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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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石竜

 93


 瞬時にエリマは鉄盾銃〔ごり押しのヴェーヴェッカス〕に切り替える。

 【収納】を使っていないので、体勢を切り替えた証拠だった。

 そのまま鉄盾で雷の剣矢を防御。同時に鉄盾銃から銃弾を連射。

 鉄盾銃を使っているエリマをノードンは見たことがあるが、その鉄盾銃から放たれた銃弾の速度はノードンが計測していた情報よりも数倍早い。

 慌てて初弾は何とか避けるが、次弾が腕を掠め、何発目かが、足に切り傷を作った。

 連射性能に優れているわけでもないのに、ありえない速さだった。

 乱れた呼吸を整え、ノードンは考える。

 討伐師が態勢技能を使えることを知っている。適宜それを切り替えることで能力を上下させることも。

 【収納】を使わず武器を切り替えれるのは、おそらく態勢技能に組み込まれているのだろう、と推測。そこから先ほど防御した際に【収納】無しで武器を切り替えたのは態勢を切り替えたからだ、と予想。そうすれば合点が行く。

 鉄盾銃であれば盾で防御できるので、防御力はある程度犠牲にできる。ゆえに防御力を犠牲にして攻撃速度か何かを上昇させる態勢に切り替えたのだとノードンは結論づける。

 その推論はエリマに言わせれば80点。結論だけが間違っていた。

 保護封を持っているので無理ではあるが、【分析】して数値化すれば防御力は上昇していた。

 エリマが使用した【守勢・反撃型(カウンターモード)】は防御力を上昇させ、相手の攻撃直後のみ、自分の攻撃速度を上げて反撃できる態勢だった。超高速で攻撃できる分、実は攻撃力を犠牲にしているのだが、ノードンは直撃していないためそれに気づけなかった。直撃していれば、銃撃された割には自分の傷がやや浅いことに気づけただろう。

 すぐさまエリマは態勢だけを切り替える。武器は切り替えずにそのまま連射。

 【守勢・反撃型】よりも攻撃速度、威力が増していた。

 先ほどノードンが勘違いして結論づけた防御力犠牲の攻撃速度重視の態勢技能。

 【攻勢・射撃型(シューティングモード)】。

 ノードンが勘違いしていると知らないエリマにとっては不測の事態。

 反対に勘違いしていたノードンにとっては勘違いがそのままその通りになったのだから幸運が舞い込んだかたちとなる。

 ノードンが加速。顔がよりプテラノドンに近くなっていた。

 斧刃に似た鶏冠が頭から後ろへと逸れるように生えて、歯が歯茎へと消えていき、入れ歯をとったような老人のような、酸っぱいものが口の中へと広がり口を窄めたかのように変化して、そこから顎を巻き込んで嘴へと変わる。

 鳥類よりも大きく長い嘴は不安定極まりないが、斧刃状鶏冠が重しとまり、均衡を保っていた。

 鶏冠と嘴による安定性の向上が飛行性能を上昇させていた。エリマが現れる前に乱された気流での飛行経験がなくバランスを崩したノードンだが、安定性の向上により、それもなくなるはずだった。

 変化までは安定を維持するため慎重を期していたノードンだが、完全変化したことにより、もはやそこに意識を割く必要もなくなる。

 螺旋を描くように超加速で、地面すれすれを飛ぶ燕のように、けれど鉄盾銃の弾丸を避けるように左右に不規則に揺れながら、ノードンはエリマに接近。

 すれ違いざまに連射魔導銃〔散らばるカーン〕で魔法階級6の【夜闇弾(ダークネスバレット)】を魔砲として放つ。ノードンは気分でコロコロと撃つ弾を変える癖があり、相手の得手不得手ですら関係なく発動する熟練度が平均的に未熟だった。

 エリマの想定外の速度で接近したことをノードンは自画自賛して、身を震わせた。

 冒険者らしからぬ態度は神父として放蕩していた時間が長かったゆえだろう。もともともナルシストな面もあった彼は冒険者を放れて満たされなくなった欲求を、慈悲の中にも求め出し、自己陶酔していた。

 エリマが回るように体を逸らすのが見えた。

 間に合いませんよ。あなたでも完全に避け切れない、とノードンは笑う。

「ぼげぇええ!」

 途端に悲鳴を上げて宙に吹き飛んだのはノードンだった。

 あの女は避けようとしていたはず。何が、何が起こったのですか?

 解析、分析、情報処理、言葉はなんだっていいが、そんな時間はノードンに与えられなかった。

 エリマが殺気を乗せ、大拳鉄鎚を叩き込む。羽を畳むように腕を組んで防御。さらに【収納】で空になった棺を前に出現させる。

 棺もろともエリマが大拳鉄鎚を叩きつけた。棺はあっさりと破壊される。

 ノードンは地面に叩きつけられる間際、ちらりとエリマの後ろにあるものが見え、ようやく理解した。なるほど尻尾ですか。

 自分を吹き飛ばした正体に気づいてノードンは顔を歪ませる。

 エリマは回るように回避したのではなく、尻尾を回して攻撃しようとしていたのだ。尻尾には【夜闇弾】が浸食した痕があった。

 エリマはここぞというときに防御を捨てて攻撃に転じていた。その胆力をノードンは想像すらしていなかった。

 何を思ったのかエリマにも使っていたDLCがこうも自分を苦しめるとは思ってもいなかった。裏切る可能性は十分にあったはずのに人質を失えばこうなると分かっていたのに。

 わずかにブラギオが行った行為を疑い、そして怨むが、人質を逃がしたのは自分の落ち度だから笑えない。

 そのまま地面に叩きつけられたノードンを尻目にエリマの尻尾が自動的に切断されれ、瞬時に生え変わる。エリマが使わされたDLC『恐/狂竜感染:石竜(ファースト)』は一番最初にできたDLC『恐/狂竜感染』でモデルは恐/狂竜に遺伝子レベルでそっくりの今も現存するクラミドサウルス(古代蜥蜴)

 蜥蜴の力を得たエリマは蜥蜴が尻尾切りをするように、もしくはヤマタノオロチと呼ばれた魔物が首のような尻尾を切って再生するかのように、エリマもまた自分で尻尾を切って再生していた。

 尻尾だけではなく、ところどころに受けた傷すらも同時に。

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