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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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魔導


 81


「助かったわ」

 【転移球】で救出したアリーが僕にお礼を告げる。

 まさか自爆するとは思わなかったけれど、それでもなんとか救出できた。

 何かをしてくるという一種の予感が僕にあった。

 それに従ってずっと僕はアリーのことを見ていたのだ。

「ガハハ、よくぞオレ様の女を守った」

「いや、僕のだから」

 何、言ってんのよ。バカ……とアリーがらしくもなく照れる。

 アリーが照れたのが嬉しくて思わず顔がにやけそうになる。

「それよりもキミはエミリーさんをきちんと守ってあげなよ」

 ごかますように危なげな場面が何回かあったので、そう忠告しておく。

「うるさい!」

 アエイウが分かっていると言わんばかりに怒鳴る。

「ほら、さっさと上に手伝いに行くわよ。きっとコジロウたちも遭遇してるはずよ」

 顔を真っ赤にしながらアリーは上への階段を目指していく。

「あの……」

 メレイナがもじもじしながら、アリーに続こうとした僕に話しかけてきた。メレイナも幾許か顔が赤い。

「何もできなくてごめんなさい」

 確かにメレイナの出番はほとんどなかった。

「メレイナの活躍の場はここじゃないよ。毒素が出てきてから。それまで戦力は温存しておかないと」

 今回の戦いで役に立てなかったことが悔しいのだろう。素直に悔しいと思えるその気持ちだけを評価したい。

「セリージュもメレイナたちを守ってくれてありがとう」

 セリージュもほとんど何もできなかったけれど、それは僕がリアンにムジカ、メレイナ。もちろんエミリーさんも含めた後衛を守るように言い含めていたからこそだ。

 後衛の防衛は戦略的にも、そして前衛の安心感に繋がる。後衛の防衛がいなければ、アルは特にリアンのことが心配で、その攻撃力が十全に活かせない可能性もあった。

「それと絶対に死ぬのはダメだから無理は厳禁ね」

 もっともアエイウに助けられた場面もあったから、僕ももう少し後衛を守っているセリージュにも危険が及ばないように配慮する必要もあるのかもしれない。

 とはいえアエイウもなんだかんだでエミリーさんを守ろうとしているので、それを利用した面もある。

「じゃあ行こうか」

 僕は足早にアリーたちに追いつく。上の階が心配だった。


 ***


「やっぱ、ザコやし。何も変わってないやし」

 ネイレスを追い立ててステゴは言う。ネイレスとの初戦時に見せた腹から背と剣を突き刺した状態。

 つまりすでに本気だった。ステゴは圧倒的な力で獲物を追い込んでいく。殺しきれなかったのが意外と悔しかったのだ。

【死振】が卓越した域にある、種も仕掛けも分かっているから、ステゴは死んでもなお容赦しないだろう。

 追い立てられながらもネイレスは逃げ続ける。今度はひとりじゃない。

 コジロウとイロスエーサが援護に回っている。防戦一方ではあるが、致命傷にはなっていない。

 ステゴの種や仕掛けもある程度理解しているので対策はできている。

 ステゴが見せていない手があれば話は別だが、出し惜しみしているようにも見えない。

 気になるのは先ほど偵察用円形飛翔機がステゴとそしてこの場にいるもうひとりトゥーリに何かを渡していたことだ。

 あれはなんだったのか? 気になるものの今のところ変化はないように見えた。

 一方のトゥーリも、

「キモッ。舌なめずりとかやっぱりキモすぎる! キモッキモッ!」

「ああん。黙れや」

 怒鳴るシッタは【舌なめずり】できずにいる。変に指摘されて、【舌なめずり】を意識してしまっているのだ。意識してしまった【舌なめずり】はただの舌なめずり。技能【舌なめずり】としての効力を発揮しないのだ。

「落ち着け。惑わされるな」

 フィスレの忠告に「分かってる」と返事をするが【舌なめずり】ができてないことで、無意味と分かる。

「こいつはやばいっぺ」

 【舌なめずり】の強力さが分かっているウイエアも苦笑い。

 実はトゥーリはシッタの【舌なめずり】のことを知らない。

 偶然、シッタと戦闘することになったトゥーリは純粋にシッタの舌なめずりが気持ち悪いと思ったのだ。

 ゆえに戦闘意欲を削ぐ意味で言われているだけだが、それがシッタに効果覿面となっている。

 戦闘開始直後にステゴがネイレスを狙い、それにイロスエーサとコジロウが援護に行ったことで自然と、今の三対一の構図ができあがってしまっているがもしステゴとシッタがぶつかれば、今よりもまだ戦闘が楽になっていたかもしれない。

 今更入れ替わったところで、気持ち悪いという言葉の棘が抜けるわけもない。

 打開策が必要だ、とフィスレは考えながらもその打開策が思いつかずにいる。

 いやそれを考える暇がないほど必死になっていた。

 トゥーリはランク7の魔導師。魔導師は剣が扱える魔法士系複合職、魔道士の上位職だ。

 しかもトゥーリの武器は不壊石の魔呪樹長杖剣〔障子に耳ありジョージにメアリー〕。

 不壊石の魔呪樹杖〔聞き耳立てる執事ジョージ〕と長剣〔目撃する家政婦メアリー〕が合わさった特別仕様。剣の柄が杖になり、柄頭が杖頭になっている感じだろうか。

 つまり剣でもありながら杖でもあるため、剣を繰り出しながら、魔法を発動することが可能だった。

 その利点はすさまじい。前衛で剣を振り回しながらコンパクトに低階級魔法で攻撃することも、遠距離で他の後衛を守りながら、他の魔法士系と魔法を合わせることも可能なのだから。

「不浄の破滅、不条理の不滅。安寧の冷、平定の湿、浄化の乾。暗き深き闇よ、蝕め。キモ【宵闇】!」

 早口で紡がれた魔法が展開。柄頭から闇の球体が素早く飛び、同時に剣を振り回す。闘気は纏ってない。

 そもそも魔導師は剣が扱えるが、剣技を使えない。

 魔導師の最大の強みは魔法が攻撃援護ともに階級10まで扱えることなのだ。

 【宵闇】を避けて振り回された剣をフィスレは受け止める。

 魔導師よりも剣士系の剣の扱いには一日の長がある。

 弾き飛ばして、トゥーリの詠唱が始まる前よりも早く、頭めがけて刀剣〔超合金の魔人ガゼット〕を振り下ろす。

 ギィン! と鈍い音。平然とトゥーリは頭突きを繰り出してそれを跳ね返す。

 トゥーリの頭はまるで鬼のように強靭な角が生え、ひさしが長く広く跳ね上がった兜、長広庇兜(ピークト・モリオン)のように変化していた。

 頭、顔ともに恐/狂竜を模した亜人のような顔立ちになっていた。

 もちろんそれはDLC『恐/狂竜感染』による変化だった。

 トゥーリが使ったのはDLC『恐/狂竜感染:角竜(ダイナミック・ヘルム)』。

 恐/狂竜トリケラトプス(角竜)を模したDLCだった。

「キモいから、さっさと死んで!」

 頭で防いだ刀剣を生えた角で払って、体勢を崩したフィスレへとトゥーリは剣を突き刺す。

「させるかよ」

 無意識に【舌なめずり】をしてシッタは急加速する。

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