破壊
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イロスエーサに幸運だったのは、相手がノードンだったことだ。
ステゴとの防衛戦でも互角に守っていたつもりでも、どこか相手に手加減を感じられた。
ノードンは奥の手こそ隠していそうだが、ステゴにはあった手加減を感じられないのだ。
それもそのはず。ノードンはランク7でこそあれ、ランク6だったステゴたちが封印の肉林に閉じ込められ必死に生き延びていた間、ノードンはひっそりと神父として慈悲を与えて暮らしていたのだ。
戦闘経験はステゴたちよりも随分と足りていない。ブランクがあった。
それでも集配員として、そして幹部としての強さは兼ね備えているが、そもそも幹部未満の構成員は情報収集を主としており、比較対象にはならない。
四合せな賽子の目によって恩恵を受けたイロスエーサの賽子群〔出鱈目なゴグルゼト〕の賽子のひとつがノードンへと飛んでいく。
強烈な指弾きで飛ばした賽子のひとつがノードンの脚を的確に穿つ。
脚を狙ったところで翼のあるノードンの速度には関係ない。
次にイロスエーサは腕を狙う。【収納】で収納してある賽子を構えた指に出現させて、連続で弾いていく。
速射銃の弾丸を飛び込むように避けて速射銃にニ発、次いで機関銃から放たれた銃弾をしゃがみ込んで這うように避け、機関銃にニ発。銃口が爆発。
当然、賽子程度では破壊できない。だがイロスエーサは銃口にその口径にあったサイズの賽子を入れ込み、爆発させたのだ。
設置された速射銃と機関銃は自動的に照準を合わせて対象を撃ってしまうため、弾詰まりには弱く、イロスエーサはその弱点を突いたかたちとなる。
空を旋回していたノードンだがその精度には堪らずイロスエーサの妨害に向かう。
滑空を避けて、ノードンが放つ【風来暴】の連射を転がるように回避。すれ違いざま不安定な態勢にも関わらず、腹に二発。強化の恩恵を得て、イロスエーサは高速で打ち込んでいた。
一方でセリージュは大きく壁伝いに速射銃の後ろに回りこんでいた。
速射銃と機関銃は飛び出したイロスエーサを狙っているため、ある程度は安全ですんなりと回りこめた。
もちろん、数個の速射銃と機関銃はセリージュを狙ったがその銃器をピンポイントでメレイナが破壊していた。
後ろに回り込めば、銃器の脅威はない。円形の台に設置されている銃の首は後ろまで回ることはない。セリージュは安心して、破壊に専念できる。
もちろん、ノードンの邪魔がなければ、だ。
避けながらのイロスエーサよりも速い勢いで破壊していくセリージュのほうが厄介だと判断してノードンは空からセリージュへと狙いをつける。
持っているのは魔法筒〔咽び泣くジジェレニ〕。飛距離があるうえに、広範囲にばらまける魔法筒に【土星流】を込めて発射。
まずは丸まって、その後弾けて土砂崩れのようにセリージュの周囲を覆いつくす、はずだった。
発射に合わせてムジカが【強突風】を展開。
ノードンに当てるつもりはなかった。
レシュリーのようにムジカが下した判断。
確証はなくても自分の運を信じて、ムジカは【強突風】による強い突風で気流を乱したのだ。
発射寸前でノードンの態勢が揺らぐ。発射された【土星流】はあろうことか自分で設置した銃器を飲み込んでいく。
ノードンの飛翔能力は高い。けれどそれは安定した大気のなかでの話だ。悪天候での飛行はしたことがない。経験がなければ対応に遅れる。
今回はその経験不足がもろに出てしまっていた。
さらにもうひとつ。そのぐらついたノードンの眉間にイロスエーサが的確に賽子を打ち込んだ。さらにぐらついたノードンの翼を連弾によって打ち抜いてく。
風の影響を受けてもなおその精度を誇るのは強化の恩恵を受けてはいるものの経験の差だろう。
「こんな屈辱は初めてですよ」
墜落に近い格好で着地したノードンは顔を歪ませて【収納】を発動。
大きく開いた黒い穴から棺を取り出した。
「ティモルベくん。出番ですよ」
死んだ魚のような目を増した召喚士がのっそりと棺から出てくる。
「あーーーーーーーー、うーーーーーーーーーーー」
ティモルベは意識無き返事で返す。
余計な一言によって意識さえも奪われたティモルベはただ命令だけを聞く従順な機械のようになっていた。
【封獣結晶】を投げて、そこに封じ込まれていた魔物を呼び出す。
「そんな……」
メレイナにはどこかその顔に見覚えがあった。祖父が生きている間に出会った召喚士のひとりだったような気がするのだ。
「ティモルベ……ティモルベさんですよね!?」
記憶の糸を手繰り寄せ、叫んだ。メレイナが出会った彼はもっと若々しかったうえに今は別人のようにも見えたが、ホクロや特徴的な八重歯の位置は本人で間違いないように見えた。
行方不明とされていたため、異端の島に連れ去られたと思っていたが、どうやら違ったらしい。
「こんなふうにするなんて……絶対に許せません」
メレイナが怒りを覚えるなか、【封獣結晶】からテンタクルワームが出てくる。慈悲のためにノードンが捕まえさせた魔物だった。
蚯蚓のような細長い姿をしており、頭と尻尾に無数の触手が生えていた。
「あなた方には最大限の慈悲をプレゼントしますよ」
「あーーーーーーーーーー、うーーーーーーーーーーー」
ティモルベの喘ぎ声にも似た声でテンタクルワームは動き出す。
尻尾の触手で地面を高速で這い、一瞬でセリージュに近づく。
うねうねと動く頭の触手がセリージュを捕まえようと伸びる。




