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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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柳友


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 数時間前、レシュリーたちがイチジツと出会い、トリプルスリーのひとり、マツリが訪れる前のことだ、

 ひとりの訪問者があった。

 彼は冒険者でもなく、闘球専士でもなく、公家でもなく、今は雅京の(なら)に身を置くただの一般人だった。

「ルルルカさんはいますか?」

 やせ細った彼は杖をつきながら、妻にその体を支えられて、レシュリーたちのいる離れへとやってきた。

「私だけど、誰なの? もしかしてサインが欲しいの?」

 アロンドにサインを求められたこともあってか、ルルルカはそんなことを訊ねる。

「あなたが外界で有名なのは存じておりますが、僕の望みはそんなものではありませんよ」

 柔らかく笑って来訪者は言う。そんなものと言われてルルルカは少しだけ頬を脹らませたが、彼の真剣な眼差しに何かあると気づく。

「ルルルカさん、どうか僕の望みをかなえてくださいませんか?」

「と言っても私はこれから忙しくなるし、そもそもあなたは誰なの?」

 不明な点が多すぎた。ルルルカが突然の来訪者を怪しむのは当然だった。

「僕の名前は柳友(やぎゆう)米兵衛(べいべえ)。あなたの持っている柳友武器群(ヤギユウシリーズ)の元となった冒険者の子孫です」

 そう言って一礼した。

 ふたりで話がしたい、そう主張したベイベエの意を組んで、アカサカが自分の使っていた小さな個室へとふたりを招き入れる。

 ベイベエの妻とアカサカが個室の外へと出ていってしばらくするとベイベエは口を開いた。

「僕の望みというのは、あなたが持つ柳友武器群についてです」

「渡したりなんかしないの!」

「はは、あなたは早とちりしすぎです。むしろ逆なんですよ」

「逆?」

「僕はね、あなたに柳友武器群をもっと使っていって欲しいのです。ルルルカさんは雅京にも鍛冶屋があるのはご存知ですか?」

「知らないの。でも雅京は料理が美味しいの!」

「そうですか。僕の妻も一応料理人なんです。今度、立ち寄った際には来てください」

「是非行くの!」

 目を輝かせてルルルカは言った。

 さて、話を戻しますね。料理に食いついたルルルカにベイベエは苦笑いをしながら、

「外界ではゆぐどら・しぃるというところが有名ですが、鍛冶屋っていうのはどの街にも数人は存在します。もちろん、雅京にも。そしてその柳友武器群は全部が雅京で作られたものなのです」

「でも、ユグドラ・シィルにはセフィロトの樹があって、そこに冒険者の名前が刻まれるはずなの! 変な話だけど死者の名前をどうやって確認するの?」

「名を確認はしません。死者を確認するんです。内界の冒険者は死者蘇生を試みることが少ないからです」

「それはどうしてなの?」

「今は風潮が違いますが……かつては死に様さえも内界の冒険者は拘ったんです」

「なんか、それ……よく分かんないの」

「かもしれません。この感覚は内界独自のものかもしれません。……また話が逸れました。話を戻しますね」

「僕の先祖、ひとまとめに柳友と言いますが、柳友は内界に生息した強大な魔物を倒すことに躍起になっていました。今もなお封印されている九尾狐は、柳友と阿倍晴(あべのはる)(あきら)が協力して封印したんです。そしてそういう偉業を造って柳友は死んでいきました。そうして造られたのが柳友武器群の匕首です」

「私が集めた?」

「そうです。ですがなぜそれが外界にばらまかれたのか知っていますか?」

「確か、どっかの剣盗士が盗んで所有権を放棄したとか……」

「はは、似たようなものです」

 苦笑いをしながら思い出すように遠くを見つめてベイベエは続ける。おそらく先祖からずっと語り継がれてきたのだろう。

「かつて石川(いしかわ)強右衛門(ごうえもん)と呼ばれる冒険者が、冒険者に武器を使わせることを良しとせず、家宝としていることに異を唱え、雅京中の剣を盗み出して、外界にばらまいたのです」

「だから私が集めることができた、そうなの?」

「そうです。そして僕はそれを返せとは言わない。僕も冒険者に使われることが正しいと思っているからです」

「でも私もコレクションしてるところがあるの! それでもいいの?」

「いいです。だってあなたは使える可能性があるんですから。僕たちを、柳友武器群を。現にあなたは果し合いで二十本の匕首を使うのを僕は見ました。ですから、お願いをしに来たのです」

「五十本全部使ってほしい、そう言いたいの? でも全部は使えないの。ちょっとずつでいいなら考えるの! それでいいの?」

「それで構いません。けれど僕が使って欲しいのは五十本ではありませんよ。なぜなら先の強右衛門の話は五十一代目の話です。そして僕は百一代目」

 何が言いたいのか分かって、ルルルカの背中がゾクゾクッと震え、胸が高まった。

「あるの……あと五十本……」

「ええ、僕の家に家宝として。この話をしている間、妻に持ってこさせています。是非、受け取ってください。そしてこの先の冒険に、存分にお使いください」

「……分かったの。絶対に役立てて見せるの!」

 ベイベエの決意、そしてヤギユウの信念にルルルカはそう応え、ベイベエの妻が持ってきた匕首五十本を受け取った。

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