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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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取置


 35


「「「夜空に煌く星々の耀きを以って光よ、貫き通せ! 【星明煌矢ルス・デ・ラス・エストレリャス】」」」

 パロンの黒真珠の聖樹杖〔黒白のクワドルプル〕

 ポロンの白真珠の魔樹杖〔灰色のクォーター〕

 ポポンの白夜石の不死樹杖〔黒塗り八重歯のシロヤミ〕

 三つの杖から同時に空へと光が伸びていく。三つから延びた一条の光は空で強大なひとつの板のようになり、空を覆うように延びていく。

 この間、一秒もなかった。この後、一秒もない。

 その光の板から矢の形状を模した光が、超光速で真下に、大量に落ちていく。

 流れ星というほどロマンチックでもない。

 その魔法は空中に展開された光板の範囲にいる敵を瞬時に射殺すランク5の攻撃魔法だった。

「とっておきを使うしかねえか」 

 その数秒前、魔法詠唱がもしかしたら止められないかもしれない。

 最悪の予想を想像していたアロンドは密かに前へと走り出していた。

 エル三兄弟を守ることこそアロンドの天命だ。

 それでもそれに固執して、他に戦っている仲間を守れないのであればそれは何ら意味のないことだ。

「レシュリー!」

 レシュリーが何かをしようとしているのは分かったがそれでも声をかけずにはいられない。

 なにせ、距離がある。その距離を詰めるにはレシュリーの力が必要だった。

 レシュリーも絶好の機会を失うわけにはいかないが、アロンドが何かを必要としているのは分かった。

 機会をわずかに潰してでもレシュリーはアロンドを見た。

 アロンドは視線を送る。

 【星明煌矢】を放とうとしている三人へと。

 レシュリーもそれだけで理解した。コジロウがなんとかしようとしているが、アロンドは最悪のケースを考えているのだと。

 相手も必死だ油断はできない。

 次にレシュリーが取った行動は、一言だった。

「ユテロ、転移球!」

 それだけを叫んで、レシュリーは少しだけ消費した絶好の機会を活かそうとラッテへと向かっていく。

 すまねえな、とアロンドは機会を少しだけ奪ったことを謝って、ユテロの放った【転移球】でアルルカの傍へと現れた。

 アロンドがルルルカの傍に現れたときにはポポンたちは魔法を唱え、光の板が空へと展開されようとしていた。

「やっぱりとっておきを使うしかねえか……おい、コジロウだったか、お譲ちゃんを連れて戻ってこい!」

 足を貫かれ怯んだコジロウだったが、アロンドに言われた通り、ルルルカを【転移球】でアロンドの傍に送ったあと、俊足を活かしてアロンドの傍へとやってくる。

 レシュリーたちとは距離が離れている。しっかりと効果範囲内ではあるが、範囲のぎりぎり。それはラッテがいることも影響しているのだろう。

 まずはレシュリー以外の戦力を削ぐのが目的。だからルルルカたちは範囲の中心にいる。これでは発動してから範囲外に逃げ出そうするのは難しさがあった。

 光の矢が空から降り注ぐ。

 アロンドは常日頃使っている巨大盾〔でっかいドウ〕と巨大盾〔ちいさいナア〕を【収納】する。

 戦闘中にそれを【収納】するのはエル三兄弟にとっても珍しいことだった。

 ふたつの盾を【収納】すると同時に取り出したのはどす黒い盾だった。

 その色はディオレスの魔剣〔相即不離のシュリ〕や、ソレイルの屠龍魔剣〔自己犠牲のギネヴィア〕に似ていた。

 それもそのはず、

 その盾の名は魔盾〔弟想いのアイリスフィール〕といった。

 魔盾を上へと掲げる。その盾は全員を覆い隠せていない。

 けれど不思議なことに誰しもがこれで大丈夫なのか、と不安には思わなかった。

 上に掲げた瞬間、むしろ、大丈夫だという安堵感に包まれていた。

 矢が盾にぶつかる手前で消失する。

 盾の範囲にいない、モッコスやモココルへと矢が降り注ぐが、それでも矢は消失した。

 盾を中心とした半球状にバリアが展開していた。このバリアはあらゆる魔法を消失させる。

 その様をテッラもそしてポパム兄弟姉妹も驚き声を失っていた。

 そんなことがありえるはずがなかった。

 魔法を消失させる盾なんて存在を聞いたことがなかった。

 テッラたちにとっては決め手だった四重の(とはいえ、四重ではなく三重にされてしまったが)魔法が完璧に封じ込まれているのだ。

 それにそれだけじゃあないのだ、ラッテが【星明煌矢】よりもはるか上空にいた。そしてそれよりもはるか上空にレシュリーたちがいた。

 【星明煌矢】を完全回避するために、レシュリーはあえて【星明煌矢】よりも上空に転移したのだ。

 その発想にすら声を失っていた。

 それが致命的ミス。絶対的決め手をふさがれてもテッラは動くべきだった。パポム兄弟姉妹は魔法を詠唱すべきだった。

 【星明煌矢】が封殺され、アロンドたちは無傷。その周囲の地面はボコボコなのに対し、アロンドたちがいる地面が傷一つないのもそれを裏付けていた。

 そこで動けばまだなんとかなっていたのかもしれない。

 動揺がテッラたちを包み込む。体は熱く痛いままだった。

 そうして放たれる、レシュリーたちの逆転の一手。いや逆転と言っていいのだろうか、終始レシュリーたちは彼らを圧倒していた。

 ならば、その一手はこういうべきかもしれない。

 勝敗を決定付ける一手。

 エル三兄弟の三重魔法が彼らに放たれる。

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