を醸し出す三階へとシッタたちはやってきていた。

「さて鬼が出るかジャガー出るか」

「まあ、ステルスジャガーは出るだろうね」

 かつてこの集配社に忍び込んだときにも言っていたセリフを【舌なめずり】しながら使い回したシッタにフィスレが冷静に対応。

 おちゃらけているようにも見えるが戦闘に立ってシッタは警戒をしていた。怠っている様子は微塵もない。

 忍士には【抜目(サーチ)】がある。その忍術を使用している間は、罠のある位置、構造が確認できるようになっている。

 罠が発動しても、どう解除すればいいのかわかる抜け目がない技能だ。【抜目】がない忍士はこういう場面で対応できず糾弾されることもあるが、シッタもその苦い経験があるため【抜目】を覚えていた。

「ちゃっちゃと終わらすぞ」

「レシュリーくんがいないと途端にキミは仕切りだすな」

 フィスレがそんな感想を述べるが、フィスレ自身もアルたちも文句を言うことはなく続いていく。

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