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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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賽子

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「なんであるか、あれは……」

 空飛ぶ物体にいち早く気づいたのはイロスエーサだった。

「こっちに向かってきてるのね」

 声に応じてセリージュが負傷者を守るように前に出て、魔充剣ビフォとアフタを構える。

 メレイナとムジカもその後ろで唾を飲み込んで臨戦態勢。得たいの知れないそれに十全に警戒していた。

 まともに戦えるのはその四人だけ。

 リアンはフィスレとウイエアの治療をすべく詠唱を始めていた。

 フィスレやウイエアは常備していた回復錠剤(タブレット)を飲んでいるが、状態異常を治す解毒剤などと比べて回復薬はあくまでも回復細胞を活性化させるだけなのでどうしても遅効性となる。

 フィスレもその得たいの知れない飛行物体と戦おうとしていたがリアンに代わってウイエアが止める。回復こそが戦線復帰の一番の近道だった。

 得たいの知れない飛行物体――ノードンは近づきざまに【収納】によって武器を取り出す。

 翼は手に一体化しているというよりも、水かきのようなマントが手首から腰にかけて張りついているため、手は自由に動かせ当然のことながら武器を持てる。

 上級職――大砲師、昇格前の複合職、魔砲士は魔法筒や魔導筒など魔導銃器を扱うイメージが多いが、当然、小型魔導銃も存在し、その一種である魔蓄銃はかつてレシュリーたちが戦ったドゥー・ドゥーが使っていた。

 ノードンが取り出したのは連射魔導銃〔散らばるカーン〕だった。

 繰り返しとなるかもしれないが、魔砲技能は魔砲技能のほか、冠や弾などを関する魔法を魔砲技能として撃つことができる。

「幹部のひとりであるな」

 近づいてきたノードンを見て、イロスエーサはそう判断。

「そうですが、さてどうしますか?」

 問いかけてノードンはイロスエーサの間際で急上昇。

 途端にイロスエーサが小刻みに押されながら切り傷を作る。

 ノードンは急上昇に合わせて【風来暴(ヴァリア・スィエラ)】を宿した連射魔導銃を発射していた。

 魔砲は適正距離で撃たなければ威力が減衰してしまう。

 魔法筒や魔導筒といった似たような種類が多種類あるのも特徴で、魔法筒は近距離から遠距離、魔導筒は遠距離以上が適正距離となっている。

 ノードンが使う連射魔導銃は至近距離から中距離までなっており、ある程度近づく必要があるが、連射性能に優れている。

「やりますね」

 仰け反ったイロスエーサに向けてノードンは感心する。

 ノードンは右目から出血していた。

 攻撃を受けながらも、イロスエーサは賽子群〔出鱈目なゴグルゼト〕のひとつを指で強烈に弾き、的確にノードンの右目に当てていた。

 イロスエーサは逆転士だが集配員である以上、情報を入手して時には逃げることもある。その際に、追撃者の目を喪失させることで、逃亡の確率を増やしてきた。

 追撃者が強化動物のコンコンドル(合成鷹)を使ってくることもあり、それを撃墜するのにも使うゆえに、イロスエーサにとって飛翔系の対象は苦手ではない。

 ただ失明狙いで放ったイロスエーサの賽子はノードンがぎりぎりで目を閉じたため、そこまでには至っていない。

 ランク7というのはお飾りではないのだ。

 ノードンは再度襲来するかと思いきや、イロスエーサの予想に反して、離れるように大きく旋回していた。

 その旋回中にノードンは床へとあるものを落としていく。

 砲術技能【速射銃カンノーネ・ア・ラッフィカ】と【機関銃(ミトラリアリトーレ)】によって生成された速射銃と機関銃だった。

 速射銃と機関銃は威力、弾の大きさ、減衰距離ともにまったく同じだが、速射銃は手動装填、機関銃は自動装填と違いがある。

 手動装填のほうが精神磨耗が低く生成することができるメリットがある反面、【弾丸装填(リロード)】によって弾丸を装填しなければ自動的に消滅してしまう。

 一方の自動装填は弾切れを起こすと、使用者の精神に交信(リンク)して自動的に弾丸を装填する。離れている際に装填しに行く手間がないのがメリットだが、一方で消滅を指示しなければ、使用者の精神が磨耗しきるまで無限に弾丸を装填し続けるのがデメリットといえた。

 ノードンはその良し悪しを分かったうえで使い分けるべく、速射銃と機関銃を不規則に並べていく。

 並べた傍から弾丸の雨が降り注ぐ。

「それは冗談抜きでやばいであるな」

 イロスエーサは【収納】によってまるで門扉のような盾、門扉盾〔仁王立ちのグンザ〕を取り出した。

 逆転士も装備できる武器は多岐に渡る。その中からふたつの武器を装備できるようになっていた。狩士が8つまで装備できる、という冒険者の表現はつまるところ、適正な武器装備数が8つまでという意味で、実はそれ以上装備することも可能だった。ちなみにカジバの馬鹿力を使ったルルルカが一度に101個もの匕首を使用したように何らかの条件でその適正は変わる。

 門扉盾〔仁王立ちのグンザ〕はイロスエーサが持ち運びできないほど、頑強な盾だった。門扉盾の両端は杭のようになっており、それを無理矢理地面に突き刺す。“ウィッカ”一階の床はコンクリートだが、使用者の魔力を使用して杭が回転。床を破砕してしっかりと食い込む。

 イロスエーサを狙った弾丸が全て門扉盾に阻まれる。

「ここままではジリ貧であるな……」

 門扉盾が防いでいるとはいえ、徐々に門扉盾は削れてきている。

 弾丸の雨というより弾丸の嵐だった。

 しかも厄介なことに弾切れした速射銃を【弾丸装填】したノードンがイロスエーサのほうへと向かってきている。

 なんとか攻撃しようとしていたセリージュたちだったが、弾丸の嵐をどうにかしないと攻撃は難しい。ノードンは当然、セリージュたちにも対応すべく速射銃と機関銃を設置し、それらの弾丸から回避するように門扉盾の陰に飛び込んでいた。

「やるしかないであるな」

 三つの賽子を強く握って、イロスエーサは覚悟を決める。

「ムジカどの、セリージュどの、メレイナどの」

 イロスエーサが三人の名前を呼ぶ。名前を知られてないと思っていた三人は若干驚くがイロスエーサは集配員だ。名前と職業ぐらいは把握している。

「これからの結果次第では、三人には速射銃と機関銃を破壊してもらうである。準備を」

 イロスエーサはそれだけを告げる。結果次第と言われたが、ムジカはどうあれ詠唱を始める。

 それを確認してイロスエーサは三つの賽子を転がした。

 それは逆転技能において唯一、賽子がなければ使えない技能であり、さらに上級職である大逆転師が使うことができる運任せのギャンブル技能に似た、唯一逆転士が使える運任せの逆転技能。

 三つの賽子の出目によって、自身が強化するか弱体化するかを決める【良回廻悪(ダイスロール)】をイロスエーサは発動していた。

 一つ目が四。二つ目が四。三つ目が四。

 四合わせのゾロ目にイロスエーサは驚く。四合わせと幸せがかかって、四のゾロ目が一番強化の値が高い。

 〈幸運〉たるムジカがいればその結果は必然だったのかもしれない。

 幸運にも十全の恩恵を受けたイロスエーサが動き出したのに合わせて三人は動き出す。

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