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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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封殺

 37


 そもそも、ラッテが努力の天才であるのならば、「天才たる」と名乗っても誰も鼻で笑わない程に上り詰めたのならば、レシュリー・ライヴを認めるべきだった。

 レシュリー・ライヴは落第者だ。だから一年間でこんなにも活躍するはずがない。

 そもそも落第者になったのは努力を怠った結果だからだ。努力を積み重ねてきたからこそラッテはそう思ってしまった。

 もしラッテがレシュリーの傍にいれば違う感想を抱いたかもしれない。

 でもそうじゃなかった。ラッテはレシュリーが落第者であるという虚像ばかりを見て、その活躍を噂だけで聞いて、苛立ちを募らせていた。

 レシュリー自身を見ていない。レシュリーの戦いを実感していない。

 だから、6人がかりで3人を倒せなかったことが認められない、信じられない。

 でもラッテは努力の天才だからこそ、こう考えるべきだった。

 レシュリーは落第者になり、その後2年間、途方もない努力をしてきた、と。

 挫折をそうそう味わったレシュリーはそこで折れなかった。2年間、孤独に努力をし続けてきた。

 投球士として2年間、投げ続け、戦い続けてきたこそ、レシュリーはランク2の時点で【蘇生球】を扱えていた。

 それが努力をし続けてきた証左だ。諦めなかった証拠だ。

 そんなことすら分かっていなかったラッテは愚かにも薬に頼った。

 その(DLC)改造(チート)とは違う。己の肉体を失う可能性を代償にして自らを改造するのとは違い、薬は飲み込めばすぐに効果を発揮する。

 もちろん、その薬が完成していれば。

 ブラギオが渡した薬は当然のように完成していた。けれど冒険者の身体が整っていなければ、作用は正常に起こらない。

 ブラギオが定義する、整った身体というのはランク7のことを指している。

 であればランク6のラッテが耐えられるわけがない。それこそ副作用と呼んで差支えがないほどにデメリットが生じる。

 結果、ラッテは副作用で死んだ。もしかしたら、副作用なしに耐え切れる可能性も鑑みていたがやはりそれは予想通り1%もなかった。

 偵察用円形飛翔機が映像を送る先、ブラギオはそう判断した。

 とはいえ、もうひとつの戦いはラッテのときよりも長引いている。彼は、エンバイト・ロゴスティアンはラッテよりランクもレベルの低いはずなのに。

 才覚、が影響? ブラギオはその可能性に至ったが、エンバイトが才覚なしだと知っているので、それはありえないと考え直す。

 素直に個体差でしょう。ブラギオは改めて断定する。

 クラミド、グエンリンがそうで、シシハッザールやミジリカといった多くの冒険者がそうでなかったように。

 エンバイトも奇跡的に薬と相性が良かった。それだけの話だった。それでも副作用は出る、そう長くはないうちに。

 映像を流しっぱなしにしつつもブラギオは眼前を見据える。

 封印の肉林に挑戦するランク6冒険者は少ないと睨んでいた。けれど当然変わり者はいる。

 とは言うもののランク6の多くがここで死にかけたというのに、懲りずに、この短期間で挑戦するものがいるとは思いもよらなかった。

 とはいえそれもブラギオの計算のうちだ。

 ランク7になるのはブラギオ一派だけとブラギオはすでに決めている。

 つまり、することはひとつ。この時期に愚かにも封印の肉林に挑んだランク6冒険者を全員皆殺しにする、それだけだ。

 数は少ない。

 見積もっても4人程度。そしてそのうち3人はすでに息絶えていた。

 残りのひとり――デュセ・ル・アンデロは追い詰められていた。が〈逆境〉持ちの彼はそこからが強い。

 ブラギオが想定するよりもはるかに長く粘っていた。

 デュセは護衛していたコロレラたちと別れたあと、手に入れた金で防具を強化し今後のことを考えていた。

 その際、デュセに声がかかった。

 グオンデ・ヴァルシュタイン、ミジッテ・コーライン、シュシュルト・ベール・ゴーザ。

 声をかけた冒険者はそう名乗った。

 グオンデは傷だらけの男で、デュセと同じ生き残り組。

 ミジッテは褐色肌の姉御肌の冒険者。シュシュルトは眼帯をつけた屈強な男。ふたりは一目を避けて修業していたランク6で封印の肉林に挑んだことはないが、知る人ぞ知る名コンビだった。

 その三人はデュセの空中庭園での噂を聞きつけ、勧誘に来たのだ。

 デュセも迷うことなく了承した。空中庭園の戦いがデュセに自信をつけていた。

 四人が封印の肉林に入ってしばらくするとブラギオたちが入ってくる。

 迷うことなくグオンデは近寄り、共闘を持ちかけようとした。すると一瞬にして切り伏せられた。

 それだけで臨戦態勢となり、交戦。だが瞬く間にミジッテとシュシュルトは殺される。

 そうして今に至る。

 気づけばデュセだけになっていた。

「やべぇやべぇ。デュセはひとりになったんでっせ」

 喋らなければイケメンと専ら噂されているデュセが壁際に追い詰められて、ぼやく。

 焦りはない。自分には〈逆境〉がある。追い詰めれてからが強い。それこそ過信だと知らず、デュセは過剰に落ち着いていた。

「マジやばーい」

「ギャハハ、ウルその通りだ。こいつ〈才覚〉持ってるっぽいな」

「キモッ、キモキモ、これだから〈才覚〉持ちはキモ厄介」

 ウルが指摘し、ティレーが同意し、トゥーリがげんなりとする。

 三人で一気にと決めたのに予想以上に時間がかかる。

 もっとも獣化士のティレーは獣化していないし、魔道士のトゥーリは魔法を使ってないし、狂戦士のウルは強化してない。

 本気を出してない三人と全力でさらに〈逆境〉が発動しているデュセの差は歴然だったが、三人にはまだここのボスであるハエトリグサの戦いが待っている。

「ブラギオ、あれをここで使っていいか?」

「キモいやつほどさっさと倒すべき」

「……まあいいでしょう。確かにそれを試すいい機会です」

 長方形の映像出力装置を見続けるブラギオは一瞥もせずにそう言った。

「なら使ってみるか。さっさと先生たちの戦いも手伝わないといけない」

「キモードンの手伝いなんてしたくないけど」

「マジやばーい」

「ギャハハ、そう言うなよ、ウル。トゥーリもだ。さすがにアレはふたりじゃ骨を折る」

「骨、折るわけないじゃん、あのキモードンが」

「……比喩ってることに気づけよ、トゥーリ。だからお前はウルほど面白くない」

「マジやばーい」

「ギャハハ、その通りだぜ、ウル」

「ふたりともキモ死すればいいのに」

 ノードン以上にウルとティレーのやりとりは意味が不明で理解ができない。トゥーリは心の底からそう思った。

「それよりもこのキモいやつにアレ使ってよ」

 促されるまま、ティレーはデュセに球を投げる。投球士ではないので投げ方は不恰好。

 それでも援護球のようにデュセへと命中。ドロッとした紫の液体がデュセに降りかかる。

「これはなんでっせ……?」

「さて、さっさと殺すぞ」

「マジやばーい」

 驚いていたデュセだったがしばらくして理解する。

 〈逆境〉が作用していないことに。焦りが募る。ウルではないがマジやばい、と心底思った。

 しかし壁際。自業自得。壁際のほうが追い詰められ、〈逆境〉がさらに機能すると踏んだからこそ壁際にいた。

 だから逃げられない。逃げられない状況こそ〈逆境〉の真価が問われるはずだが〈逆境〉が作用していない。

 どうしてなのかも分からない。

 ウルの凸戟〔隣接ヴァンメッシィ〕が腹を貫き、トゥーリの不壊石の魔呪樹長杖剣〔障子に耳ありジョージにメアリー〕が胸を切り裂き、ティレーの砕棒〔不在証明アイピエス〕が頭を砕いた。

 もしかしてこの液体のせいなのか?

 そんなことを考える暇さえないまま、デュセは崩れ落ちた。

「ギャハハ、あっという間! さすがDLCだ」

 ティレーが笑う。

 デュセにぶちまけられた液体はDLC『唯一例外』と同じ試作品。

 それは才覚を一時的に封じ込めデュセのように才覚に頼りきりの冒険者を無力化するものだった。

 名をDLC『有能封殺アイディールジェラシー』といった。

「さて、もうひとつの戦いも終わりそうですね」

 画面の先を見て、ブラギオは一言そう呟く。

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