降参
58
アロンドの言葉に反して、魔法はすぐに跳ね返ってこなかった。
「動けるやつはこっちに来い!」
アロンドの言葉を聞いても動けるものはあまりいない。
レシュリーにアリー、コジロウ、ジェニファーなどはかなりの傷を負いながらも、必死に動こうとしていた。
それでも、跳ね返ってくる前にこちらに戻ってこれるかどうか。
エル三兄弟にアンナポッカは魔法が跳ね返ってくる恐怖から、動けずにいる。
元々恐慌に陥っていたのだからアロンドは責めることはしない。
「ここで死ぬのか……」
口癖のように常々そんなことを言うガリーの言葉はこのときばかりは的を射るようだった。
「これじゃあ助けれねぇ……」
まだとっておきの奥の手はある、がそれを使って防ぎきれるのか……アロンドは弱気だった。
「どうなっているんですか」
デデビビが戻ってくる。クレインとアテシアも一緒だ。
「こんなのは美しくない」
凄惨な有り様を見てジョレスが呟く。レシュリー、アリー、コジロウの弟子九人は奇跡的にも恐慌に陥らず、アロンドのもとに辿り着けていた。
怖いもの知らずのアテシアとミセスはともかく、他の七人は最初からどことなく恐れを抱いていた。だからこそ、動けているのかもしれない。
何にせよ、まともに動けるのはアロンド、ガリー、リアン、ルルルカに弟子たち九人の合わせて十三人だった。
「【魔法反射穴】で魔法が跳ね返ってくる。防げなきゃ、俺たちだけじゃねぇ、全員が死ぬ」
その言葉にデデビビたちは改めて震える。
「お譲ちゃんら、癒術はどこまで使える?」
時間はないが、なぜかヤマタノオロチは魔法をまだ跳ね返してこない。
その時間を有効に活用する。
「【魔抗盾】なら使えます」とリアン。
「【魔防壁】なら」とインデジル。
「階級5と階級2か。焼け石に水だがしないよりかはマシか」
アロンドはそう呟いて、それでもふたりに詠唱を頼む。
「おじさん。それよりも見るの! なんか向きが変わってるの!」
策を考えるアロンドにルルルカがヤマタノオロチを指して伝える。
アロンドが見ると確かに跳ね返ってくる魔法が【魔法反射穴】に当たったまま向きをわずかに変えつつあった。
「あの方向は……」
「確か雅京がある方向でスよ」
「美しくない……」
「わだしだちじゃなくで、街の人たちに向かっで放づづもりだ」
「全員が死ぬ。誰一人も残さないつもりですね……これは死にますよ」
口々に言う。
これは……もうなりふり構ってらねぇな、アロンドは決意する。
これまで何度も守ってみせると覚悟を決めることはあった。その覚悟に反して守れないこともあった。
でも今回は守ってみせなきゃならねぇ。
決意した。覚悟を決めた。
「おい、お嬢さんは投球士系だろう。【転移球】でオレを雅京の前まで運べ」
「何するづもりだ?」
「守る対象が変わっただけだ」
こちらへ跳ね返らないのならば、あっちを守らなければならない。
「危ないだべさ。それに【転移球】じゃあ雅京の前まで届かないだべ」
「連続で投げてもか……」
「それなら可能かもしんねぇが、間にあうか分かんねぇべ」
「それでもいい」
やってくれ、と言う前に「あの……」とデデビビが話しかけてきた。
「僕なら、一瞬であそこまで行けます」
「どうやって? お前は確か……札術士だったな……」
「説明は省きますが、とにかく僕ならあそこに一瞬で行けるんです。でも問題がひとつ」
「なんだ?」
「使った僕自身はしばらく動けなくなります」
「なるほど……なら俺が守りきってやるから心配ない」
「待ってよ。ボクは反対だよ。だいたい、あなたが絶対に守りきれる保証なんてない」
クレインはアロンドを信頼していないわけではない。でもそれ以上にデデビビの身を案じていた。
「僕は大丈夫。それに言い争ってる暇はないよ」
「KKSがありますわ」
アテシアが言う。「わたくしたちも行けばいいのです」
「よろしくて?」
アテシアがアロンドとデデビビに視線で了承を求める。
「僕はアテシアにはここに残って欲しい」
「DD?」
「ヤマタノオロチ以外の魔物が出てくるかもしれないから」
「NH。RSですわ」
クレインひとりで十分だと判断。アテシア自身も魔物を倒せるのだから反対する必要もない。
「なら決まりだ。お嬢ちゃんらここは任せる」
ルルルカとリアンを示してアロンドはデデビビがその一瞬で行けるという技能を使うのを待つ。
「肩に手を」
言われるがまま、アロンドとクレインがそれぞれ肩に手を置く。
それを確認してデデビビは出現させたデッキに手を置いて、一言。
「【降参】」




