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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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決死

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 クレインは必死に離れへと走る。肩でデデビビを支えて走るが、デデビビの傷は深く足取りは重い。

 しかも理由がわからないが魔物たちがこちらへと走ってきていた。ツインテイル(ニ尾)フォックス()トライアンクロウ(三尾烏)

 それだけではないが、その二種類の魔物が大半を占めていた。

「クレインだけでも……逃げて」

 大量の気配、殺気を感じてデデビビは言う。

「何を言うんだよ。ボクはキミを守ってみせる。絶対に」

 怖くてたまらなかった。体の震えはデデビビに伝わっているだろう。

 それでも、

 それでもなんとか、なんとかしなきゃ……。

 クレインは思う。このままではデデビビが死んでしまう。

 自分が死んでしまう可能性はこれっぽっちも考えていなかった。

 必死に足を動かす。焦りが邪魔をして転んでしまう。

 集団の先頭にいるツインテイルフォックスが噛みつかんと飛びかかる。

「【炎札】!」

 満身創痍の身でありながら、敵意をひきつけるように技能名を叫び、デデビビがデッキからカードを放る。

「ぎゃうん!」と悲鳴を上げて転がり、毛皮についた炎を振り払ったツインテイルフォックスは今度はデデビビへと向かう。

 デデビビは転がるように噛みつきを回避。必死に立ち上がる。

 わずかに遅れ、クレインは立ち上がると急いでデデビビの前へと出て、ツインテイルフォックスに立ちふさがる。

「逃げろ!」

 デデビビの声が少し荒くなる。

 それでもクレインは逃げない。

 ツインテイルフォックスの牙がクレインの腕に食い込む。

「ああああああああああっ!!」

 激痛が迸る。それでも食いしばって、腕を振り払う。強靭な振りにたまらずツインテイルフォックスは口を離すが空中で一回転、着地して今度は突進。両腕を前で交差させてクレインは防御。それでも吹き飛ばされ、尻餅をつく。

 ツインテイルフォックスは間髪入れずに、デデビビのもとへと走っていた。

 ツインテイルフォックスがその間近で爆発。クレインの懸命の足止めのさなか、作り出したデデビビの三重の【炎札】がツインテイルフォックスに炸裂。結果、そのツインテイルフォックスは倒せたものの、まだ後続がいた。

 二匹目のツインテイルフォックスがデデビビの頭めがけて口を開く。

 ガブリ。

 腕をなんとか動かして、ツインテイルフォックスの噛みつきを防御。頭を噛みつかれて即死することだけは回避。

 防御されたツインテイルフォックスはそれでも腕を噛み千切ろうと力を込める。

「こいつっ!」

 デデビビは必死に足でツインテイルフォックスを蹴る。何度も蹴っていると根負けしたツインテイルフォックスの噛みつきが緩み、吹き飛ばされる。

 それでも一時凌ぎ。

 なんとかしないと。その傍らでクレインが立ち上がる。

 体勢を立て直し、デデビビの頭めがけて噛みつこうと、ツインテイルフォックスが飛びかかる。

「ボクがなんとかする! なんとかする! こんなところでキミを失いたくなんてない」

 涙目になりながら、クレインがツインテイルフォックスへと体当たり。

 そのまま一緒に転がって、いち早く立ち上がる。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 玉髄の安蘭樹杖〔犬の兵隊ググワンガ〕を振り上げ、振り下ろす。

 その瞬間、クレインの脳裏に閃きが宿る。

 それはのちに魔法でしか戦えなかった魔法士に革新をもたらすものだった。

 叩きつけられたツインテイルフォックスの頭が弾け飛ぶ。

 脳髄とともに血がぶちまけられた。

 打術技能【直襲撃々(ディレクト・ヒット)】。

 それは全身の力を込めて敵にぶつける、世界に初めて誕生した魔術用杖でできる物理的な攻撃技能だった。

「や、った」

 血だらけになりながらも、なんとか倒せたことに安堵する。

「ガァ!」

 それも束の間、空からトライアンクロウが強襲してくる。ツインテイルフォックスも次々とやってきて様子を窺う。一撃で同胞を倒されたためか、警戒して周りを囲む。

 窮地に追い込まれデデビビを守ろうとしたクレインが新技能を培っても、大量の魔物に勝てるほど世界は優しくできてなかった。

 それでもクレインは諦めない。

 近寄ってきたものから【直襲撃々】で一撃で沈めていく。

 とはいえ、ここまでデデビビを引き連れ【直襲撃々】を何発も酷使した結果、疲労は目に見えていた。

 ツインテイルフォックスたちが一気に駆け出し、距離を詰めていく。

 一匹が喉元、一匹が右腕、とそれぞれが違う場所を狙って食いちぎろうとした刹那、

 ツインテイルフォックスの喉元を匕首が掻き切った。

 トライアンクロウも次々と落下していく。

「なんとか間にあったの! ふたりともよく頑張ったの!」

 にんまりと笑顔を向けるルルルカの到着だった。

 安堵からクレインは腰が砕け、ぺたりと座り込む。その姿を見て倒れてもなお、神経を張り詰めていたデデビビは安心して気を失った。

 そこからは一瞬だった。

 十本の匕首が、まるで海を泳ぐ魚群のように空中を泳ぎ、鮫が如く魔物たちを虐殺していく。

 果し合いからの今日までの歳月はそこまでルルルカを進化させていた。

「その子を連れて避難するの!」

 言ってルルルカはアロンドの様子を見る。

 アロンドは反射魔法をまだ耐えていた。

 耐え続けていた。盾の下、尖った先端を地面に突き刺し、後退しないようにして耐え続けていた。

 日は沈んではおらず、周囲はまだ明るいものの、そこだけが神々しく光り輝いている。

 盾のバリアと反射魔法の衝突がその光を生み出していた。

 だがその光も先程よりも小さくなっている。

 もうすぐ終わる、そんな予感があった。

 そしてその推測は当たる。

 虐殺は進み、それにあたかも比例するかのように光は小さくなった。

「はぁはぁはぁ……」

 耐え切ったアロンドは息を整え、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 雄叫びをあげる。

 雅京の人々はその姿をまじまじと見ていた。

 跳ね返ってきた魔法が雅京に向かってきたときに人々は死を覚悟した。

 いや正確には受け入れられず、こんな事態を招いた冒険者たちへと罵詈雑言、恨みつらみを吐いた。

 それを冒険者が受け止めるとやがて罵声は声援へと変わる。

 そして守りきると歓声に変わった。

 どこまでも届きそうな雄叫びはヤマタノオロチへの反撃の狼煙、になるはずだった。






 地中から現れた触手がアロンドの心臓を的確に貫くまでは。

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