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tenth  作者: 大友 鎬
第4章 見捨てられる想い
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瞬殺

 6.


 僕たちの前に現れたそいつは背丈3(メーチェル)はあろうかという巨漢だった。青覆面(ブルーマスク)青全装(ブルーボディスーツ)に身を包んだそいつは肩と頭に三人の人間を抱え、ここまで高速移動してきていた。三人が降りるやいなや、その巨漢は言う。

「ディオレス、我輩に刃を向けるとはどういう了見だ?」

「黙れ、格下。俺よりも弱いんだから、ここから立ち去れ!」

「笑止! それよりもひとつ問う。犯罪者を守る貴様は、悪に成り下がったのか?」

「そりゃ違うぜ。俺はただ裁く権利を持たないくせに罰だけを与えようとするバカを止めようとしてるんだ」

「笑止! 笑止! 犯罪者を我輩が裁こうが司法が裁こうがなんら変わらん。いやむしろ我輩のほうが正しいだろう。全ての犯罪者を等しく裁くのだからな」

「はっ、ほざけ。司法は人間世界の裁く基準だろーが。お前が裁くだと? 勘違いすんなよ。てめぇは徹頭徹尾犯罪者をなぶり殺す正義気取りの犯罪者だろうが」

「それは聞き捨てなりませんね」

 それに反発したのは巨漢の横にいた、痩躯の青髪だった。

「正義気取りに洗脳されたザコは黙ってろ」

 ディオレスは反発した青髪を一蹴。何も言わせることなく続ける。

「ともかくだ、俺はてめぇに譲る気なんてさらさらねぇ。俺は、というか俺の弟子が救いたいって言ったからな。俺も師匠として救ってやるつもりだ」

「噂では貴様、近々試練に挑むつもりらしいが、我輩と戦い死傷し支障が出ても知らんぞ」

「あーあー、寒い、寒い。失笑してしまうぜ。言っとくが、こっちは端からてめぇを殺すつもりだよ」

「笑止! 笑止! ならば、ユーゴック・ジャスティネス、全力で貴様という悪を叩き潰す! ヌハハ、ヌハッハー!」

「一度、俺に倒されたことを忘れんじゃねぇーぞ。もう一度叩き潰してやる!」

「笑止! アレは我輩の唯一の汚点。あんなにも愛しかったシュリも失ってしまった」

「愛しい? ほざけ! あいつは俺だけのもんだ。そして呼び捨てにすんじゃねぇー。気安く呼ぶんじゃねぇよ。第一……死んだ一因はお前にもあるだろうが!!」

「笑止! そうやって原因を拡散して言い逃れか。元凶は貴様だろう、疫病神がっ!」

「どの口が、ほざく! ユーゴックッ!」

 ディオレスが鮫肌剣を構えつつ、ユーゴックの懐に飛び込んだ。

「ヌハハ、ヌハッハー! 来い、ディオレスッ!!」

 狂戦士ユーゴックは【筋力増強(ドーピング)】を最大限に活かし、素手のまま飛びかかった。

 ユーゴックの拳をディオレスが避け、鮫肌剣がユーゴックの皮膚に絡みつき、筋肉を切断するように鮫肌の刃が肉を削いでいく。ユーゴックは腕を振り回し、それを豪快に吹き飛ばす。

 体勢を崩したディオレスめがけて、ユーゴックが再び拳を振るう。ディオレスは体勢を崩しながらも偽剣〔狩場始祖エクス〕を地面に突き刺す。途端、拳が衝突。偽剣の揺れを見る限りその拳の破壊力は計り知れないだろう、が同時に折れもしないその偽剣の頑丈さも認めざるを得ない。

 間合いを取ったユーゴックは【収納(ポケト)】からようやく武器を取り出す。今までのやりとりが準備運動といわんばかりと言うように。

 ユーゴックが取り出したのは2(メーチェル)もの長さがある槍だった。それは3(メーチェル)ある巨体からすれば妥当な長さなのかもしれない。

 ユーゴックはそれを軽々と握り、殺陣を舞う。上手く扱えるということを見せつけ、僕たちを煽っているのだろう。

 その槍――正義超槍〔絶対正義マスクオブザジャスティス〕を握り締め、

「ウオオオオオオオオオオオッ!」

 雄叫びを上げながらユーゴックはディオレスへと突進した。

 僕たちもボサッとしているわけではなかった。ユーゴックの仲間がいるのだ。三人はまるでユーゴックとディオレスの戦いに介入させないように僕たちへと迫っていた。

「ドゥー、キキリン、行きますよ」

「てめぇが命令すんなーって言いたいわけよ、セハラバ」

「……お、同じく」

 喧嘩しつつも、三人は陣形を取っていく。ドゥーと呼ばれた朱髪の男は、その場で立ち止まり魔蓄銃〔変黴星デラクス〕を抜く。キキリンと呼ばれた金髪の男と、セハラバと呼ばれた藍髪の男は並走。途中で左右に分かれる。キキリンは僕のほうへ、セハラバはアリーへと向かっていく。

 アリーは戦意喪失しているヴィヴィを守りつつ、自らも精神を休めようと一線を退き、代わりにコジロウが前に出ていた。

 僕はアリーを助けに行こうと思ったもののキキリンがそれを阻む。

「セハラバ、お前はいっつも魔法剣士系複合職(スタンダード)を狙うんだなと言いたいわけよ」

 キキリンがセハラバに話しかける。僕を眼前に控えて余裕だった。


 ***


「当たり前。それがボクのやり方ですから」

 セハラバが抜いた剣は魔充剣によく似た形状の、しかしどこか違う雰囲気を醸し出した剣だった。

「……ったく」

 襲いかかるセハラバにアリーは嘆息する。

「面倒臭い相手ね」

 アリーはレヴェンティに何も宿さずその剣を受け止める。

「ハハッ、ボク相手じゃ剣に魔法を宿せないだろ」

「あんた如きに宿す必要もないでしょ」

「っ、ナメやがって!」

 突き出す剣をアリーはレヴェンティで弾き飛ばす。

「剣の腕もヘボいわね」

「黙れっ!」

 セハラバが剣を薙ぎ払うもアリーは容易く避け、レヴェンティが肩を抉った。

「剣もろくに扱えない魔吸剣士なんてただの役立たずじゃない」

 痛烈な言葉がセハラバの誇りをズタズタにしていく。

 魔吸剣士は、魔充吸剣と呼ばれる剣を用いて戦う職種だった。魔吸剣士は魔法剣士系複合職(スタンダード)のなかで唯一魔充剣が使用できない代わりにあらゆる魔法を魔充吸剣に吸収することができた。もちろん、自分の実力以上の魔法は吸収できないけれど。

 もちろん、当然のことながら全職業を見てみると魔法を使えない職種も多い。そのため剣技を磨くのが主流だが、セハラバの剣捌きは到底研鑽しているとは言いがたかった。なのにセハラバはそんな素人剣技でアリーを翻弄しようとしていた。アリーが先の戦闘で疲労していなければアリーの勝利で勝負は一瞬についていただろう。


 ***


「セハラバのヴァンパイアを目にして魔法を宿さないとは魔法剣士系複合職(スタンダード)の女はなかなかやり手ですね、と言いたいわけよ」

 キキリンが鉄鞭〔怪物狩士のジィ〕を振るいながら僕に話しかけてくる。ヴァンパイアというのはセハラバが使う魔充吸剣の名前だろう。

「随分と余裕だね」

 僕は挑発するように呟いた。

「ええ、余裕です。怪我だらけのあなたに負けるとでも、と質問してやるわけよ」

「まっ、フツーそうだろうね」

 撓り強襲する鉄鞭〔怪物狩士のジィ〕を避けて、逃げる。

 右手に未だ穴がぽっかりと空いたまま、さらに骨だって折れている僕にこの戦いは不利すぎる。

「さて、じゃ俺のペットのご紹介だっ!」

 キキリンの右側の地面に一瞬にして現れる魔方陣。

 そこから現れたのは黒い剛毛、燃えるような赤い瞳を持った二足歩行の魔物。見た目は熊の胴体に酷似しているが、そこから生える顔はミノタウロスに近い。手は熊に似ていたが、そこから生える爪は長く、それで獲物を狩るのだと判断ができるほどだった。ブルベガー(牛頭剛熊)――そう呼ばれる魔物がそこにいた。ブルベガーはいたずら好きでおとなしい反面、一度怒り狂えば素人には手がつけれられない獰猛さを併せ持っていた。

 そんなブルベガーを操るキキリンは魔物使士だった。その名の通り、魔物使士は魔物を調教し、自分の意のままに従わせることができる。召喚士と違うのは【召喚結晶(リリースキューブ)】を用いる必要がないことだが、自分より強い魔物は当然のことながら従わせることができない。封獣士によって封印された魔物なら強さに差があろうとも従わせることができる召喚士との違いはここにある。

 とはいえブルベガーはそんなに強い魔物じゃない。強さ的にはゴブリン以上ワーム以下。

 [十本指ザ・ゴールデンフィンガー]がひとり、八本指(エイスミドル)たる正義超人(ザ・ジャスティス)ユーゴックの仲間であるはずなのにこいつはそんなに強くないんじゃないか、そんなことを考えてしまった。

 でも、どうしてだ? 仲間として戦えば経験値は分配される。ユーゴックとともに戦えば戦うほど、経験値は入りやすいはずだ。

 なのに眼前のキキリンはブルベガー程度しか扱えない。それが不思議でたまらなかった。

 それでもそういう作戦なのかもしれない、という意識をどこかに持ち警戒。

 僕はキキリンとブルベガーへと立ち向かっていく。


 ***


 コジロウは状況を確認すると、そのままドゥーの元へと駆ける。こちらへと向かってきていると理解したドゥーは標準をコジロウへと向け、発射。

 構えた魔蓄銃から口径以上の光弾が飛び出し、コジロウを狙い撃った。コジロウは己が速さだけでそれを回避。さらにドゥーへと近寄る。

 ドゥーは避けられたことに焦ったのか、今度は先程よりも光弾を小さくし、連射した。それによって光弾自体の速さが増したものの、細々としたその弾のなかのいくつかはコジロウの忍者刀〔仇討ちムサシ〕によって簡単に弾かれ当たることはなかった。

 ドゥーの持っている魔蓄銃〔変黴星デラクス〕は魔砲を放てる武器の一種で、細切れにして射出したり、蓄積して一気に放出させることが可能だった。ドゥーは人形の狂乱(ドールズカーニバル)にいたエミリーが用いた魔導筒とは違う、中距離型を選択した魔砲士だった。

 もちろん、遠距離だろうが、中距離だろうが、銃に備蓄した魔砲が切れれば備蓄する必要がある。

 ドゥーが魔蓄銃に込めたのは魔砲【雷々剣トニトゥルスグラディウス】。

 魔導筒を用いて使った場合、レーザーのように飛んでいくその魔砲は、魔蓄銃の場合、丸い光弾に変貌する。それを蓄積するか細切れにするかで大きさが異なっていた。

 光弾を弾いたコジロウが疾駆し、ドゥーへと最接近。忍者刀を振るったが空を斬る。

 しかし避けれたのは偶然。ドゥーはコジロウの接近に腰を抜かし、しりもちをついていた。それがドゥーの命を奇跡的にも救っていたのだ。

 確実に死んでいた、そう理解したドゥーは慌ててコジロウの脛を蹴飛ばそうとしたが、コジロウはすでに空中と跳躍。ドゥーの顔めがけて蹴りを放つ。

「グヘッウ」

 直撃して惨めな悲鳴をあげてドゥーは転がった。


***


 僕たちはレベルアップしていた。言うなればそうしかないだろう。先のキムナルたちとの戦いで僕たちは経験を積み、レベルアップしていた。

 それを体現するかのように僕が紡ぎだした【回転戻球(ヨーヨー)】が変化をしていた。今までなら糸の部分が紐のように可視できていた。しかし今回は違った。元来の蜘蛛の糸のように、雨露がなければそこに糸があると確認できないぐらいの透明さを持った糸が【回転戻球(ヨーヨー)】についていた。

 普通に投げればおそらく【速球(ブレイカー)】と勘違いするだろう。それほどまでに見えない。不可視ではないにせよ、目を凝らしたところでどうこうなる問題でもなかった。

 先行して襲いかかってくるブルベガーへめがけて【回転戻球(ヨーヨー)】を放る。満身創痍ながらも速度はそれなりに出ていた。

 ブルベガーの頭を一撃で粉砕。キキリンはそれにビビッたのか一度立ち止まった。

「来いよ」

 僕が挑発するとキキリンは止まるのをやめた。次に呼び出したのはゴブリン。今度は2匹呼び出した。無駄だ! ブルベガーを破砕した【回転戻球(ヨーヨー)】の方向を変え、襲いかかる右側のゴブリンの頭蓋を粉砕。一度手元に戻った【回転戻球(ヨーヨー)】を再度投げつける。怯んだもう一匹のゴブリンの腹を抉り、一撃粉砕。

 自分の下僕が一撃で破砕される光景にキキリンは激昂して襲いかかってくる。鉄鞭〔怪物狩士のジィ〕を振りかぶり、僕を今まさに叩こうとする瞬間、戻ってきた【回転戻球(ヨーヨー)】がキキリンの頭部を強打する。

 僕は右手の痛みを堪え、鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を握り締め、振り下ろす。

 鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)でキキリンの頭部を強打すると、鈍い音とともにキキリンは倒れた。


 ***


 転がったドゥーが立ち上がり、銃を構えなおそうとした瞬間、

「無駄でござるよ」

 コジロウの忍者刀がドゥーの口腔へと突っ込まれた。

 ドゥーが涙を流し、頷く。頷くとさらに刃が口内を傷つけた。

 【伝火(クリメイション)】が刃を伝わり口からドゥーを焼いていく。

 ドゥーが自分で忍者刀を抜くのを懸念したコジロウは片手で忍者刀を、もう一方でドゥーの腕を押さえつけていた。

「あがががががががが!」

 熱さと痛さでドゥーは悲鳴とは言えない悲鳴をあげる。残ったのは顔が焼けた死体だった。

「すまぬな。むごいかも知れぬが、格下にはこれが一番手っ取り早いのでござるよ」

 誰に言うでもなく、コジロウは謝罪してディオレスのもとへと急ぐ。


 ***


 レヴェンティに肩を抉られたセハラバは一旦距離を取り、舌打ち。

 剣の腕すらも劣っている自分にほとんど勝ち目はないと感じてしまっていた。

 周囲を窺うとドゥーとキキリンも苦戦しているようだった。

「クソッ!」

 それでも憧れのユーゴックに無様な姿を晒すわけにはいかなかった。

「私たちが正義ですっ!」

 あくまでも主張を貫くセハラバの腹を、レヴェンティが貫いた。

「お前なんか、魔吸剣に魔法が宿っていれば……」

 負け惜しみのように呟くセハラバはそのまま倒れる。

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