封鎖
46
いそいそと外に出ると、雅京の壁の隙間、本来なら銃や弓矢で外に攻撃するための穴をのぞく人々の姿があった。
「何をやってるんだZE?」
「もう……ヤマタノオロチの首が七本も出てるんだ」
「外界から来たってやつは何をやってんだよ!」
「噂じゃもう来てるが、まだ戦わないらしい。MVP48が出発したのがついさっきみたいだ」
ジョーは人々の愚痴にも似た言葉を聞いて少しだけ安堵していた。
自分の出番はまだある。遅刻なんてしていないZE。
それは言い訳で現に遅刻をしているのだが、ジョーは自分に言い聞かせる。
「ってこうしてる場合じゃねぇZE」
ジョーは雅京のひとつしかない出口へと向かう。
雅京は螺旋階段のような造りで、出口は最下層の御気名和にしかない。
御気名和についたジョーは唯一の出口が閉まっていることに気づき、門番に近寄った。
「おいおい、どーして門がしまってるんだ、ZE!」
「民の安全のため、首が七本出現した時点で門を閉めろとのお達しだ」
「誰がいつ、そんなこと言ったんだZE!」
「雅京の方針を決めるのはいつでも誰なのか、お前だって知っているはずだが……」
「公家の連中……DARO? 畜生、やられたZE!」
やられたも何も自分の責任なのだが、ジョーはそんなこと知ったことか、と門を閉めた連中を逆怨みする。
雅京の周囲は高塀で囲われているため飛び越えるには一工夫する必要がある。
問題はその一工夫を許してくれるか、どうか。
「余計なことはするな。中にいるものは静観していろ、とのお達しだ」
「お達し、お達しうるさいZE!!」
言われたことしかできないのか、融通はできないのか、苛立ちをぶつけてジョーは引き下がる。
完全復活まで時間がない。強行突破するか、などなど考えながら家まで戻る。
「にゃあー」
炬燵のなかから猫が鳴く。
「お前は気楽でいいんだZE、っと!」
自らが炬燵に入ると猫を引っ張り出して膝の上に乗せる。
「さぁーて、どうするんだZE……」
足元がぬくぬくと温まる。外は決して寒いわけではない、むしろ少し暖かい。
それでも炬燵のなかは快適だった。
暑い日に熱いものを、寒い日に冷たいものを食べる感覚。
妙な心地よさ、気持ちよさが再びジョーを襲う。
レシュリーたちが感じている緊張とは無縁の空間でジョーはまたもや眠りにつく。
そうこうしているうちに戦闘が始まるというのに。
「にゃあー」
ジョーと炬燵に挟まれ、窮屈そうな猫だけが億劫に鳴いた。
***
七本目の首が出た、その報をコエンマから受けレシュリーたちは準備を整える。
「久しぶりだな」
少しだけやつれた斉藤の声が聞こえた。
「さっきまで修業をしていて少しばかり疲れてはいるが……安心しろ、きちんと戦える」
やつれている理由をそう説明して、
「禍根、というには言葉が過ぎるが……敵として戦ったことは忘れて、ともに戦おうぞ」
和解のように斉藤は言うが、
「とんでもない。主張がすれ違えば戦うのが冒険者だから、敵として戦うこともある。ともに戦うだけで嬉しいよ」
レシュリーはそう言って握手を求めた。
互いが握手をして、共闘を改めて要請する。
「手伝えるのはMVP48だけだが、他の連中は草原や周囲の敵を掃討する。これで存分に戦えるはずだ」
「そうだったのか……それは助かるよ」
レシュリーとしては周囲の敵も懸念していたが、偶然にもラッテたちが全滅させておいたこともあり、湧くのには時間があるという算段だった。
それでも湧けば対応する必要があるが、それは近くの冒険者が対応するという感じで説明していた。弟子たちにも前に出すぎないなら、周囲の魔物を掃討してほしいと頼んでおいてはいた。
だが斉藤としては万全の態勢で戦いたかったのだろう、あらかじめ手を打っていたということだ。
長年、トップを走り続けてきた男は違うとレシュリーは感心する。それに比べて自分はだから詰めを誤るのだと、失った人々の顔を思い浮かべて反省どころか失意に沈む。
「また変なことを考える。いちいち気にしないの」
レシュリーの雰囲気――負陰気を感じ取ったアリーが呆れながら励まし、事なきを得てレシュリーは改めて斉藤たちに説明を始めた。
事前にアカサカさんに説明を受けていただろうから説明は簡潔。
四八人を八等分して各首に六人が担当することを決める。
「本気で遅し、キセル」
歴戦の老兵マツリがぼそりと言う。その声色は不安そのもの。
キセルなる人物をレシュリーたちは知らないが、アカサカから言わせればきちんと約束は守る男だという。
トリプルスリーの一角であることから散々な目に遭っていることは確かだが、それでもトリプルスリーである以上、実力は折り紙つきだった。
そのキセルが来ない。同じ散々な目に遭ったマツリからすれば、そういう境遇を乗り越えたものが来ないというのは不安を煽るには十分だった。
「お主の心配も分かるが……もうすぐヤマタノオロチは復活する。ここにはワシが残ろう」
「本気で致し方なし」
マツリが小声で待つのを諦め、出発しようしていたレシュリーたちのもとへと向かう。
「行きましょう」
レシュリーの声で一同は走り出す。




