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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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閃耀

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「先手はいただいたっ!」 

 武器が一番長いアエイウが一番手。長大剣〔多妻と多才のオーデイン〕を大きく振り降ろす。

 キィンという金属に弾かれたような音とともに、長大剣も弾かれ、仰け反るように剣が跳ね返った。

 そのじゃじゃ馬のような跳ね返りを【筋力増強】で押さえつけ、何度もアエイウは振り下ろす。

 一見、躍起になっているだけにも映るが、衝撃は“それ”の内部に確かに浸透しているうえにアエイウが何度も豪快に振り下ろした結果、“それ”は一時的な怯み(スタン)のような状態を引き起こし、動けないでいる。

 よもやこのような行動を連続で行ってくるとは思わなかった“それ”の完全な誤算だった。

 さらに長大剣〔多妻と多才のオーデイン〕がわずかに煌いた。それは刹那の輝き。誰もが見逃してしまうほどの輝きだった。その輝きをアエイウですら視認できなかったが、アエイウには何か感じるものがあった。

 閃き。部屋の照明が灯るような閃きが脳裏を駆け巡っていた。

 ディオレスとアエイウに関係性はなかった。話しかけられたこともない。

 けれど先ほど魅せられた幻影は、アエイウに何かを与えた。

 ある人間はその何かを閃きやすさと、例えた。

 アルがアーネックの幻聴が聞こえたあと、伝承者となり、技能を閃いたように、アエイウもここにきて、他人の師匠ではあるがその幻影を直視したことで、技能を閃いた。

 何度も打ちつけていた長大剣が“それ”の防具を破壊し、さらに肉体へと食い込んだ。【大袈裟斬(オーバーリアクト)】とのちに名付けられるそれは、大げさに、あるいは豪快に

強靭な肉体を突破する力を持った技能だった。

 身を守る防具を破壊し、肉体の強化を低下させて、肉体を損傷させる袈裟斬りに

「ギャハハハ、“マジやばーい”」

 【筋力最大】で強化した腕で斬り裂いていく刃を無理矢理押さえ込んで、【高速瞬動】でその場を離脱。【肉体構築】で治療していくが、“それ”の息は途切れていた。

「“マジやばーい”……。どうなってんだ?」

 聞こえないように呟く。息切れは激しく体力を消費した証拠だった。

 そんなこと関係なく、アルとアリーが迫っていた。

「【新月流・壊軌月蝕】!!!」

 屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕を握り締め、目にも止まらぬ速さで一閃。通り抜けた後、斜め後ろに跳躍して“それ”の頭上へと到達。そのまま【重剣】のように屠殺刀を振り下ろす。滞空時間が長いこともあって、ニ撃目はほぼ確実に防がれる。案の定、“それ”は振り下ろされた斬撃を砕棒で防ぐ。回避を選ばなかったのはアリーが目を光らせていたからだ。“それ”はアリーが回避後の無謀な隙を狙って飛び込んでくるのも警戒していた。

 アルにとって【新月流・壊軌月蝕】の次撃が防がれるのは織り込み済み。

 弾かれた反動を利用して再び跳躍して、再度屠殺刀を振り下ろす。砕棒で同じように防いだが、アルは弾かれた反動を【収納】で防ぎ、刀剣〔優雅なるレベリアス〕へと切り換えていた。

 そのまま、居合い、斬り。【新月流“追撃の太刀”・壊軌日蝕】。

 ここで驚いたのはむしろアルだった。“それ”は【千里透視】で超反応し、【高速瞬動】で腕を無理矢理超速で動かし、その刹那の一閃を防いでいた。

 必殺の一撃を防がれたアルだが動揺はない。アルにも何か起こるんではないかという予感があった。それは伝承者であるアルの意地でもある。

 自分が生み出した必殺の一撃が、防がれたままで終われないという意地。ゆえに【新月流“追撃の太刀”】は進化していく。むしろその進化こそが【新月流“追撃の太刀”】の真価といえるのかもしれない。

 防いだ砕棒を絡めとるように刀剣ごと腕を回転。小さな満月を描くように刀剣を防いだ砕棒から瞬時に離すと、瞬時に一歩前に出るとともに腕を突き出す。至近距離から突きを繰り出した。

 その突きの先は幾重にも分裂し、数箇所に穴を開けるかのように“それ”に襲いかかった。突きが分裂した理由は至極単純。アルが超高速で腕を動かし、あたかも同時に分裂したかのように見せていた。

 伝承者の腕をもってしてできるというべきか。その繊細さはさすがといえた。

【新月流“追撃の太刀”・壊軌日蝕】が防がれた際に、再度追撃する第二の刃【新月流ソードスキルオブシンゲツ追撃の太刀(チェイサーズブレイド) 弐式(セカンドウエポン)()金剛輪環(アダマスアヌルス)】は、そのまま“それ”の肉体を傷つける。防いだと慢心していたことを見抜かれたのかもしれない。咄嗟の突きに“それ”は対応ができてなかった。

 再び【肉体構築】を使うが息切れが酷い。

「ギャハハ、“マジやばーい”。こりゃなりふり構ってられないな」

 “それ”の体から蒸気が発生。ウシオニの青い肌が赤く発熱し、目も荒々しく赤く光る。クイーンスパイダーの脚も同様に黄色と黒のストライプ模様の判断がつかなくなるほど赤く発熱。

 【炎帝】を彷彿させるほど赤一色となる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 気合の雄叫びが地響きを発生させ、周囲を大気ごと揺らす。

 今までの“それ”とは思えない速度でアルを吹き飛ばし、近くにいたアエイウをも投げ飛ばした。

 “それ”が使用した【激昂激化(バーサーカー)】と呼ばれるその超強化は、肉体を極限まで強化する代わりに、我を忘れさせ、暴れまくる技能だった。ある意味で奥の手だが同時に無防備にもなる諸刃の刃。肉体を極限まで強化するとはいえ、そこに硬化は含まれない。ゆえに肉体は【完璧表皮】を使ったときよりも脆い。

 速度も向上しているため、一太刀浴びせるのも難しいが、浴びせれば致命傷も免れない。

 アリーがレシュリーに視線を送る。

 なんとかしなさい。

 レシュリーはアリーに視線を返す。

 分かってる。任せておいてよ。

 そのやりとりに満足したアリーはもう少しだけ辛抱する。

 ディオレスの幻影は当然、アリーにも閃きやすさを与えていた。

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