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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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首刎

80


 分かっている。任せておいてよ。

 僕は大口を叩いたけれど、策としてはリアンやムジカに手伝ってもらうつもりだった。

 最初から動きを止めることを念頭に置いていたので、もうふたりに何をして欲しいかは伝えてある。

 目配せするとムジカは頼んでいた魔法を展開する。

 詠唱は少し前からしてもらっていた。

「【粘泥(マッドクレイ)】!」

 蛇黒樹の石榴石杖〔這い蹲るナガラジャ〕の石榴石から展開されたのはスライムのようにドロリとした粘り気のある土砂が、ウルとティレーの融合した名もなき“それ”へと発射。

 速度の遅いその土砂を簡単に“それ”は回避。“それ”がいた場所にまるで砂山のように積まれていく。

 アリーは何も言わなかった。それすらも織り込み済みだと判断していた。僕が持つ、【誘引黒球】を確認して。

 その通り。僕はすぐさま、山積みとなった【粘泥】に【誘引黒球】を放り投げる。

 効果はすぐに現れた。

 “それ”を吸い込むかのように、かなりの吸引力を持って【粘泥】へと引き寄せる。【粘泥】が微動だにしないのは、僕が敵のものだと判断してないがゆえ。敵を引き寄せる、それは味方のものであればびくともしない。

 吸引力に負け“それ”が【粘泥】へ突っ込む。突っ込んだところでダメージはない。そもそも援護魔法階級2【粘泥】は敵とその周囲に粘土を撒き散らすことで、素早さを低下、足場を悪くさせ動きを鈍重化させる魔法だ。

 もちろん、それで動きを止めれるとは思ってない。

「リアン!」

 詠唱中なので頷くだけに留めたリアンが、“それ”が【粘泥】へ突っ込んだ瞬間に魔法を展開。

「【|吹水《アクアジェット】!」

 攻撃魔法階級1【吹水】がリアンの白銀石の樹杖〔高らかに掲げしアイトムハーレ〕の柄頭から吹き出る。間欠泉というものがあるが、それと同じように一定間隔で柄頭から水が勢いよく【粘泥】を叩きつけた。

 途端に僕は【火炎球】を連投。

 しっとりと濡れた【粘泥】を急速に乾かしていく。

 水を含んだ【粘泥】が急速に水気を失ったことで、強烈に凝固していく。それこそ身動きを止めるほどに。

 やすやすと破壊できない土の拘束具の完成だった。

 とはいえ相手は怪獣化しているうえに超強化も使える。

 強度が予想でしかない以上、その予想を上回れば壊されるのは時間の問題。

 気休めも兼ねて【蜘蛛巣球】も投げておく。

「アリー!」

「よくやったわ」

 僕の声よりも早くアリーは“それ”に向かっていた。


 ***


 アリーが“それ”に再接近すると粘土の拘束具はもうヒビ割れていた。拘束時間は意外と少ないのかもしれない。麻痺や怯みに比べれば段違いだった。

 すでに投げてきた応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕が“それ”の後ろへと回っている。

 狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕と魔充剣レヴェンティを交差させて、狙うは首筋。応酬剣の狙いもそこだ。レヴェンティには【突神雷】が宿っていた。

 一点集中攻撃にように見えるその剣撃は、すでにアリーの固有技能となっていた。

 剣技と通常の剣撃の違いは何か、と問われれば、闘気かないか、である。

 闘気は薄い膜のように剣を、ときには身を包み、肉眼では視認できないが、熟練した冒険者でなくても感じ取ることができる。

 身の毛もよだつような恐怖や死の予兆、それらはすべて闘気が及ぼすものだ。

 つまるところ【重剣】は急降下からの振り下ろしではあるが、体力を消費し闘気を発生させることで、剣を破損させずに岩をも破壊できる威力と、さらに重力にも干渉し、超急降下を可能にしている。

 【連撃】も同様にただの二連続斬撃ではなく、闘気によって威力と剣速を向上させているのだ。

 アリーの3つの剣はその闘気に包まれていた。剣速、斬撃の威力、魔法剣への攻撃力。首を狙う命中精度。

 それら全てがただの一点集中攻撃よりも上回っていた。

 ぎぃ、

 首へと3つの剣が前後から食い込み、

 ぎぎぎぎぎぎぎぎ、

 強化されかなりの強度を持つ骨に当たるが、それすらも削り取っていく。

 ぢぃん! と首を刎ね飛ばす。

 【三剣刎慄(トリアングラム)】は闘気を覆った3つの剣による一点集中攻撃によって首を切断するという見た人が戦慄する一撃必殺だった。

 動きを止めている敵以外に当てにくいという欠陥があるが、この技能はレシュリーの援護ありきだとアリーは思っている。それはつまりアリーがレシュリーに無類の信頼を置いているという証拠でもあった。

 同時に“それ”の動きを止めていた拘束具が弾け飛ぶ。“それ”の強化された筋力によって。

 “それ”は首から上を失ってもなお、まだ生きていた。

 理由は簡単。

 狂戦士ならではだった。もっとも“それ”は狂凶師なのだがそれでも理由は同じ。技能によって死を免れたのだ。

 “それ”は【激昂激化】と同時に強化技能【仮死脱皮】の上位にあたる【不死身体(イモータルメイク)】を使っていた。

 【仮死脱皮】と同様に死を免れるのは同じだが、それよりも早く肉体を再生させ、首が生え変わる。

「ギャハハハ、“マジやばーい”状態だったぜ……」

 息をさらに切らせて“それ”は言う。

 【不死身体】の効果によってか【激昂激化】の効果は解けていた。

 それでも超強化の連続使用に体力消費が激しく、思わず蜘蛛脚を折り曲げて、地面に膝関節をつけてしまう。

「まだだ。まだ、“マジやばい”ときじゃねぇぜ。ギャハハ、逆転の始まりだ」

「無理よっ!」

 首へと向かう剣筋が“それ”の目に映る。死に際に見える予兆だった。

 先ほど首を刎ねた【三剣刎慄】だった。

「ギャハハ!」

 “それ”は笑う。予兆によって到達する時間はなんとなく推測できた。

 だから“それ”は【収納】を使って取り出した。ブラギオに託された爆薬を。

 そうして爆薬とDLC『改造方法』を飲み込む。ウシオニの口ならそのぐらい軽々と飲み込めた。

 そのぐらいの時間はあった。

「あばよ」

 爆薬と“それ”が改造によって融合した途端、アリーは再び“それ”の首を刎ねた。

 足掻きの一手――自爆だった。

 アリーを巻き込むように爆発が起きる。

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