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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
276/874

風首

 54


 僕は開始の合図である【三秒球】を投げると、アリーたちが一気に疾走する。

「あんたはあんたのやりたいようにしなさい」

 アリーは走る間際、そう言った。

 風の首を対応している僕だけれど、全体を眺め対処するのが僕の役目だった。

 けれど手始めにすることは決めている。

 まずはメリーにこっそりと渡された【封獣結晶】を投げる。

 これが存在しているとメレイナが【造型】できないかもしれない。

 投げた【封獣結晶】はヤマタノオロチに当たると、まるで人の物を盗るのは泥棒だと言わんばかりに弾かれ、消失する。

 それは僕とヤマタノオロチの実力差を示していた。

 かつての僕なら悲観したかもしれない。でも僕にはアリーが、仲間たちがいる。

 状況をじろりと見つめる。

 コジロウが先頭。アリー、シュキアと続いて、次がジェニファー。フレアレディとMVP48の六人が後ろに控えている。MOST10以上は坂本と武市。

 ここらへんのバランス取りは失敗したかもしれない。僕たちよりもモモッカやムジカのところを厚くすべきだったと思うけれど、これもMVP48内でどの首を担当するかと分けた結果だった。

 先頭のコジロウへと風の息吹が飛ぶ。ラッテ戦の風属性魔法のように、それも目視できるわけではない。

 けれど風の流れが僕たちに教えてくれる。足元にある草を刈り取り、草が廻る流れがその風の形を露にする。

 それは丸い形状。空気が凝縮され螺旋に渦巻いていた。

 援護しようとしたところで炎の首が毒の息吹を吐く体勢をとっていた。

 急いで【滅毒球】を生成。

 それを見たアリーたちは独自の判断で回避を開始していた。

 ひと安心しつつ、イチジツへと向かっていた毒の息吹をかき消すように【滅毒球】を投球。

 致命傷は防げたと判断。


 ***


 音速で飛んできた風の息吹をコジロウは転がるように回避。

 アリーも飛び退き、後ろにいたジェニファーが取外式巨大槍〔悲運のリゾネット〕で防ぐ。

 ジリリリ、と草を刈るように風に押されて後退。吹き飛ばされはしないが、かなり後ろへと押し込まれた。

「イッキニフウジマスカ?」

「それで行動不能になるなら迷惑」

「リョウカイデス。オジョウサマ」

「はぁ?」

 アリーがジェニファーの突然のオジョウサマ発言に驚き、同時に苛立つ。

「誰がそんなことを言え、って言ったのよ?」

「ソウゾウシュサマデス。イエバオモシロイコトニナル、ト」

「ジョバンニね。あとでぶっ殺す」

 柄じゃない言葉に思わず赤面にして苛立ちを隠さぬままアリーは加速。

「ドコガオモシロカッタノデショウカ?」

 ジョバンニの面白味をジェニファーは理解できない。

「風の息吹の対処はお嬢様がするでござるか?」

 コジロウが面白がって尋ねてきた。些細なジョバンニの悪戯を間近で見てコジロウもからかってみようと好奇心に駆られたのだ。

「……あんたも死にたい?」

 赤面してアリーはわりと本気で狩猟剣を振りかぶる。

 コジロウは軽々と避け、「では任せるでござるよ」

 言い残して首元へと向かっていく。

「ジェニファーも他のやつらを連れて先に向かってなさい」

「オヒトリデダイジョウブデスカ?」

「当たり前よ。あいつも援護してくれるしね」


 ***


 アリーがちらりとこちらを向く。いつもながら思うことだけれど、その信頼の眼差しは僕を安心させ、精神を落ち着かせる。

 綺麗な顔をまじまじ見つめていたのが分かったのか、遠くにいながらも視線が合った途端、アリーは目を逸らした。

 当然、僕も。

 戦闘中だというのに、まるで恋人のような反応。あ、いや恋人だけれど。

 それが油断と断じられればそうかもしれないけれど、僕とアリーにとっては呼吸のようなもの。

 阿吽を合わせるように、示し合わせて動き始める。

 【転移球】を放り投げてアリーを風の首の頭上へと転移。

「お願い」

 同時に闘球専士に頼んでおいた【転移球】で僕もアリーの近くへと転移する。

 蜥蜴のような瞳がじろりと上を向き、自分よりも高い位置に現れたアリーに気づく。

 すぐさま、風の息吹が吐き出された。

 そうなるだろうと予測済み。

 だから僕は自分の【転移球】でアリーの近くに出現しなかったのだ。

 自分がすでに作っておいた【転移球】でアリーを転移させ風の息吹を回避させる。

 じろりと僕を一瞥したあと、けれど風の首はアリーの転移位置へと視線を向ける。

 ガイラスが【転移球】は一瞬転移先を教えてくれる、と言っていたが風の首もその方法で【転移球】の転移先を把握しているのかもしれない。

 アリーのほうが脅威と判断しているのだろう。

 それは敵ながらに賢明な判断。アリーのほうが強いに決まっていた。

 僕は再びアリーへと【転移球】を投げる。

 また転移先に視線が移る。

 アリーばっかりを見ているのは正直嫉妬する。僕だけがずっと見ていたいという独占欲はないとはいえない。

 そんなことを考えられるほど僕には余裕があった。

 ビビると思っていたけれど、これが成長なんだろうか。油断かもしれない。

「余所見してていいの?」

 アリーの問いかけは僕ではなく、風の首へと向けられていた。

 アリーばかり見て他を見ていない風の首へと警告だった。

 蜥蜴のような瞳に頭上から急速接近していた応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕が突き刺さる。

「グギャアアアアアアアアアア!!」

 叫びともに激昂。風の息吹をそこかしこに吐きまくる。

「レシュ!」

 空中で身をよじり、手を伸ばしてきたアリーと手を繋ぐ。温かい手と手が触れ合った。

 戦闘中だけれどもしかしたら手を繋いだのはこれが初めてかもしれない。

 どことなく嬉しさが込み上げるけれど、自分の役目は忘れない。

 【転移球】で風の首の頭に乗っかる。

「落ちそうだわ」

「大丈夫、僕が支えるから」

 とは言ったけど、暴れる頭から今にも落ちそうだ。しゃがんだアリーを僕が包むように支える。態勢的になんか変な格好だ。

「大丈夫……なのよね?」

「たぶん。けど早めに済ましてくれると助かるよ」

 自分で言っておいてなんだけど、もっと激しく振られると落ちそうだった。

「貫け、レヴェンティ!」

 アリーが不安定なまま、叫び突き刺す。

 キィン! という音とともに【突神雷】を宿したレヴェンティが弾かれる。

「……」

「……」

「……こっからだと無理みたいね」

 頭の鱗も首同様硬いようだった。全部の首が出る前なら、頭から縦切断できたのは当たり前だけどそれまでは脆かったからだろう。

「やっぱりこうすべきだったのよ」

 小悪魔の笑み。

 アリーが僕の支えを振りほどいて、爬虫類のような鼻先まで接近。

「ちょっと無理するけど、いっつもあんたがしてるんだからおあいこよね」

 この段階で、風の首は頭の異物、つまり僕たちに気づいて必死に振り落とそうとしていた。

 風の息吹は噴射されてない。

 だからって、だからって――

 アリーは鼻先を掴んで口の中へと入り込んだ。急いで覗き込む。

「貫け、レヴェンティ」

 稲妻が口腔を迸る。負けじと口腔で風の渦が高まっていた。

「埋もれ、レヴェンティ!」

 即座に【弾岩】を宿して、解放。

 けれど超近距離で生成される風の渦が、解放された岩々を破壊していく。

 アリーが僕に視線で合図。

 【転移球】が速いか風の息吹が速いか、ギリギリのところでアリーを救出。

 ギリギリだったので、アリーの防具が裂傷。テッラ戦後にギリギリメンテナンスはできてたみたいだけれど、またメンテナンスが必要になってしまった。もちろん、それで致命傷を防げたならアリーは出費すら気にしないだろう。

 直後に頭が大きく動き、僕たちは落下。

 粉々になった【弾岩】がそのまま喉へと落ちていったことで、喉に刺さった小骨のような違和感を与えたのだろう、風の息吹は飛んでこない。

「首に近づけて」

 【転移球】で僕ごとアリーを首へと近づける。

「何するつもりなの?」

「こうするつもりよ」

 アリーは狩猟剣を鱗へと突きたてる。

 当然、突き刺さらない。

 でも、

 ガガッ、ガガッと音を立て、落下の勢いを利用して、まるで線を描くように真下へと傷をつけていた。

 悪あがきというよりは落下の速度を緩やかにすることで自分で降りようとしていた。

 たぶん、僕が動きやすくするために。

 ありがとう、アリー。

 落下しながら、僕は【変化球・急落下】を連投。中腹あたりに狙いを定め、投げ続ける。

 僕が落下し、中腹へと到達すると【速球】に切り替える。

 中腹を通り越し、下へと落下し始めたのを境に【変化球・急上昇】へと切り換えて、僕はひたすら狙い続ける。

 ただひたすら、ひたすら、ひたすら投げる。

 投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。投げる。

 地面すれすれで【転移球】を投げ、地面へと激突を避ける。

 着地して、最後に【剛速球】を投げる。射程はギリギリ。

「行けたかな?」

 僕は呟く。

「大した精度でござる」

 僕に近寄ってきたコジロウが感心する。

 僕の投げた球はずっと一ヶ所を狙い続けていた。その結果、硬い鱗がひび割れている。

「チャンスだねっ!」

 シュキアの言葉通り、僕は攻撃のチャンスを作り出していた。

 僕以外の全員が走り出す。アリーはまだ落下の最中。

 最速のコジロウが先頭。

 忍術【影分身】によって数を増やし、【韋駄転】からの【伝土(ベルクヴェルク)】の連続攻撃を叩き込む。

 二番手は坂本龍馬と武市半平太。鉄錐棒〔同名のサッチョウ〕と鉄錐棒〔小さな力チョシュ〕のW【打法】。

 フレアレディが耳短剣〔強火のゴブレット〕、耳短剣〔薄氷のゴーフレット〕、耳短剣〔弱火のコフレッド〕、耳短剣〔淡雪のコブレード〕を超高速で操り、四連撃。

 多段攻撃に、ひび割れた鱗はもはやはがれ、露出した肉に何度も攻撃が打ち込まれている。

「やあああああああああああああっっっっ!!!!!!」

 【瞬間移動】で脚力を強化したシュキアが【筋力増強】で筋力をも増強。長二叉捕縛棒〔支配者ドロップウィップ〕を渾身の一振り。

 身もだえするほどの威力を、一点に集中させ殴打。

 風の首が呻き声とともにアリーが詰め込んだ(プレゼントした)【弾岩】が口から吐き出す。

 ようやく風の息吹で反撃開始と意気込んでいるのかもしれない。

 でも無駄だ。

 アリーはすでに着地している。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 僕が気合ともに【剛速球】を投げる。

「切り刻め、レヴェンティ!!」

 同時にアリーが攻撃。

 【剛速球】が強烈に当たり、【風膨】を宿したレヴェンティが突き刺さる。風の首だからといって風属性を無効化するわけではない。

 解放。剣先から膨れ上がった暴風が風の首を内部で膨張。破壊、破裂へと向かっていく。

「……」

 その光景を、あまり活躍できなかった四人の闘球専士は感嘆するように見ていた。

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