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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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米豹

 40


「とりあえず用心してここは固まって動くっぺ」

「であるな」

「だが、どうする? この本社は高すぎて調べようがないぜ?」

「エンバイトはんはここのスパイだったっぺ。幹部の部屋が最上階だということも調査済だっぺ」

「となると目指すは上か……」

「昇降機があるがどうする? オレとしては罠を疑うが……」

「いや、使うっぺ。わいの予想があってるなら……きっと情報は手に入る」

「どういう意味だよ?」

「そういうやつってことである」

「そういうことっぺ。ゆえにそこまでは安全に手に入れられるってことだ」

「要するに手のひらの上で踊らされてるってことか?」

「ああ、けど無様だろうが最初は踊ってやるしかないっぺ。情報を手に入れてからアドリブでもなんだってすればいい」

「まあ、そこまで言うなら大丈夫なんだろうな」

「ええい、なんだっていい。とっとと行くなら行くぞ」

 アエイウが長話に痺れを切らせ、エミリーに呼ばせていた昇降機へと乗り込む。

 全員がその言葉に急かされるように乗り込むと昇降機は上に向かって登り始めた。

「鬼が出るかジャガー出るか、行ってみるか」

「蛇が、だよ……ジャガーは出ない」

 最上階に止まり、いの一番に出て行くシッタの後ろをフィスレがいつもの調子でついていく。

「でどっちから行くか?」

 左右に道は分かれていた。

「こっちだ」

 ずかずかと左へ歩いていくのはアエイウだ。

「おい、道分かるっぺか?」

「匂いで分かる!」

「まるで犬であるな……」

「どうする? ついていくのか?」

「固まって動くって決めたのはわいやけど、放っておくっぺ」

「いづれ、あっちの通路の部屋も探す必要はあるではあるが、まずは反対から調べていくである」

 そう言ってイロスエーサたちは右の通路へ歩いていく。

 しばらくして

「ガルルル……ガルルル……」

「ジャガー出たな……」

「ああ……」

 その巨体にシッタが恐れおののき、フィスレが戸惑った。

 気配は感じなかった。それもそのはずそれは最近貴族の間で流行し始めた警備用の強化動物だった。

 動物は魔物と違い人間に従順で調教しやすい。その調教済動物に冒険者が行う改造を施したのが強化動物だ。

 ブラギオは情報収集のために買い入れ、放し飼いにしていた。

 その強化動物ステルスジャガーは熟練の忍士ブラギオでさえ、気配を察知するのが難しい。

 もとより侵入者の警備用に造られた動物であるがゆえ侵入率の高い忍士に悟られては本末顛倒だ。

 その本性を存分に活かし、ステルスジャガーはシッタたちの前に現れた。

 ただそのジャガーの欠点は侵入者にすぐに飛びかからないことだろう。

 気配を消して徘徊し、人を見つければ匂いを嗅ぎ、敵だと判別する。

 つまり敵だと判断したときにはすでに敵と向き合っているのだ。

 その欠点に気づいた時点でブラギオは興味を失っていた。

「ようするにこの程度にやられる相手には情報はやらないってことであるな」

「とっととやるっぺ。いつここの奴らが戻ってくるか分からない。迅速に情報を得て逃げるっぺ」

「と話してる隙に来たである」

「これ、一匹でいいんだよな? 大量にいるんだったらやばいぜ?」

「気配を感じないからなんとも言えないっぺが……こんなザコを大量に飼ってるとは思いたくないっぺ」

 強化動物に苦戦するのはせいぜいランク2程度。

 だから大丈夫だとウエイアは思っていた。

 当然、イロスエーサも、熟練の冒険者たるシッタやフィスレもだ。

 そこにはどことなく早く情報を得て、脱出したいという逸る気持ちもあったのだろう。

 だから油断した。

 ステルスジャガーの口からウツボのような魔物が飛び出し、ウエイアの肩を抉る。

 興味を失ったブラギオは試作品のDLCをこのジャガーに使っていたのだ。

「なんだっぺ、そりゃあ!!」

 辛うじて避けたウエイアは幽霊短剣〔滑舌の悪いドッガガリーディレウィーザ〕をウツボに突き刺そうとしたがウツボは口のなかへと逃げていく。

 ステルスジャガーの目はよくよく見れば虚ろだった。

「このジャガーもエンバイトと似たような状態っぺな」

「あれは魔物であるか?」

「だろうな、見たことはねぇが第2ラウンド開始ってわけだ」

 

 ***


 オーラルルック(口腔)バニップ(人食蛇)と後に名づけられるその魔物は試作品のDLC『改造方法(チートコード)』から生まれた人造の魔物だった。

 元となったのはバニップ(人食蛇)と呼ばれる雨天時に活性化する人食いの蛇の魔物だ。

 本来なら子牛程度もあるその蛇は(DLC)を使って舌を改造して生まれた魔物で大きさは口よりも大きくなることはない。

 とはいえステルスジャガーの口の大きさは人間の頭ほどもある。

 ゆえにそのオーラルルックバニップもその程度の大きさを持っていた。

 ジャガーが駆け回り、口からバニップが飛び出す。

 ミミズのような表皮はゴムのような感触。刃ですら弾き飛ばす弾力を持っていた。

 先端には鳥のように長い嘴。伸縮し、体内に収納できるため、リーチを間違えればすぐに貫かれて死ぬだろう。

 その収納式の嘴のわずかに上にある充血した目がギョロギョロと動き回っていた。焦点は定まっているようには見えない。

 それでも的確に飛び出し、ジャガーを切りつけようとした冒険者を的確に狙ってくる。

 その規則に例外はない。オーラルルックバニップは自らを守ろうとしない。

 ジャガーを殺そうとしたものだけを的確に狙っている。おそらく寄生先が死ねば死ぬのだろう。

 大事な苗床を殺されるわけにはいかない、オーラルルックバニップの思考はそんなところだ。

 何度もジャガーを守ろうとしていればシッタたちも気づく。

 だがオーラルルックバニップの皮膚は弾力もあり、柔らかいとはいえすぐに切れるものではない。

「ジャガーをさっさと殺すぜ」

 シッタは再び【舌なめずり】して

「あとのことは頼んだ。短時間で二回も使ったら、さすがにやべぇZE!」

 疲労困憊のまま、ここに来たせいかシッタの動きは先程から若干鈍い。

 それでももう一回、【舌劍絶命】を決めた。

 時は金なり。集配員にとって情報は貴重なもので、それを得る時間は金よりも貴重だ。

 そんなことはシッタも分かっている。

 だから無理をするのだ。

 いやこんな無理でもなんでもねぇか。と渇いた唇を舐めるようにシッタはもう一度【舌なめずり】をする。

 もっと無理をするやつをシッタは知っていた。

 【舌劍絶命】が発動。

 単身、ジャガーへ飛び込む。

 オーラルルックバニップが守るように体をくねらせ、シッタを狙う。

 シッタは強化された身体能力で、オーラルルックバニップの突撃からの啄ばみを回避。

 ついでに短剣〔蠅取りショーイチ〕をそのまま投げつける。

 投げた短剣が無数に分裂。一瞬で消え、ジャガーへの傍に出現。まるで機銃から放たれた弾のように高速で突き刺さっていく。

 【舌劍絶命〈舌の機銃〉】だ。

 とどめに手に戻っていた短剣〔蠅取りショーイチ〕をジャガーの脳天に突き刺した。

 ジャガーが流血し倒れていく。床を真っ赤に染めながら倒れていくのにあわせてオーラルルックバニップの体が痙攣。

 寄生元の生命力が失われたことで、供給を絶たれたのだろう。途端に動きが鈍くなり、体がしぼんでいき、やがて動かなくなってジャガーが作り出した血の海へとひれ伏した。

「あとはお前らふたりの出番だぜ」

 フィスレに支えられながらシッタはそう言った。

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