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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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三巴

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 DLC『恐/狂竜感染(ダイナミック):剣竜(ウェポン)』。

 モチーフは恐/狂竜ステゴサウルス(剣竜)

 ステゴサウルスは背中に剣のような板が互い違いに屋根のように並んでいる恐/狂竜だった。

 それにより近く、といえるかどうかは定かではないが、ステゴの腹から背に突き刺さっていた剣の柄が体内へと侵入。柄が見えなくなり、完全に背中に剣の刃だけが残る状態になる。

 その後、背中だけに限らず、太ももの裏、肘、二の腕の裏、手の甲、と刃が体内から生えていく。

 獣化士、怪獣師でもあるまいのに、顔が蜥蜴のように、いや恐/狂竜のように、というべきか変化し、皮膚も恐/狂竜のように、爬虫類の肌に獣の毛が生えたようなものへと変わっていた。

 変わりきったあと、ステゴの手元に剣が現れる。

 今までのように突き刺さっていた剣を引き抜くことは不要。【収納】から武器を取り出すかのように簡単に出現させることができるようになっていた。

 生み出した、いわば生成剣と、愛用している長々細刺剣〔同時斬りヤスツナ〕をそれぞれ握り締め、

「これがDLCの本当の力……」

 ステゴは強さを噛み締める。

 進化。覚醒。呼び方はなんだっていい。

 満ち溢れてくる力が、才覚持ちに匹敵する、と教えてくれた。

「らああああああああああああああああああ」

 咆哮。

 跳躍して体を丸め、強化動物ハリネズミーのように背中に生えた剣を外に向けて空中回転。

 ひき肉にするように回転する剣がアエイウの皮膚を削っていく。避けなかったのは後ろにエミリーがいたからだろう。ステゴにとっては偶然に過ぎないが、アエイウには不運。だが、驚いて腰を抜かしたエミリーを捨て置くわけにはいかない。アエイウは自分の女を見捨てるような男ではなかった。

 【鋼鉄表皮】を使ってはいるが肉を削られ、【肉体再生】で回復を繰り返す。

 そのまま、【筋力増強】で押し返す――のではなく押し潰す。

 圧迫する感触を覚えたのか、ステゴは自由な右手に握る長々細刺剣によって剣技【浄華塵(ダストブレイカー)】を繰り出す。

 塵をも切り伏せる切れ味の刃が、瞬く間に押し潰そうとしていたアエイウの両手を切断。

 そこから脱出して一先ず後退。

 だがそれをアルが許さない。刀剣を鞘に収めたまま、溜め。

「【新月流・――」引き抜く。「――立待の初】!!」

 鋭い一撃が横薙ぎに放たれる。首を狙ったそれは殺意すらも込められていた。

 それを読んでステゴは首を逸らす。首をわずかに掠めるも致命傷には至らない。ステゴは感覚ですら研ぎ澄まされていた。

 次いですぐに生成剣を後ろに振るう。直後、衝撃とともに刀身が曲がる。

 レシュリーが死角から投げた【剛速球】を、球が風を切る音で見切り、見向きもせずに防いだのだ。

 そのまま、ステゴは跳躍。またもや丸まって、回転する鉄球のようにレシュリーを狙う。その射線上にはトゥーリがいた。

 がもはや関係なかった。

 後ろからトゥーリを襲い、動揺とするレシュリーへとそのまま向かっていく。

「ボサッとしない!!」

 レシュリーを叱咤するとともにアリーが庇うように前に出る。

 すかさずレシュリーは【転移球】でアリーごと回避。

「味方ごと狙うなんて……」

 レシュリーには理解ができていなかった。

 それはステゴの、いや恐/狂竜の本能だった。

 恐/狂竜は基本的に群れで行動するが、行動する日々のなかで他の恐/狂竜と戦い、積み重ねていくことで圧倒的な力を手に入れる個体が誕生する。それを絶対王者と呼んだ。

 絶対王者と呼ばれるようになった恐/狂竜は群れを必要としない。むしろ不要と考える。

 群れるのは生き残るためだ。しかし絶対王者となった個体はもはや独りでも生き残れる。ゆえに今まで味方だった群れが敵にならないように、ひとり残らず食い殺す。

 その本能が、ステゴに感染していた。絶対王者、その本質をステゴは呼び起こしていたのだ。

 レシュリーを狙っていたはずのステゴが、トゥーリへとその対象へと切り替える。

「どうして……キモ分かんない!」

 いきなり襲われたトゥーリは問いかける。ステゴは超強化技能【激昂激化】のように我を忘れているわけではない。

「邪魔なんやし!」

 感染した絶対王者の本能がステゴに叫ばせる。

「キモ分かんないけど、キモ死にたくないから殺してやる!」

 激昂してトゥーリはステゴに襲いかかる。高速の乱撃戦。レシュリーたちは完全に乱入するタイミングを失っていた。

 永遠に続きそうな戦いにも思えたが、絶対王者の恐/狂竜とただの恐/狂竜では差は歴然。

 バカが乱入するまでは。

 ふん、とステゴの顔を殴ったのはアエイウ。トゥーリとの戦いに集中しすぎたステゴの隙を完全についていた。切断された両手は再生して元通りになっている。

「ガハハハ。オレ様、参上!」

 この戦いに乱入することをアエイウは宣言。大笑いしながら、ステゴへと打撃を繰り返していく。

「キモ邪魔。これは私の戦い!」

 トゥーリが小蠅を振り払うようにアエイウへと薙ぎ払いを放つが、それをアエイウは優しく抱きしめるように手で受け止めて、

「ガハハ、かわいこちゃんに加勢するのが男の性分ではないか!!」

「そういうのキモいから」

 トゥーリがアエイウとステゴを、ステゴがトゥーリとアエイウを、アエイウがひたすらにステゴを攻撃するという変な三つ巴が形成されていた。

「……何にせよ、今がチャンスなのかな」

 その三つ巴を黙って見ているレシュリーたちではない。

 アエイウの突拍子のない行動のお陰で自由に動ける今を利用しない手はなかった。


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