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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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属性


 31


 ぶぅん! ラッテの魔充剣リヴァイヴからまがまがしい毒の酸が飛んできた。

 アリーのように【猛毒酸】を解放したわけではない。

 解放することもなく、その強い毒酸は猛威を振るっている。

 援護魔法階級6【激毒酸(ゾイレギフト)】だ。

 魔聖剣士たるラッテは階級6まで援護魔法を宿すことが可能だった。

 癒術士がメイン、魔法剣士がサブの聖法剣士は癒術を魔法剣として扱えるが、魔法剣士がメイン、癒術士がサブの魔聖剣士はそれができない。

 その特徴はやはり、どの魔法剣士よりも援護魔法を宿せる数が違うという点だろう。

 魔法剣に宿した【激毒酸】は振り回すたびに毒を飛散させ、さらに毒酸によって切れ味すら増す。

 挙句斬られれば衣服を溶かし、皮膚を溶かし、体内に毒を送り込む。

 今の僕たちでは防御不可、回避しかしようがない。

 僕が左に避け、アリーが右から回りこみ、そのまま接近。

 回避一択しかなかった僕たちと違い、ラッテは多様に動ける。

 テッラが素早いコジロウを釘付けにするように【硬化】を宿したクワトロを振り回す。

 強度重視のその魔法剣は、壊れやすい魔充剣の強度を通常の剣よりも強固に作り変えていた。

 そうする意味は明白。パパン、ポポン、パロン、ポロン4人の詠唱を成功させるためである。

 僕とアリーはラッテにかかりきりでコジロウもテッラの守り一辺倒に倒しきれずにいる。

 接近したアリーにラッテは【麻痺(インパルスショック)】の魔法剣で対応。

 切り替えが凄まじく早く速い。切り換えの隙(ラグ)が全くない。

「ちぃ!」

 アリーが慌てて【雷鳴(サンダー)】を宿していたレヴェンティで防御。

 雷に打たれたときとは違う、痺れが剣を伝い、アリーへと伝染。わずかに弛緩。

「喚け、レヴェンティ!」

 途端にアリーが対峙しているラッテではなくテッラに牽制用の【雷鳴】を放つ。

 詠唱されているということは否応がなしでも魔法が放たれてしまうという焦りと不安がつきまとう。

 それを解消しようとするアリーの動きは当然のものだ。

 だから読まれていた。当然は通用しない、と言わんばかりに。

 ラッテの魔充剣リヴァイヴへと【雷鳴】が引き寄せられていく。

 援護魔法階級6【避雷針(コンダクターロッド)】によってリヴァイヴが雷属性の攻撃が引き寄せる。

 でも引き寄せられただけだ。魔法剣と魔法の【避雷針】の違いはその後にある。魔法の【避雷針】は魔法でできた針が地面に突き刺さり、引き寄せた雷属性攻撃を地面に逃がし無効化するが、魔法剣は魔充剣自体に引き寄せるため、あらかじめ、逃がす場所を作る必要がある。

 けれどラッテはそうしない。当たり前だけど武器を手放すなんて愚かなことはしなかった。

 それどころか、【雷鳴】が剣に到達するよりも早く、援護魔法階級5【減雷壁サンダーダウンウォール】を魔充剣に展開。

 引き寄せられた【雷鳴】が【減雷壁】によって減衰していく。

 アリーは多属性の魔法剣を使うが、なかでも攻撃速度が早い雷属性を好むことを見切られていたのかもしれない。

 きっちりとラッテは対策を打ってきていた。

 ほぼ無傷のラッテはうすら笑い、後退。

 間際、僕の【剛速球】が唸り声を上げるように空を切り裂き、コジロウばかりを注視していたテッラすら追い抜き、後方のパパンへと命中。

 ほぼ同時に詠唱が終了。エル三兄弟のように声を揃え、

「「「雪深(ゆきぶか)に棲む魔が如く、(あるい)は野鎌の様に(つむじ)、風よ斬れ! 【風鎌鼬ティフォーネファルチェ】!!!」」」

 攻撃魔法階級5【風鎌鼬】が僕たちへと襲来する。

 雪山に住むカマイタチのように素早く対象を切り刻む魔法のなかをアリーが疾走。

 アリーの防具を【風鎌鼬】が切り裂いていく。数が多く全てを避けきれない。

 氷系や土系などの魔法は固形化しているため視認しやすく避けやすいといえるが、風系の魔法はそもそも目に見えない。

 それでも空気の流れを僕たちは感じることができる。それだけを頼りに僕たちは避けていく。

 僕はその場で、コジロウは回り込むように、そしてアリーは前進して。

「溶かす毒に、切り裂く風。こいつら、敵を露出させるのが好きな変態なの?」

 風に切り裂かれていく防具の有り様に舌を打ち、アリーは進む。

 下手をすれば体ごと持っていかれるというにアリーに躊躇いはない。

 <極風仕(きわまるかぜつかえ)>

 アリーは全身の防具にその強化を施していた。

 防具は<改変(あらためてかわる)>まで強化すると属性強化が可能になる。1属性限定だが、防具そのものに属性耐性をつけることが可能だった。

 アリーは風を選択していた。

 偶然のようにも思えるけれど、アリーなりの理屈がある。

 アリーにとって風系魔法は防ぎにくい魔法だからだ。

 炎と氷、水、光と闇、など相殺しあう魔法がある一方で

 風や雷など不可視、高速な魔法は避けるのも難しいのが事実。

 だからアリーは防具に風耐性を付与し、強度のほか風魔法による被害の耐久性能を向上させているのだ。

 ゆえに、三重の【風鎌鼬】のなかをひとり突破できる。

 防具はボロボロだが、それはアリーを守った証拠。

 アリーは後退するラッテに肉薄する。

「この魔法のなかを抜け出してきたですって!」

 ラッテが驚きながらも対応する。

 ラッテが想定していた四重ではなく、三重になったところが鍵だろう。僕が数を減らしていなければアリーの突破はなかった。自画自賛してみる。

 けれど事実だった。エル三兄弟やポパム四兄弟姉妹のように、0.1秒すらのずれさえ許さない同時多重魔法は、数を増せば増すほど、倍では説明できないほどの威力を生む。

「一気に決めるわよ!」

 アリーの呼応にコジロウと僕が頷く。

 魔法の被害を小手のみに集中させたコジロウに目立った外傷はない。

「パパン、やれるわよね?」

 ラッテがアリーの刃を受け、振り返らずに問う。

 立ち上がり頷くパパンの様子をラッテはいちいち確認しない。

 長年戦えば気配だけで分かる、とでもいうだろうのか。

 アリーの位置なら僕もなんとなくで分かるのでつまりはそのぐらい息はぴったり。

 四人が再び詠唱。もう風系魔法は使ってはこないだろう。

 視認できる前提で、できたところで避けれない、巨大なもしくは超高速の魔法を展開してくると予想。

 それまでに倒しきりたい。

 今回はなんとか避けることができたが、アリーは偶然にも耐性が一致。コジロウは速度と防御の一点集中化で被害を最小限にしただけだ。

 僕にいたっては距離が離れていたのが幸いしただけ。思い出の適温維持魔法付与外套がまたボロボロになっていた。

 しかも防具が傷ついただけならまだしも、それだけでは防ぎきれず、身体のところどころを風の刃が切り裂いていた。

 痛みを抑え、アリーの援護に回る。

 打ち合わせなんてしてない。

 ただアリーが一気に決める、と言った以上、アリーは最大技量でラッテへと向かっていく。

 僕はそれを最大限にフォローするだけ。

 コジロウが空中へと飛び出すと迎撃すべくテッラも跳躍。

 ふたりがぶつかる瞬間、【韋駄転】してコジロウが四散。【分身】によって増えたコジロウがポパム四兄弟姉妹へと向かっていく。

「天才たる俺がそれを見抜いていないとでも?」

 ラッテが高速落下。【加重(ウェイト)】を宿し、重量を増やしてコジロウよりも早く着地。

 四人のコジロウのうちのひとりに向けて一突き。距離は離れていくが、高速の光の筋が分身のコジロウを貫く。

 【光線】を宿して、遠距離のコジロウを迎撃したのだ。

 そして半回転してもう一振り……したところで地面が爆発する。

 全く無警戒のところからの爆発でラッテの右足の足首から下が消失。バランスを崩し、【光線】の一突きはあらぬ方向を貫く。

 ラッテが着地した場所めがけて【転削球】で地下を掘り進み、そこに【三秒爆球】を設置したのだ。

「姉上!」

 ラッテの思わぬ負傷にテッラの視線が逸れる。その頃にはパロン、ポロン、ポポンの三人へとコジロウが到着していた。

「随分と余裕ね」

 アリーの声で視線を戻した頃には刃が首元の位置にあった。

「天才たる私にそんなもの、効くかぁ!」

 根性、としか言いようがない。ラッテは肩と頭で狩猟用刀剣〔死を選ぶ最強ディオレス〕を白羽取る。

「けど、私はね、」

「二刀流だって言いたいんでしょう?」

 そんなことは分かってる、と言いたげにラッテは狩猟用刀剣を抑えたままアリーの言葉を奪う。

「いいえ、違うわよ!」

 アリーが笑う。「私はね、三刀流よ」

 言った瞬間、ラッテのわき腹へと応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕が突き刺さっていた。

「燃えつきろ、レヴェンティ!!!!!!!」

 吐血したラッテへと解放された【超火炎弾】が至近距離で命中する。

「ちぃいいいいいいい!」

 瞬時に【減熱壁フレイムダウンウォール】を展開されたリヴァイヴで防ぐが、完全には防ぎきれない。

 火傷を負ってラッテは倒れた。

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