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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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五人

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 デデビビが技能を使用すると一瞬で、雅京の離れまでアロンドたちは転移していた。

「こいつは驚きだ」

 【降参】は使用前に設定した帰還地点に、使用後一瞬にして転移する技能だった。

 設定した帰還地点までなら、どこからでも誰とでも移動できるうえ、使用者が敵と見做しているものは転移させない、という強力な技能だが、反面、デメリットもある。

「ありがとよ」

 アロンドはお礼を言い、はっきりとデデビビを見た瞬間、言葉に詰まった。

「なんでこんなことに……?」

 その技能を初めて見たクレインも動揺を隠せずにいる。

 デデビビの全身は切り刻まれ、血が噴出している。重傷だった。

「これが、この技能のデメリットなんだ」

 何もなく無条件降伏は許さない、それ相応のダメージを受ければならない。そう言わんばかりだった。

「動けなくなるってそういうことだったの。……麻痺とか一時的な怯み(スタン)とか……そういうのじゃ、なかったの?」

 こんなのひどすぎるよ、クレインは涙目でそう訴える。これほどまで使用者を傷つける技能を、クレインは知らなかった。

「お嬢ちゃんはこいつを連れて離れまで下がってろ。お前は、本当にすごいぜ。レシュリーの弟子にふさわしいな」

 重傷になると知ったら、普通なら使うのを躊躇う。

 それをデデビビは容易く使った。アロンドが街の人を救おうとしているから、そうすれば多くの人を救えるから。レシュリー・ライヴだったとしても【降参】を迷わず使うだろう。

「なら、期待に添わないと駄目だよなあ」

 反射した魔法が雅京へと向けて放たれた。

 それを見てアロンドは笑い、【収納】からさらに盾を取り出す。

 右上欠盾〔見捨てられたバーゼローゼ〕

 左上欠盾〔夢破れたアンシェッタ〕

 右下欠盾〔諦めたシューファレー〕

 左下欠盾〔自暴自棄のシデケラ〕

 右下、左上が指すようにそれらはその箇所が欠けていた。

 右上欠盾を右下に、左上欠盾を左下に、右下欠盾を右上に、左下欠盾を左上に合わせると四つの盾が中央に穴を開けて、ひとつの巨大な盾になる。

 アロンドはその盾のぽっかりと空いた穴へと魔盾〔弟想いのアイリスフィール〕をはめ込んだ。

 魔剣、魔槍、魔斧、そういった類のものは単体で強大な威力を誇ったり特殊な能力を持つものがある。

 魔盾は後者で、魔法をある程度無効化する。だが”ある程度”である以上、上限が存在する。

 とはいえ、三重の【星明煌矢】を防いだ程には強力。それでも、魔法反射され威力が増大した魔法を、しかも威力が増大する前からかなりの威力を誇る魔法を、防げるかといえばアロンドには判断しきれない。

 万が一を考えてとっておきを超える奥の手を用意してよかった。

 アロンドは心からそう思う。

 魔盾がさらに強化できる、というのは前人未踏だった。

 それでも不幸にも魔盾が強化できてしまったのは、アロンドの悔恨が大きいのかもしれない。

 かつて守れなかった五人の姉妹が、五つの盾となり、そしてそれがひとつになった。

 魔外装盾〔救われよ、アデルーリア姉妹〕

 それはまるで雅京を外敵から守るために用意された、砦のようにも思えた。

 ――なんで助けてくれなかったの?

 かつて強敵から背を向け、バーゼローゼを見捨てて逃げたアロンドにバーゼローゼは言った。

 アロンドが逃げ帰った先で、重傷を負いながら。最期は恨み言を吐いて死んだ。

 ――悔しいけどさ、どうやら私の実力じゃあここまでらしいね。

 試練を全部突破して、自分の運命の王子様を見つけたい。雀斑だらけで自分に自信がないアンシェッタはアロンドに常々そう語りかけていた。

 そんなアンシェッタをアロンドは好きだったのかもしれない。その頃はまだアロンドは恋を知らなかった。ただただ、自分の失敗がアンシェッタを殺してしまったことだけを嘆いていた。

 ――キミがどう判断しようが、あたしは助けに行きます。キミはどこへなりとも行ってしまえ。

 それがアロンドの聞いたシューファレーの最後の言葉。子どもが誘拐されたと聞いたシューファレーとアロンドは助けに行くかどうかでもめた。アロンドは誘拐した冒険者集団の数を聞いて、助けに行かないという賢明だが冷酷な判断を下した。

 その判断に激怒したシューファレーはそのままアロンドと喧嘩別れして、最後は誘拐犯たちに殺された。

 ――姉さんたちを守れなかったお前が、何も救えるわけがないんだ。

 シデケラはアデルーリア姉妹の末っ子だった。奇縁にも上の姉三人の仲間となり、三人とも殺してしまったアロンドは運命が廻り廻ってシデケラの仲間になった。けれどシデケラは姉三人を結果的に殺したアロンドを許せるはずがなかった。

 シデケラはアロンドの守りを振り切って敵への特攻を繰り返し、アロンドの懸命な防衛も虚しく死んでいった。

 ――今度、三つ子が生まれるの。あなたが私の妹たちを死なせてしまって悔いているのなら、いい? 私の三つ子を守って。これは約束じゃないわ、私がかける呪いよ。

 笑いながら、アイリスフィールは言った。エル家に嫁いでアデルーリア姓ではなくなっていたけれど、それでも今まで守れなかった四人の長女であることには変わりがなかった。

 彼女は出産前からアロンドと冒険を続け、出産後もアロンドと一番長く旅を続けていた。

 出産前にアロンドは彼女から呪いをかけられ、出産後も、死に別れる前でさえも、アロンドは彼女に呪いをかけ続けられた。

 それは彼女がアデルーリア姉妹の長女だと知ったアロンドが彼女に懺悔した悔恨を和らげる優しい呪いだった。

 彼の懺悔を聞いてもアイリスフィールはアロンドを弟のように扱って、死後も形に見える呪いのように、自分の息子たちを守らせるための魔盾を残してくれた。

 様々な想いが込められ作り上げられた魔外装盾を身構えて、

「さあ、来いよ。守ってやる。守りきってやる。絶対に!」

 アロンドは叫ぶ。

 反射魔法が衝突する。

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