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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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執念

 34


 アルルカとテッラが衝突する。

 魔充剣タンタタンと魔充剣クワトロが火花を散らす。

 それは奇しくも無自覚に〈天才〉という才覚を持つ冒険者と、天才たる無才覚な冒険者の戦いだった。

「るるるるるうううううあああああああ!」

 気合が入りすぎていると言われればそうかもしれないが、その奇怪にも聞こえる雄叫びはテッラの異常さをアルルカに伝えるには十分だった。

「姉さん、援護はいりません!」

 それは余裕だからではなかった。ルルルカの心配げな視線を受けて、アルルカは心配させまいとそう言ったのだ。

 相手は格上だと刃を交えたときに分かった。ランクやレベルなんて関係ない。

 それはレシュリーが証明している。だからどちらかが勝っていてもアルルカは油断なんてしない。

 ルルルカだって余裕ではない、それでも性分で妹を心配するのだ。

 だからこそ姉想いのアルルカはそう言うのだ。

 自分の実力を過信しているわけではない。

 ここには頼りになる仲間がたくさんいる。

 モココルが連射銃〔全弾不発のアタリ〕でテッラとアルルカを引き剥がすように銃弾を散布。

 距離を取ったテッラに向かうのはモッコス。筋肉隆々の腕が豪快に地面を穿ち、ひび割る。

 跳躍して回避したテッラに休む暇はない。コジロウが飛び蹴り、モココルの拳銃〔一発必中のハズレ〕が狙いを定める。

 テッラは捨て身を選択。コジロウが虎視眈々とテッラを突破しようとしているのが気配で分かる。

 それすらコジロウを意識させるための罠。意識し続ければ他の冒険者を見逃すことになる。

 ただでさえ、アルルカの匕首によって、パパンがその対策に追われ4人ではなく3人の詠唱になっているうえに、集中が乱れ、詠唱が遅れている。これ以上のロスは許されない。

 戦えという脳裏に響く脅迫のような強制力が、守らなければならないという意志さえも捨てさせようとしてくる。

 それでも守らなければならない。

 4人程度ならまだ守れる。その自信はあった。

 守りを捨てて、コジロウの蹴りを胸に受ける。弾道を逸らし、モココルの射程から外れる。

 それでもモココルの射程からは逃げない。逃げれば、狙われるのはパパンたちだ。

 射程内で、狙いを逸らし続ける。

「ムィィイイイイイイイイイイイ!」

 そんななか、金切り声にも似た声とともに巨大な蝙蝠型の魔物がテッラに襲いかかる。

 慌てて防御。わずかに動揺。レシュリーと戦うためにここらへんの魔物は狩りつくしていた。

 生き残りが復讐にきたのかと思った。でもそれは違う。

「WTのKGはDDK?」

 蝙蝠は女冒険者の背中をわし掴みにしていた。

 わたくしたちの攻撃はどうですか? なんて訊ねてきたことすら理解できなかった。もちろん、周囲だって理解してない。

「ひひっ!」

 さらに地面すれすれから飛び出す影。気配を消すというより、気配を重ねて、また女冒険者が飛び出してくる。

 持っていたのは魔充剣。魔法剣士系だと判断。テッラは知るよしもないが、飛び出してきた冒険者ミセスはテッラたちと同じく魔聖剣士だった。

 魔充剣ユラックマには【弱火】が宿っていた。

 【耐熱壁】で防ぐかどうか判断に迷う。けれど迷っている暇はない。

 炎宿りしミセスの攻撃を【耐熱壁】を宿したクワトロで防御。すぐさま払いのけ、次いで突進してくるアテシアを迎え撃つ。

 その手前でムィとアテシアが分離。ムィがそのまま突進してくるとともにアテシアが弓を構えていた。

 本格的な弓はまだ購入してはいない。副職屋で副職をつけたときにもらった弓、練習弓(プラクティスボウ)

 名もなき弓は練習用とあって丈夫ではあるが、速度や威力を出すには心許ない。

 それでもアテシアが弓士だと想像もしていなかったテッラには不意打ちとして申し分なかった。

 まだ構えは不恰好。練習不足。それでも放てばそれなりの威力が出るのは弓士の恩恵もあるが、天賦の才覚のお陰もあるのかもしれない。

 素人にしては、というよりも未熟にしてはそれなりの速度でテッラへと矢が放たれた。

 矢の位置をムィが覆い隠す。そのまま突撃してきたムィを紙一重で回避、その後見えてきた矢を【硬化】させたクワトロで弾く。

 猛攻は止まらない。ミセスが続けざまに【光線】の突き。直線的な攻撃で避けやすいが、近距離だと出が速く、気づかないと避けにくい。

 テッラはもちろん気づいていた。だが避けない。後ろにはパパンの姿。【宵闇】を宿してクワトロに当てる。吸収されるように相殺。

 休む暇もなく、ルルルカが接近。【弱火】と【吹水(アクアジェット)】の組み合わせ。

 ある意味で熱湯の魔充剣を振るう。

 迎え撃とうと一歩前に出たところで、上下から刃が迫る。モココルだった。

 大鋏〔切り裂くジャック兄弟〕でテッラを縦断しようとしていた。

 すんでで止まると上から肉塊……ではなく、丸まって跳んでいたモッコスがいた。振り下ろされた拳を【硬化】した魔充剣で防御。

 した途端、コジロウが後ろへと駆ける。

 テッラは舌打ち。あと数秒時間を稼がなければいけない。

 体はますます熱く痛くなっている。

 【光線】を宿したクワトロで突きを連発。数打ちゃ当たるの精神で、後ろへと駆けたコジロウを狙う。

 防御は無視だ。テッラの左腕を大鋏〔切り裂くジャック兄弟〕が切断し、アテシアの弓が太ももを射抜き、ミセスの突きがわき腹を穿つ。

 【吹水】の魔充剣が押し出し、【弱火】の魔充剣が肌を焼いていくがテッラは怯まない。

 怯まず、コジロウを付け狙う。その執念がコジロウを捉え、右足を貫く。わずかにコジロウが怯む。

 それだけで、それだけで十分だった。魔法が詠唱される。


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