上級
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「楽勝だったやし」
ステゴは封印の肉林をクリアした証『一時の栄光』を握り、叫んだ。
時間がかかったのはデュセとの戦闘で、ハエトリグサとの戦いではDLCに頼りまくったため何の苦労もなかった。
DLC『経験上昇』の連続使用により、ランク6のレベル上限1050に達しており、さらにDLC『唯一例外』により、本来なら職業、武器に関係する技能、魔法、癒術の縛りを緩和。
ある意味なんでもし放題の状況で全力でハエトリグサをステゴたちは叩きのめしていた。
それに面白味がない、と思う冒険者もいるかもしれない。そういう冒険者に限って「努力が大事」やら「過程が大事」やら言うかもしれない。確かに経験は何事にも変え難いのかもしれない、その経験が、自分の中にある感覚を鋭敏にしていくのかもしれない。
それもある意味で正論。
けれど圧倒的な力は、その面白味とやらを超越した面白味を生み出す。
快感だった。あれほどまで苦労したハエトリグサをほぼ瞬殺したのだから。
「まだ、進む道があります。これが噂に聞く上級職への道というものでしょうか」
「マジやばーい」
「って言ってないで進むやし」
そう言って走り出すステゴだがすぐに行き止まりに突き当たった。
「何もないやし」
「よく観察してみなさい。ここに七つの窪みがあります」
「七つ?」
「おそらく今までの試練で手に入れた秘宝を入れるのでしょう」
「マジやばーい」
「七つ使う必要あんのか、これって言いたいらしい。ギャハハ、確かに7個目のだけで十分な気がするな」
「かつてはランク5~7は好きな試練を選べた、と聞いたことがあります。それの名残でしょう。結局、七つの試練をクリアしたものしか上には辿り着けない。そういうことでしょう」
「早速、嵌めてみるやし」
そう言ってステゴが七つの秘宝をはめ込む。好奇心旺盛のステゴは後先考えずに率先してやってくれるためブラギオは重宝していた。
嵌めた瞬間、ステゴは消えた。
「罠、でしょうか?」
「いいえ、これはどこかに転送された、と見るのが妥当かと」
言った瞬間、ステゴが現れる。
「おお……おおぉ……」
「どうなったんですか?」
「分からんやし。けど一面真っ白になって、声が聞こえた……んで、たぶん上級職になったやし」
「マジやばーい」
「説明意味不明とかマジキモい。きちんと説明して。キモいから」
「やってみりゃ分かるやし」
やりとりのなか、ブラギオは秘宝を嵌める。
転移。
確かに真っ白な場所だった。
「ここは……、どこでしょうか?」
問いかけには誰も答えない。
「――、――――――、――」
そうして確かに声が聞こえてきた。何を言っているのかは聞き取れなかった。
「何を、言ったので――」
最後まで言葉を言い切る前に、ブラギオは元の場所にいた。
「なあ、やっぱり俺の言うとおりだったやし」
「ええ、まあそうですね」
「それでその場所で慈悲は与えられたのですか?」
「そんな感じはしないのですが……ですが確かに上級職の知識と、それにエンドコンテンツ……と聞き覚えない言葉を記憶していますね」
「エンドコンテンツ……?」
「ええ、まあ上級職になれば分かるでしょう」
言葉通りにティレー、ノードン、ウルにトゥーリが続き、
「クラミド、拒否はできませんよ」
「分かってる」
エリマもまた、秘宝を嵌めこみ、そして上級職の知識とエンドコンテンツという聞き覚えないの言葉を記憶していた。
「クラミド、あなたにはこれを飲んでもらいます」
言ってブラギオはDLCを渡す。それはエンバイトやテッラたちに渡したものと同じだった。
「私にこれを飲ませるためにランク7にしたのね」
「ええ、あなたが耐え切れたら私たちも飲みます。そうして新世界へと世界は進むのです」
エリマに拒否権はなかった。
カプセル状のそれをゴクリと飲み込む。
身体が猛烈に熱くなる。過呼吸になったかのように呼吸が荒くなっていく。
熱さに耐えれなくなって、その場にうずくまる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああ」
その様子をブラギオは心配げに見守るなか、荒くなっていた息が徐々にだが収まっていく。
10分後、呼吸は落ち着いたがまだ体は熱い。
「どう、なったの?」
「成功です。安定するまで一日かかりますが、他のやつらとは違う状況です。やはりランク7がターニングポイントだったようです」
立てなくなったエリマをブラギオが抱える。
「俺たちも飲むんやし?」
「ええ、会社に戻ってからですが。それと一度に全員がこういう状況になるのは困りますから、まずはステゴとノードンといきましょうか」
「マジやばーい」
「ギャハハ、納得いかないみてぇだな」
「ステゴとノードンにはやってもらうことがあるのです」
「人使い荒いやし。まあいいけど」
言ってステゴはDLC『経験上昇』を齧る。まるでお菓子のように。
食べ過ぎても上限以上のレベルにはならないうえに、副作用はない。ゆえに食べ過ぎても安全だが、味がするわけでもないので、どうしてそんなに連続で食べ続けれるのかウルたちには理解できない。
そんな理由もあり、ステゴはいち早くランク7のレベル上限、1225まで達していた。
「では、戻りましょうか」
新世界へ近づいたことにやんわりと笑みを浮かべて、ブラギオたちは封印の肉林を後にする。
それはルルルカがヤマタノオロチを倒す数日前のことだった。




