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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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予兆

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 突進の予兆がセリージュに映る。

 死に際、死に間際には、それが見える冒険者もいる。

 セリージュの場合はファグゾに殺されたときにもその予兆は見えていた。

 死。それを教えるかのように、ウルの動きが緩慢に映り、自分とウルの間にうっすらと攻撃の範囲が映った。

 映ったのは一瞬。セリージュの判断は刹那を上回る。

 避けることはできた。この予兆から逃れることができれば、確実にセリージュは避けれる。

 けれど、その予兆で見えた攻撃範囲はセリージュが避けた途端、後ろへと延びる。

 そうなれば、死はムジカたちへと移るだろう。

 【硬化】を魔充剣ビフォとアフタに宿して、交差させて前に構える。衝突と衝撃。

 が来るはずだった。

「やらせはせん。やらせはせんよ」

 アエイウはセリージュの前に立ちはだかる。

「ぶべぼっ」

 間抜な声とともに突撃を直に受けたアエイウは吐血。【鋼鉄表皮】を最大出力、【筋力増強】をフルスロットルで効果発揮しても、アエイウの致命傷は避けれなかった。

 とよりも一回死んでいた。【偽造心臓(ワンダフルライフ)】によって死を免れ、【仮死脱皮(キャストオフ)】によって出血、骨折を治療。完璧な状態でアエイウは直立していた。

「惚れたか?」

 仁王立ちするアエイウがセリージュに問うた直後、

「マジやばーい」

 シッタのように舌なめずりをして、ウルは三度突進。

「それしかできんのかっ!」

 アエイウも倣うように突撃に見せかけて、

「やれ、エミリー!」

「はっ、はい!」

 ゆっくりと、だが着実に準備をしていたエミリーが魔砲を発動する。

 魔砲は魔力を弾と化して発射する技能だ。

 魔法と同名の魔砲技能は同名魔法と威力が同じうえに遠距離が可能、詠唱が不要とメリットが多いが、魔砲は魔法よりも精神磨耗が多い。殲滅技能ほどではないが、弾数が魔力に比例しているため、魔力の低い冒険者ではそもそも撃てる数が違う。

 エミリーは極端にその撃てる弾数が、少ない。

 才覚を持っているものは全員が恵まれているわけではない。

 エミリー・サテライトの才覚は〈薄幸〉。才覚がない冒険者がレベルアップした際よりも能力の伸びは半分なうえに経験によるレベルアップも才覚なしの冒険者の二倍以上と、幸せとは呼べない境遇だ。

 魔法筒〔慌てふためくテンテコマイ〕から【捕縛雲】が発動。

 もくもくと空に漂う雲のように白い雲粒が魔法筒からウルへと延びていき、絡めとる。

 いかに身体能力を強化していようが、直進的な攻撃なら動きを止めてしまえばいい。超スピードゆえに慣性が邪魔し、ウルはそう簡単には止まれない。

「お楽しみはこれからだ」

 動きを止められたウルへと道化師(エンターテイナー)が盛り上げる前に言いそうな言葉を放ちながらアエイウは接近。

 やられたらやり返すのがアエイウだ。

 負け続けの戦闘にうさ晴らしは必要なのだ。

 がウルはあっさりと【捕縛雲】を振り払い、動き出した。

 手には凸戟〔隣接ヴァンメッシィ〕。素手では振り払えないのであれば武器で振り払えばいい話だ。

 【捕縛雲】は【蜘蛛巣球】よりも捕縛力は高いが、粘り気がなく、刃物があれば強引に払いのけることもできた。力を最大限引き出せる狂凶師ならばそれも容易。

 単調な突進として格下を舐めたかのような行為をやめ、ウルはようやくここで武器を取り出した。

 今までは自分の力に酔いしれていたと言ってもいい。

「舐めやがって!」

 怒号とともにウルに向かおうとするとそこにティレーが雪崩こんできた。

「ギャハハ、もう面倒臭ぇからまとめて倒してやる」

 アリーやアル、レシュリーが必死に攻撃していたが、ティレーは傷口を作りながらも倒れることがなく、むしろ一方的に攻撃していたはずのアリーたちの方がボロボロだった。

 リアンが唱えた【炎帝】を受けてもびくともせずティレーは笑う。

 「ギャハハハハ、弱い、弱すぎる」

 それでもレシュリーたちの目は死んでない。

 諦めてはいない。

 絶望的な戦力差を1%の閃きが覆すこともある。

 レシュリーは戦いながらも必死に考えていた。

 思考を繰り返す。自分が使える投球技能。そして仲間たちが使える技能や魔法、おそらく覚えているであろう技能や魔法までの戦術に組み込んで勝てる術を考えていく。

 誰も死なせはしない。その一心で思考を続けていく。アリーやアルたちが攻防を続けるなかで支援を繰り返しながら考えることができるのは、そうやって戦うことをしてきたレシュリーだけだ。

 アルはリアンのことを常々思っているし、アリーは勘のまま戦っている。

 レシュリーはそれぞれの行動すらも組み込んで思考する。

 下克上(ジャイアントキリング)するにはいつだってそうするしかない。そうして可能性を見出していく。

 相手が思いもよらない盲点をつくしかない。

 今までの戦いを振り返りながら、レシュリーはふとしたことに気づく。

 作り上げたのは【解剤球】だった。

「なるほど、DLCが薬ならそれが効くのかも」

 アリーが良く気がついた、と言わんばかりにレシュリーを褒める。

 投球。

「ギャハハ、そんなものが効くかよっ! 実験済みだ!!」

 ティレーは笑い、避けることもしない。

 援護球と回復球が必中である以上、避けることですら無駄だ。

 ティレーに当たっても何も起きない。

 中毒性がある薬や、毒薬、しびれ薬などの状態異常を引き起こすものならともかく、身体の向上、いわゆる上昇効果を引き起こすもの――つまり味方に使うことが前提で、デメリットを消す【解剤球】が、敵の上昇効果を打ち消すことはないのだ。

「ギャハハッ、悪あがきはよせよ」

 【解剤球】を投げ続けるレシュリーへとティレーは向かう。

 アリーやアルが攻撃するがさっきから微々たる変化はない。

 食いちぎられる間際、レシュリーはなんとか回避。

 衝撃で着地に失敗。ごろごろと転がって、【転移球】で転移。リアンの近くに出現する。ちょうど詠唱を終えたリアンにレシュリーは何かを囁く。

「ギャハハ、賢士のお嬢さんに【浄化(イルミネイト)】でも唱えてもらうつもりか?」

 【浄化】は解剤効果に加え、腐食払拭効果を持つ階級6の癒術だった。

「ギャハハ、そりゃ無駄だと思うし、そんな暇与えねぇよ」

 ティレーがリアンのほうへと向かう。

「させない【新月流・――」

「貫け」

「――壊軌月蝕】」「レヴェンティ」

 ふたりの剣技がティレーの首を傷つける。

「鬱陶しいっ!!」

 同時にレシュリーが【解剤球】を連続投球。

 効果はない。

 が三つ頭ティレーの視線が一斉にレシュリーを見た。

「やっぱりお前が一番鬱陶しい!!!!!」

 言ってレシュリーを追いかける。

 例えばビンタをされてもなんとも思わない人がいるとしよう。その人がなんとも思わないからと言ってビンタをし続けていたら、なんとも思わない人の心情にもさすがに変化が起こる。

 ティレーにとって、何も効果がない【解剤球】を投げ続けているレシュリーの行動は嫌がらせ以上の何ものでもなかった。

「ギャハハハッ!! いい加減、死ねえええ!!」

 ティレーは優れた冒険者ではない。だからレシュリーの行動に怒り、我を忘れる。

 だからと言って油断するはずもないが、レシュリーへ注目してしまったティレーはまんまと策に嵌まる。

 レシュリーが頼んでいたリアンの癒術詠唱が終わる。

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