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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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散三

 43


「――【魔抗盾(マジカルシールド)】!」

 リアンが展開した援護階級5の癒術、【魔抗盾】がアルに襲いかかる炎の吐息を防ぐ。

 アルはそのまま飛び込み、首の付け根辺りを急降下するように切断。

 【下々翔哭(スワロウウインダー)】は跳躍後、滑空し滑り込むようにして相手を切る剣技だ。

 それだけでヤマタノオロチの首はすっぱりと切れる。

 脆く柔らかい。何度も切断したアルの感想は変わらない。

 だが、その付け根からすぐに首が再生する。一秒もない。

「ふぅうううううううううううう」

 深呼吸して、息を大きく吐く。

 これの繰り返しだ。付け根を一度焼いてみたが、再生する時間も変わらず、あまり効果があるとは言えなかった。

「剣士どの! 五本目の首が出現したら戻って欲しいとアニキからの言伝でやんす!」

 コエンマが近づいてアルに伝言を伝える。

「レシュリーさんが? そうかわかっ――」

 返事をするよりも早く、アルはコエンマを突き飛ばす。

 今まさに五本目の首がコエンマの背後から伸びてきていた。

「くっ、避けきれるか?」

 首は登場とともに吐息(ブレス)を吐く。

 四本目の登場時にそうだったので、五本目もおそらくそうだろう。

 真ん中の、一本目の首が炎、二本目が氷、三本目が雷、四本目が水だったので伝承どおりであれば次は土。

 予測したとおり土砂崩れのような土砂の吐息がアルに襲いかかる。

「我、斬如疾風――【冠位因縁流(かんいいんねんりゅう)小徳識(しょうとくしき)】!」

 風が味方するかのように追い風に援護された女冒険者が五本目の首を切断。目にも止まらぬ速さ。

 土砂の吐息が途中で途切れ、アルは軽傷で済む。

「すまない、助かった」

「不要謝礼。我、致助太刀!」

「それはいいが、五本目の首が出たら戻ってきてほしいらしい」

 なんとなくで言葉を察したアルは今しがたの伝言を伝える。

「無理。我、単独戦闘続行希望!」

「ひとりで戦いたい理由は知らないですが、今は倒し方が不明なんだ。一度戻ってレシュリーさんに情報を伝えるのが先決だと思う! それでも戻る気はないんですか?」

「肯定。放置希望」

「アル、この人をひとりにするのは不安だけど、一旦戻るしかない、かも……」

「そうでやんす。それにこの人はとりぷるすりーって言ってMOST10なみに強いでやんす!」

「そこまで言うなら……名は知りませんが、死なないでください」

「当前」


 ***


「そうか。イチジツは単独で戦うと言いよったか」

 報告を受けたアカサカは呆れるしかなかった。

「ええ、まあなんとなくしか言葉が分からなかったんですが、おそらくそうだと思います」

「まあよい。あれはとりぷるすりーの一角じゃからな。死にはせんじゃろう」

「さっき、来た人にも言ってたけど、トリプルスリーってなんなの?」

「とりぷるすりーというのは散々な目に遭ってもなお生き延びた三人――短くして散々な三人――もっと短くして散三とりぷるすりーじゃ」

「なんかもっとすごいことを讃えるもののような気がするけど……」

「そうね。なんとなくだけど、闘球専士に似合いそうな言葉ね」

「まあ、イチジツはともかく残りのふたり……今しがた挨拶したマツリと、もうすぐ来ると伝書鴉を寄越したキセルは元闘球専士の冒険者である」

「何かした、とかそういうのなの?」

「イチジツは先に説明したとおり、マツリは正当防衛とはいえ行き過ぎた暴力で追放、キセルは不倫というところじゃろうか、ふたりともそのせいで一族は滅んでおる。もちろん不倫した女の夫や暴力を振るった相手に復讐されておるのは言うまでもない。果し合いシステムでの」

「それが散々な目……それでも生き延びたからトリプルスリー……」

「無理やりな気がしないでもないわ」

「それにこういう時に大陸の言葉を使うのはなんだか……」

「まあ、大陸へと逃げたというのは少し羨ましいから恨めしいそんな意味も込めておるんじゃろう。公家というのはよっぽど暇ということじゃな」

「まあ、イチジツさんがそのトリプルスリーっていうのは分かったし、アルが連れて来れなかったのも分かった。けど心配は心配だな」

「でも本人が心配ないっていうなら仕方ないわよ。意固地な人間の意見を変えるのは難しいって分かるでしょ、特にあんたは」

「そうでござるな。意固地なレシュリーどのがとやかくは言えんでござる」

「……それを言われると」

 何度もわがままで迷惑をかけたレシュリーは頭が上がらない。

 こりゃあ、かかあ天下になるな、とパレコやセレオーナは密かに思ったが、何も言わない。三人のやりとりをにやにや見つめるだけだ。

「それよりもこうして粗方、人数も揃ったんだ。説明を始めては?」

 ヴィヴィが見るに見かねて提案する。「そうなの、そうなの!」とルルルカが激しく同意した。

 セレオーナやパレコが到着したあと、レッドガン組や、アンナポッカ&ガリー、モモッカ組、シャアナ組も到着していた。

 カロロ組やヤン&マー、デュセに同伴していたコロレラたちの姿はなかった。

来てくれるだろうと踏んでいたルクスにマイカ、グラウス、マリアンの姿がないのはレシュリーにとっては意外すぎた。

 とはいえ絶対に来いなんて義理立ててない。冒険者は自分たちの利益で戦うのが本質なのだ。

「わしも聞いておこう。ここには入らんと思って闘球専士の奴らは呼んでおらんからな、伝える必要がある」

 闘球専士がともに戦うというのは少し前にレシュリーも聞いていた。特にMVP48は全員が参加してくれると聞き、ありがたいことこの上なかった。

「じゃあ、作戦……と言っても倒し方が分からないから戦闘方針っていうのが正しいかもだけど……説明を始めるよ」

 レシュリーは全員に向き直り、説明を始める。

 自分が先頭に立ち、率先して作戦を提案する。この行為は一年前の自分に想像できただろうか。

 嬉しいことではあるけれど、なんだか恥ずかしくてレシュリーはいまだ慣れない。

 それでもヤマタノオロチを倒すために、空中庭園を救うために、自分の作戦を精一杯伝えるだけだ。


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