道程
67
「もう終わってたとか、マジか……」
「いや、そこを残念がるところではないよ」
「分かってる。オレだってこう見えて哀しんでんだ、ZE」
促されるままにシッタは祈りを捧げる。
ジョーとは口癖を真似るほどに意気投合してたため、口調は軽くても、心底哀しんでいた。
「そっちは終わっちまったけど、こっちはまだ終わってない」
「エミリーさんを連れていけなかったの?」
禽取の酒場でレシュリーと合流したシッタは挨拶もそこそこにそう切り出した。
疲れていたり、怪我していたりするためか、活気はない。
その空気を読めてないかのようにシッタだけがテンションが高い。
「いや連れてはいった。現に今、この場にいねぇだろ」
「事態は予想以上にこんがらがっているんだ」
そう言って説明を始める。ところどころシッタが説明に介入したため、予想以上に説明が伸びたがそれはそれ。
なんだかんだでそれまでの経緯を話し終える。
「DLC……それが本当なら、大変なことになりそうだ。ブラギオがそれを使って何をしたいか分からないんだよね?」
「うん。そうだね。私たちもエンバイトさんを探しにウィッカに忍び込んだだけだから」
「それにその溶けて消えたってのも気になる。実はヤマタノオロチの前にラッテたちと戦ったんだけど、ラッテたちも同じように消えたんだ」
「そいつは初耳だ。あのラッテつーと現一本指だろ。マジかよ」
「今考えれば、ブラギオが僕たちのいる場所を教えたのかも。教えなくても分かるだろうけど教えたほうが誘導しやすいだろうから。でそのついでにDLCを渡したってことかも」
「そんな感じがする、ZE。でよ、こっからが本番だ、態勢を立て直す意味でこっちは撤退してきた。こんな状況だけどよ、まだアエイウの仲間が人質のままだ。それを助ける意味でも、ブラギオといずれ対峙することになる」
「みなまで言わなくてもいいよ。もちろん、手伝う。いつになるかは分かる?」
「それはウイエアとヒゲ女が調べてる」
「それもビックリよね」
アリーが言う。「イロスエーサが集配員だったなんて」
一緒に旅をしていたこともあったのに、アリーは全く知らなかったというかそんな素振りを見せなかったらしい。
「でも島に来て、デデビビが僕の弟子になっても悔しがってなかったからあの時点で何かを調べる目的があったのかもね」
「たぶん、新人冒険者の調査とか、よ。毎年集配社はやってることだし。まあそれについてはいいわ」
話を戻すようにアリーは打ち切る。
「だからなんだ、いつになるかは正直分からねぇ。近々としか言いようがない。ただ、こっからだとウィッカの本社にも、遠すぎるってことだ」
「遠回りな言い方だね。要は大陸のどこかに腰を据えといたほうがいい、ってことでしょ?」
「まあ、そうだ。準備はできるか、早いほうがいい」
「分かった」
正直、まだどこか名残惜しい気持ちはあった。
整理がつかないというか、なんというか。
けど慰霊の儀のアルルカの言葉は僕に対しての救いだったように思う。
まだ空元気感があるけれど、それでも立ち直りつつあった。
半日後、僕たちは酒場のマスターやマユ、サイトウたちに見送られて飛空艇へと乗り込む。
その直前、別れを告げるとマユが大泣きして、
「最後にわらわがはぐしてやってもよいんやな?」
その後顔を真っ赤にして、マユは言った。
僕が戸惑うとまた泣き出す。
「して欲しいんじゃないの?」
アリーが呆れて僕を押し出す。押し出されたまま、そっと抱きしめてあげた。
まるで自分の子どもをあやしているみたいだった。
「救ってくれてありがとうやな!」
鼻水を啜りながら、マユはそう言ってくれた。
僕は何も言えずにポンと頭を撫でて、そうして別れた。
機能停止したジェニファーはジョバンニと連絡を取って再起動しているので飛空艇が操縦できないということはない。ジェニファーの運転で、飛空艇は大陸を目指す。
デビはまだ休養が必要だけれど、リアンのお陰もあって快方も近かった。
アルルカやエル三兄弟たちはまだ空中庭園に残るらしい。
助っ人に来たシュキアとフレアレディは南の島に戻るとのこと。
ムジカたちは大草原に下ろす予定。
パレコやセレオーナたちはもう少し修業したいらしい。
ウィッカにエリマさんたちを助けに行くことはいわないでおいた。
何の役にも立たなかったベベジーや、他のみんなは観光していたり、闘球専士たちと意気投合したりとそれぞれに予定があるので、そちらにも伝えていない。
ヴィヴィもついてくるかと思ったけれど刑務所暮らしの際にお世話になった方に呼ばれているらしい。
結局、ウィッカに行くのは僕とアリー、コジロウにアルとリアン、それに元から関わっているシッタとフィスレ、イロスエーサとウイエア、アエイウにエミリーさんだけとなる。
弟子たちも乗り込んでいるけれど、彼らには彼らでやってもらうことがあった。
「デビの傷ももうすぐ癒えると思うし、キミたちは共闘の園に行ってほしいんだよね」
「こんなにも早くですか?」
「でも僕もこのぐらいだったよ?」
「あんたは2年使ってるの分かってる?」
「いやでもアルたちも同じ時期だったよね」
「まあ、それは……。クリアできるとは思ってませんでしたが……無茶するのも必要だって言われましたよ」
「正直、レシュリーさんとネイレスさんのペアと途中で合流できなかったらダメだったかもしれません」
「でも僕のとき、PKもいたからアルたちの実力もあったってことだと思うけどね」
「話に花咲かすのはいいけど、ジョレスたち戸惑ってるわよ」
水を差してアリーは僕たちの話を止める。そうまでしてくれないと止まりそうになかった。
咳払いして、話を戻す。
「こんなにも早くっていうけど、デビたちはランク0の時点でレベルがカンスト、ジョレスたちもそれに近かったはず。でランク1になって激戦を経験したから結構なレベルアップしたと思うんだけど」
「何事も経験よ、共闘の園は負けてもペナルティもないから、腕試しと思いなさい」
「でござるな」
「それなら、俺たちの弟子も受けさせるとするか。奇数じゃ何かとやりにくいだろ、あの試験」
「まあ、そうだね。どれだけ修業をきちんとしていたかの確認にもなる。信頼してないようで悪い気がするけど」
「そりゃお互い様だ、ZE。こっちの言いつけを守らないってことは、こっちを信頼してないっつーことになる」
言ってシッタは【舌なめずり】をした。技能に昇華されたと言っていたが別段変化は見られない。
「弟子はどこに?」
「マンズソウルだ」
「それは都合がいいね、大草原に行くつもりだったし」
「そこから弟子たちはアメリア経由で共闘の園に行ってもらう感じね」
アリーが補足ついでに整理する。
しばらくしてマンズソウル上空に辿り着いた。
「ジェニファーはこのままユグドラ・シィルに行って。ジョバンニがメンテしたいみたいだ」
「リョウカイシマシタ」
「変な言葉は覚えないように」
アリーが忠告するが、ジェニファーは反抗期の娘のように、返事をしなかった。
マンズソウルに降りる間際、少しおかしくて笑うと、アリーが小突いてきた。




