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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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棒術

47


「邪魔」

 唾を吐く勢いでイチジツが一蹴。

 同時に炎の首を切断する。

頭蛾頭餓(ずがずが)っと、任せておけ!」

 イチジツを越えてキセルが再生したばかりの炎の首へと向かう。

 繰り出したるは棒術【頭蛾頭餓】。突進からの一撃が炎の首へとズガズガと突き刺さる。

 キセルはレシュリーたちの所に向かう途中にイチジツを見つけて手助けをしていた。

 キセルとマツリはイチジツと比べて随分と年老いている。

 バルバトスやアカサカほどではないにしろ、白髪混じりの男は、筋肉質で体は若々しくあるものの、皺深な顔に若さは存在しない。

 β時代を経験した数少ない冒険者でその頃から散々な目に遭っている。

 トリプルスリーはイチジツを加えての呼び名だ。その前はキセルとマツリでツートップと呼ばれていた。

 そうやって疎まれてもなお、キセルとマツリは生き延びてきたのだ。

 そのなかに放りこまれ、トリプルスリーと称されるようになったイチジツがキセルとマツリを毛嫌いするのも当然。しかも年の功というべきかキセルとマツリは馴れ馴れしくイチジツへと話しかけてきて、それがさらにイチジツの毛嫌いを助長させていた。

「邪魔邪魔」

 言ってイチジツが繰り出したのは【冠位因縁流・大義愛(だいぎあい)】。

 氷のように冷たい衝撃波が飛び、三度再生したヤマタノオロチの炎の首を切断。

 だが再生は何度も繰り返される。これで何度目だろう。千回目からは数えるのをやめていた。

守蛸羅佐々(すたこらさっさ)っと逃げるべきかねぇ?」

 腰をとんとんと叩き、鉄鎖杖〔毛伸びるオビワン〕を振り回して【守蛸羅佐々(スタコラサッサ)】を発動。空気中に漂うとされる氣を集め、一時的に防御力と回避力を向上させる棒術を使用して言葉とは裏腹に突撃。

 氷の吐息を紙一重どころか余裕で空中回避、氷の息を吐いた頭へと着地すると

断蛇弾(だんだだん)と行くぞ、ごるああああああ!」

 かつてヤンチャしていたときのように若々しく叫び、【断蛇弾】と真下へと三連打。

 打った勢いで地割れのように衝撃が広がる。威力もさながら、首が脆いこともあって、おつまみの乾物スクィードのように簡単に裂ける。

斜蛙亜亜亜亜亜亜(しゃあああああああ)!」

 キセルが声を上げて一気に飛び降りる。

 一撃で消滅した氷の首に歓喜しただが、すでに氷の首は再生を始めていた。

「限がねぇ」

 悔しげに再生した氷の首を見上げるキセル。それでも諦めたりはしない。

 イチジツが引き下がらなければ撤退もできないだろう。

 だがイチジツは戦略的撤退もしようともしない。レシュリーたちが来るのを待つのも戦略的には大事なことなのに。

「何匹かひきつけるしかねぇな、蛾駕牙岩(ががががん)と行くぞ」

 言ってキセルはイチジツから一番離れた首へと向かっていく。

 棒術はまだ技能としては新しい部類に入る。

 キセルこそがその棒術の始祖だった。

 それは癒術しか使えなかった癒術士系にとっては革命であった。

 けれどキセルにはいい思い出はない。癒術士系だったのに回復しなかったゆえに棒術を生み出したが、回復しなかったゆえに多くの冒険者に嫌われ散々な目に遭ってきた。

 挙句に自身は癒術を使えなくなるという散々どころか悲惨な目に遭っていた。

 それでも生き、戦っているのにはそれ相応の理由があった。

 その理由を常に胸に秘め、キセルは突撃する。

 繰り出したのは口に出した擬音通りに【蛾駕牙岩(ガガガガン)】。

 だが光の首は今までとは違ってその攻撃を弾いた。

 光の首が特別、というわけではない。今までも何度かその首を攻撃していたがすんなりと倒すことができていた。

 ならばなぜか……その理由はすぐに分かった。

 8本目の首。闇の首がその姿を現さんとしていた。

「到着していたし、キセル。本気心配したし」

 落ち着いた物腰でマツリはいち早くキセルに近づく。後ろにはレシュリーたちがいた。

 速さ的にはコジロウのような忍士のほうが速いが、マツリは土地勘と周囲の危険を顧みない加速によって一番に近づくことを可能にしていた。

「風の赴くまま、豹流々々雨(ひょうるるるう)とそっちに向かってたら、イチジツを見つけたもんでね。怒鈍蛾曇(どどんがどん)と手助けしていたってわけよ」

「あなたがキセルさんですね?」

 マツリが近づいていったことでそう判断したレシュリーが問いかける。

「応よ。邪蛇邪雀(じゃじゃじゃじゃん)と応援に馳せ参じた。と言っても屁茶狗茶(ぺちゃくちゃ)と話している暇もないけどな。さっき八本目が如来女鬼(にょきにょき)っと生えてきた」

「みたいですね」

 間近に寄って、その大きさに慄き、迫力にびびる。アジ・ダハーカよりも圧倒的な巨体。

 八本を出現させてから全ての首がさらに伸びたように感じる。

「話だと首は脆いはずだったけど……ある程度予測していた通り、硬くなったみたいね」

「応。八本目の出現と同時に勝地瓦蜘(がちがち)になったぞ」

「苦戦しそうだけど……やるしかない」

「アニキ! アニキたち以外は所定の位置についたでやんす」

「おっと、オレたちはどこに行けばいい?」

「一緒に遊撃だし、キセルとイチジツ」

「なるほどそりゃあありがたい采配」

 そう言ってキセルはイチジツの攻撃する首へと向かっていく。

「ちっと引き止めてくるし。遊撃と自由は違う。もっともキセルは分かってると思うがそれでも攻撃の始動はあわせたほうがいいし」

「すいませんがお願いします」

 ふたりのもとに向かっていくマツリを尻目にレシュリーたちは風の首へと向かう。

 いよいよ、ヤマタノオロチとの戦いが始まる。

 緊張とともに鼓動が高鳴っていくのをレシュリーは抑えられなかった。

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