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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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錯覚

75


 その癒術はもしかしたらDLC『階級向上』の着想を得た、癒術かもしれなかった。

 似ているといえば似ている癒術のため、対策をしている可能性は否めなかった。 

 ブラギオが何を以ってDLC『階級向上』を思いついたかはともかく、それでも試してみようとレシュリーは思いつき、リアンにその癒術の詠唱をお願いしていたのだ。

 【解剤球】は単なる挑発とブラフ。リアンが【浄化】を唱えると考えたのならば、自然と無警戒になるとも考えていたが、それでもなお警戒してリアンを狙う可能性もある。

 ならば、とレシュリーは己を囮にしてリアンの詠唱を可能にしていた。

「精神を揺さぶり、御身に宿る階級を間違えよ! 【級錯覚(イリュージョン)】!」

 援護癒術階級5【級錯覚】の効果はわずか数秒。階級5にしては強力すぎるゆえかもしれない。

 そのわずか数秒間、対象になった冒険者のランクを1下げる。

 たった1かもしれないがランクがあがれば職業自体に設定されたステータスに補正がかかる。

 ゆえに数秒間であれ1下げれば、全体的なステータスの底下げが可能となる。

 効果時間の短さゆえに動きを完全に止めたあとや、癒術士系複数人による同時詠唱ぐらいしか使い道がないゆえにあまり使われることはないが、冒険者にとっては無警戒とはいえない癒術。

 その癒術が動き回るティレーとウルに対して展開される。数秒間なので効果は一瞬。しかも相手は動きまわっている。

 ならば無駄に終わるのではないか、そう思われた。

 けれど、変化はあった。ヒントは今までに提示されていた。

 エンバイトやラッテたちだ。

 彼らが使ったDLCが、DLC『恐/狂竜感染』の試作品で、ラッテたちは副作用があるかどうか確認するための実験体だとしたら?

 そうしてランク7になって使うことで、そのエンバイトたちに起こった異変を防げていたとしたら?

 レシュリーはその可能性に思い至った。

 ドロリ、とティレーとウルの身体が溶けた。

 溶けたのは【級錯覚】の効果時間の間だけ。【級錯覚】が解けるともに溶けることはなくなったが、それでも効果は抜群だった。

「てめぇええええええええええ!!」

「マジやばい!」

 今まであった余裕がふたりから消えていた。

 溶けた部分はどうやら戻らないようだった。

 ウルは右半身、ティレーは左右のティラノ頭がドロリと溶け、ゾンビのようになっていた。

 ウルの右腕は胴体の右側に付着。無理矢理引き剥がすと皮膚が蕩けるチーズのように糸を引きながら、離れる。

「うぉい!! 俺さまのハーレムに入れる予定だったのに!」

 あまりの気持ち悪さにアエイウが叫ぶ。

「人質とどっちが大切なんだよっ!」

 男の言葉には決して屈しないアエイウが押し黙る。

 レシュリーの言葉は正論が過ぎた。

 目的を履き違えてはならない。

 それでも気に食わないと、舌打ちしたアエイウはウルへと向かう。ウルの出足は明らかに鈍っていた。

 一方のティレーもティラノ頭から溶けた部分が床へとポトリポトリと下に落ちる。堪らずティレーは左右を元に元の黒犬頭に戻すが腐敗は戻らない。

 溶解の仕業で、腐った犬が左右についた不恰好なティラノザウルスになってしまっていた。

 チィ、とティレーも舌打ち。

「なんなんだ、てめぇはよぉ!」

 ぶち切れたように、そのままレシュリーを狙う。

 左右の頭は犬に戻した後、ティラノザウルスになれなくなってしまったようだ。

「なんなんだよ、その余裕の笑みは。こうなったからって勝てると思うなよ、ギャハハハ!」

 その叫びは焦りにも聞こえる。

 事実そうだろう、DLC『恐/狂竜感染』を使ったティレーとウルには、何がどうなっているか身体的特徴の変化以外を存分に味わっていた。

 起こっていたのは弱体化である。エンバイトやテッラが溶けて消えた際にもそれは起きていた。副作用である。

 ランク7、上級職ではあるが、ステータスのうえではランク5程度まで引き下がっている。

 であればレシュリーたちと同様だが上級職になったばかりのティレーとウルは技能を使いこなせておらず、複合職の技も熟練度が高いといいがたい。

 なにせ、彼らはDLCによってレベルを底上げてきたのだから。

 対してレシュリーたちは熟練度が高い技能、魔法が揃っていた。

 その分、レシュリーたちが有利といえる。

 とはいえティレーとウルがそれだけで諦めるはずもなかった。

 不運にもブラギオから他の場所からも侵入者が来るという推測を聞かされていたふたりは逃げることができない。

 もちろん端から逃げる気などしない。

 平等なる世界はふたりにとっても望むべきこと。

 ならば、戦うしかない。

 蹂躙できたはずの状況が覆っても、自分たちの余裕がどんなになくなっても。

「マジやばーい!」

「おうともさ、ウル。ギャハハハ、倒してやろうぜ!」

 

 ***


 密かに撮影している偵察用円形飛翔機の映像を写すモニターにブラギオがしがみつき、驚く。

「こんなことが……こんな盲点が……完璧ではなかったのか……」

 モニターを横薙ぎに払い、「フハハハハハハハハ」笑う。理性のねじが外れたかのように。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 だからレシュリー・ライヴは気に入らない。

 一通り笑って、それでも笑顔のまま、気色悪く笑ったまま、

「感謝しますよ、レシュリー・ライヴ。さらに完璧に近づきました」

 ウルとティレー、ふたりの犠牲は無念としか言いようがないが、他の仲間たちが犠牲にならないように対策が打てる。

 ウルとティレーが倒されるよりも早く、【級錯覚】を無効化するDLCを配布しなければ。

 ブラギオは早速作製を始める。薬剤士ならば容易い道具の作成も、他の職業なら困難を極める。

 それでも情報を集め、長年研究してきたブラギオならば、それほどまで時間はかからない。

 ウルとティレーに最悪配布できなくても、上の階で侵入してきたイロスエーサたちを蹂躙しているステゴやトゥーリ、さらに上に待機するノードンやエリマには配布できると踏んでいた。

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