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「ここだ」
ミンシアの匂いが部屋に続いていた。エリマの匂いはこの階層内に充満していて辿るにはもう少しかかりそうだった。
あるがゆえにアエイウはミンシアにしぼり捜索をしていた。
そうして辿り着いたのがこの部屋だった。アエイウが知るよしもないが、そこはプティラ・ノードンの部屋だった。
入った途端、漂ってきたのは
「薬臭ぇ」
消毒薬のようなツンとした臭いに顔をしかめる。
そこには誰の姿もなかった。
けれど消毒液の臭いとミンシアの匂いが入り混じっていた。
薄暗い部屋にはつきの十字架がある一方で、机には聖なる書が置かれ、女神像もあった。近くには筆のような道具も落ちている。
悪趣味にも見える部屋がアエイウにはなんだか気にくわない。
「ミンシアはどこかに連れて行かれたのか?」
冒険者に限らず、人質に取られた女がどうなるかは簡単に予想ができる。
生かさなければ人質にはなりえないが、生きてさえいればなんだってするのだ。
この部屋の主には死よりも耐え難い苦痛を与えてやるとアエイウは決意。
「ア、アエイウ様……あの本の近くに何かありますよ?」
髪を引っ張られながらもエミリーは聖なる書の近くに何かが置いてあることに気づく。
「ちっ!」
エミリーが見つけたことにではなく、その書の近くに置いてあったものに対してアエイウは舌を打つ。
それは睡眠薬だった。眠らせたミンシアになにかしたのは間違いがなかった。
「くそが」
この部屋の主をアエイウは評価して机を蹴り上げる。無駄に【筋力増強】を使ったため、机は一撃で粉砕された。
「あいつらのところに戻るぞ」
不機嫌にアエイウは部屋を出て通路を引き返していく。
***
「この厳重そうな扉がブラギオの部屋っぽいっぺ」
他の扉と比べて施錠が厳重な扉を見てウイエアが呟く。
「だとしても開くのかよ?」
「言ったっぺ。情報はある程度手に入れさせるのがブラギオの手口なんだって」
「どういうことなんだ? そんなことして何の意味がある?」
「そのほうが情報が拡散するのであるよ。情報は独占しているだけじゃあ意味がないのである。自分だけが情報を知っていても自慢にはなるが役には立たないのであるよ」
「だからこの手の警備には手を抜いてある。悔しいがいつものことっぺ」
そう言ってウイエアは扉を開ける。
「ほらっぺ」
いつも通りに嘆息してウイエアは中へと入っていく。
情報を拡散させるのが目的だとして実力がない冒険者に流布させるのはブラギオもプライドが許さないので、それなりの情報にはそれなりの強さがあるステルスジャガーなどを置いておくのもブラギオの手法だった。
「そしていつも通り、机のどこかにその情報がある。流布させやすいように紙面にして、っぺ」
言ってウイエアは紙面の最初の文字に目を通す。
「DLCによる、世界の平等化について……」
「なんじゃそりゃ……?」
「まあ、慌てるなである」
「今までの戦いから鑑みてエンバイトさんやあのジャガーに使われていたのがDLCなんだろうか?」
「おそらくそうだ。くそったれ、エンバイトに使ったDLCとさっきのジャガーに使ったDLCについてもここに書いてあるっぺ」
それ以外にもほら、見るっぺ、とエンバイトは試作品DLCが書かれた紙を見せる。
アエイウとの戦闘で使ったDLC『唯一例外』
デュセとの戦闘で用いたDLC『有能封殺』
ステルスジャガーに使われたDLC『改造方法』
それに加えてあと2種類。
一時的にランクを向上させるDLC『階級向上』
恒久的にレベルを上昇させるDLC『経験上昇』
しかも最後にこういう一文があった。
これら試作品は、やがてくる新世界で販売される、いわば有料DLCである、と。




