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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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天才


 32


「これで、終わり……かな?」

「本当に何をし来たのか理解不能だわ」

「むしろ拙者はこのタイミングで来たのがなぜか知りたいでござる」

 レシュリーたちの安堵めいた、そして期待じみた声を尻目に

 ラッテは立ち上がる。それにつられるようにテッラたちも立ち上がる。

 負けるわけにはいかなかった。

 ラッテもテッラも、自分たちを天才たると表現するが、

 ラッテも、そしてテッラも天才などではなかった。

 そもそも才覚は重複しない。

 〈双腕〉はレシュリーだけのものだし、〈中性〉はコジロウだけのものだ。

 なら〈天才〉は?

 その持ち主はとっくにいた。

 彼女にとって無自覚だが、熟練度の高い【分析】を使えば見ることもできるだろう。

 アルルカ・アウレカ。とっくにどこか(冒険者情報:その他)でネタばれはしているものの、彼女はまだ、自分の才覚に気づいていない。

 そしてそれがラッテやテッラが欲していることも知るはずもない。

 ふたりが欲しいものは、天賦でも奇才でも鬼才でも、才賢でも、英才でも秀才でも非凡でも神童でもない。

 〈天才〉に類似した才覚なんていらない。

 天才。

 ただそれが欲しい。

 でも才覚は手に入るものではない、手に入れているものだ。

 ふたりには才覚はない。ただの、平凡な、どこにでもいる冒険者だ。

 それでもラッテは十本指の[一本指]に上り詰めたし、テッラもその姉を見習って、どこにでもいる冒険者では倒せないような難敵を倒してきた。

 間違いなく、ふたりは努力の天才だ。

 それでも〈天才〉ではない。

 能力値はどうしても伸び悩み(才覚のない冒険者全員の悩みではあるが)どこかで行き詰まるんじゃないかという不安を抱えている。

 だから、ふたりは天才たると表現する。行き詰づまることはないと不安を解消するかのように。

「あああああああああああっ!!」

 満身創痍のなか、ラッテは叫ぶ。

 才覚はない。でも途方のない努力はしてきた。

 弟だってそうだ。どんな強い敵も倒してきた。確かに世界を揺るがすような事件には関わってきてはない。

 直接害をなしたわけでもない、でもそこらの冒険者よりもアジ・ダハーカよりも、何よりも攻略の難しい敵を、ほの暗い洞窟の奥地や火山の奥底、海のど真ん中。いるだけで脅威の、人々が自らその場所に立ち寄るのを拒む禁足地の魔物を倒してきた。

 なのに、努力は認められない。

 十本指に選ばれたのはレシュリー・ライヴであり、それに関わった冒険者たちだった。

 納得が行くはずがない。

 許せるはずがない。

 真に努力し、真に活躍しているのは弟であり、そしてそれを支えたのは自分なのだ。

 自分たちの努力が認められない。

 それは間違っている。

 でも、だとしたらその矛先は十本指を作り出したブラギオに向くべきだ。彼がレシュリーを勝手に選んだのだから。

 確かにその矛先は一度ブラギオに向いた。

 けれど簡単に言いくるめられた。口八丁ではラッテはブラギオには勝てない。

 口車に乗せられ、そうしてここまで来た。来てしまった。

 ここに来たのは自分の意志というよりも、ブラギオの策謀だった。

 それでもチャンスなのも事実。

 ラッテは【収納】していた薬を取り出す。カプセル状の薬。

 ブラギオの力を頼りたくもなかったが、それでも勝てるのなら。

 ラッテの想いが高まる。ここで負ければ、努力が無駄になる。天才たる自分と弟がしてきたことを否定したくなかった。

 一気に飲み込む。

「ああああああああああああああああああああああっ!」

 先程の、気合に似た叫びとは違う。熱さと痛みによる叫び。

 体が溶けるように熱く、全身が針に刺されたかのように痛む。

 戦えと本能が訴える、休む暇など与えてくれそうもない、まるで針の筵。

 その訴えを受け入れるかのようにラッテは走り――

 アリーの左腕を切断した。

「なっ!?」

 一瞬で起こった出来事にレシュリーが驚く。

 アリーもまったく反応できていなかった。

「いける! 天才たる私はお前たちを殺せる!」

 その声に続くようにテッラも、パパンもポポンもパロンもポロンもラッテから受け取っていた薬を取り出して、飲み込む。

 5人にもラッテと同じような症状が起きはじめる。

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