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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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態勢

 92


 テンタクルワームがセリージュの四肢に絡みつき、睡眠効果の液体を吐きだす。

 眠った状態のセリージュの顔をノードンは撫でていく――。

 ノードンはテンタクルワームがセリージュを捕まえるよりも早くそんな妄想をしていた。

 しかし、その妄想は叶うことはなかった。

「はああああああああああああ!?」

 絡みつく寸前、寸断されたテンタクルワームの姿にノードンは絶叫していた。

 テンタクルワームは真横から伸びた剣によって、真っ二つになっている。

 寸断したのはもちろんセリージュではない。

 意志無きティモルベでもなければ、イロスエーサでもなく、もちろん、ムジカでもリアンでもない。フィスレにウイエアはやっと動ける程度まで回復し、いよいよ援護しようとしていたところだった。

 レシュリーたちは未だ、二階で戦闘中。

 だとすれば誰が……、その答えはノードンの口から出た。

「なぜ、ここにいるのですか! エリマ・キリザード」

「もう人質がいないからに決まってる」

 寸断されてもなお、わずかに動けるテンタクルワームの死に際の一撃を避けることもなくエリマは受けて返し刃で切り刻む。

 アエイウが助けに来たと知ったときから逃げる隙を窺っていたエリマはブラギオが調合室と呼ぶ部屋に閉じこもってなにやらし始めたのを見て、逃げ出していた。

 まずはミンシアの救出を、と考えたエリマはおそらくノードンがいるであろう懺悔室に向かった。そこで破壊された窓を目撃し、ミンシアが自力で逃げ出したことを知ったのだ。

 どこに逃げたかは分からなかったが、一先ず破壊された窓から外へと出て、そうしてノードンと戦っているセリージュたちを発見して、テンタクルワームをとりあえず斬った。

「にしても人質を逃がすなんてね。感謝するわ、ノードン」

「黙りなさい」

 触れてほしくなかったことに触れられて、我を忘れたかのようにノードンは叫ぶ。

 ノードンに翼があるようにエリマにも変化があった。

 両手足が竜にも似た爬虫類の鱗に覆われ、破れた上皮防護服の尻部からリザードマンにそっくりの尻尾が生えていた。目は蛇のように鋭く、細長い。

「こっからは存分にあんたたちを倒せる!」

 エリマはノードンに肉薄。接近戦は不利すぎるノードンは近づかれる前に、【炎連弾】を連射。

 エリマは跳ぶようにそれら全てを避け、紫襟巻を靡かせながらノードンに接近。

「だから嫌なのですよ、あなたは!」

 相性が悪すぎるノードンは毒づくがエリマの知ったところではない。

 狩士だったエリマは不本意にランク7となり、上級職の討伐師になっていた。

 離れながら、超高速の【電磁砲(カノン・ア・ライユ)】を発動。

 砲術にも見えるが、【電磁砲】は雷属性の魔砲技能だった。

 超至近距離での【電磁砲】は先ほどのように避けることはできなかった。

 エリマはそれでもすんでで防御姿勢。

 直撃したはずなのに外傷は想像よりもずっと少ない。

 チィ、とわずかに距離を離したノードンは舌を打つ。

 討伐師は態勢(スタイル)を瞬時に切り替えることで、様々な状況に対応することができた。

 テンタクルワームを攻撃した際は攻撃特化の【攻勢(アタックスタイル)突撃型アサルトモード】。

 【炎連弾】を避けた際は跳躍特化の【速勢(スピードスタイル)跳躍型(エリアルモード)】。

 【電磁砲】を防御した際は魔法防御特化の【守勢(シールドスタイル)魔防型(レジストモード)】。

 一つを特化する反面、【攻勢・突撃型】と【速勢・跳躍型】は防御力が、【守勢・魔防型】ならば物理的な防御力がわずかに弱体化する。読みが外れればデメリットにしかならないが態勢技能によって討伐師は万能を増していた。

「銃器を破壊したら、下がってなさい」

 エリマはセリージュにそう伝える。

 先の【炎連弾】が何かに引火し、火の手があがり、一階を徐々に火の海へと変えつつあった。

 銃器のほうへ動くセリージュを妨害せんと動くノードンだが、当然エリマに妨害される。とはいえそれはノードンの想像通り。

「やはり、あなたから慈悲を与えなければなりませんねえ!」

 宣言するノードンに対してエリマは大拳鉄鎚〔指差しヤェウイ〕を取り出した。

 初めて見る武器だった。

 なにせ、ノードンはエリマの武器を三つしか知らない。

 集配員でありながら情報を知らないのは恥のように思えるかもしれないが、購入履歴を全て知ることはできない。それらは記録されているわけではなく、武器を売った側から得るしかない情報だからだ。その武器屋が顧客の情報をほいほい売るわけでもなければ、どんな武器を使うかは戦闘を観察するか対峙するしか知る手だてがない。

 エリマは狩士のときに武器を八つ持っていると言われながらも、三つの武器しか使っていなかった。

 四つめの武器を取り出したのは気まぐれか、それともその鉄鎚が有利と見たのかノードンには分からなかったが、

「そんな武器を使うとは、この後に及んで舐めているのですか?」

 とりあえずそう言わざるを得なかった。

 大拳鉄鎚は大きな鉄鎚だが、鎚頭の部分が、鉄でできた人の拳を模っている。じゃんけんのグーを巨大化して鎚頭にしたような感じだ。

 少しユーモラスを感じさせるそれは確かに相手を舐めている、相手を軽んじていると見てもおかしくはない。

「そうかもね」

 エリマは挑発の意味も含めてこの武器を選択していた。

 【攻勢・襲撃型(レイドモード)】で攻撃力と防御力を高め、大拳鉄鎚を大きく振り上げる。

「そんな大振りでは当たりませんよ」

 宣言通り、ノードンが余裕で避ける。が眼前にはすでにエリマがいた。【速勢・追撃型(チェイサーモード)】で追いかけ、長方形剣〔巻舌のヒュッヒューイ〕を突き出す。【収納】で切り替えた様子はなかった。ノードンは動揺しながらも、無様に転がるように回避。魔法筒は脆く防御できないのがきつい。

 ノードンの知らぬところではあるが、態勢技能は、態勢を切り替えると同時に武器を切り替えることもできた。

「はああああああああああ!」

 ノードンが体勢を戻す前に【速勢・連撃型(コンティニアムモード)】で攻撃速度を速め、大拳鉄鎚を細かく振るう。

 ノードンはわざと一撃目を受けて、わずかに吹き飛ぶことで続くニ撃目を避ける。

 けれどその一撃は重い。気絶するんではなかろうか、という一撃を受けて、体に浸透した衝撃が、動きを鈍らせる。

 それでもノードンは攻撃に転じた。

 連射魔導銃〔散らばるカーン〕で【雷々剣トニトゥルスグラディウス】を連射。剣を模した雷の矢が高速でエリマへと向かっていく。

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