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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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潜入

 29


「なんでキミたちが……」

 襲われるいわれのない僕は動揺しながらも、問う。

 ラッテの後ろには5人の冒険者。

 二本指のポポン・ポパムに三本指のパパン・ポパム。

 そしてそれぞれの兄弟姉妹テッラ・ラッテラ、パロン・ポパム、ポロン・ポパムが控えていた。

「それよりもその前に、そこの子ども!」

 ゴゴゴゴゴと迫るような気迫のラッテはコエンマへと怒鳴る。

「レシュリー・ライヴが来たならなんで天才たる私に伝えに来ないのよ!」

「いや……修業の邪魔になると迷惑だと思ったでやんす……」

「迷惑になるから、伝えに来なかった、ですって?」

 一拍の間のあと、

「なら、いいわ。天才たる私も許す勢いよ」

 ラッテは拍子抜けするようにそう答えた。

「それよりも早く勝負しなさい、レシュリー・ライヴ!」

「いや、戦う意味なんてないんだけど……」

「天才たる私にいきなり負けを認めるっていうのね」

「そうじゃなくて……」

 勘違いしやすいというか単純で思い込みが激しいのか、ラッテは僕の話を聞いてくれない。

「というか今どんな状況か分かってるの?」

 レヴェンティを構えながらもアリーは問いかける。

「ヤマタノオロチの復活が近いんでしょう。でも心配なんてしないで。天才たる私と弟たちがいれば、十分に勝機はある。あなたが私との勝負に敗れても。つまり死んでも!」

「どうするのよ、レシュ」

「う~ん、あんまり戦いたくないんだけど……もうやるしかないみたいだ」

 僕もいよいよ覚悟を決める。


 ***


「バカ者が。どうして追ってきた!」

 合流したエミリーにアエイウが怒鳴る。

「まあまあ。エミリーさんもキミが心配だったんだよ」

 フィスレはアエイウを宥めながら、エミリーさん"も"と協調していた。

 それは単に、アエイウにキミも心配だからこそ置いてきたのだろうと暗に伝えていた。

「ぬぅ……」

 殴りかけていた拳を止め、押し黙るアエイウ。

「で、ウイエアはどうしてここにいるんだ? しかもヒゲ女と一緒に」

「シッタどのは相変らず名前を覚えてないのである」

「女の名前なんて必要最低限でいいんだよ、興味ない」

「それは男趣味のように聞こえるである」

「強いやつにだけ興味があるんだよ」

 言い訳するようにシッタは舌をなめずった。

「シッタ。彼女(?)はその女性なのか?」

「そうである。遅ればせながら某、イロスエーサ。女子であるぞ。フィスレどの」

 戸惑いながらもフィスレは差し伸ばされた手を握り、握手を交わす。

「フィスレだ。と、もはや名乗る意味もないか」

「いやいや。情報として知っているだけであるから、面と向かって挨拶されるのは嬉しいものである」

「でわいがウイエアちゅーもんっぺ。よろしゅう、フィスレ」

「ああ」

 こちらも握手して一通り自己紹介が終わる。

「で、さっさと説明しろ。場合によっちゃあ、手伝ってやんぜ」

 舌なめずりしてシッタは宣言する。


 ***


「では行きましょうか」

 ブラギオは封印の肉林を見据えて宣言した。

「今度こそクリアするやし」

「私の慈悲があれば不可能はありませんよ」

「キモッキモ。キモートンがそんなに役に立つわけないし」

「心外です」

「やばーい、マジやばーい!」

「ギャハハ、同意してるぞ」

「やれやれ……でしたら、私の実力は存分に中で出してあげますよ」

「言ってろやし。それよか、本社はガラ空きにして大丈夫やし?」

「私たちが全員、封印の肉林に挑めるように幹部候補を作ったのですよ」

「……」

「今、戻ったり誰かが侵入すればミンシアを助けれるとでも思っているのですか、クラミド」

 エリマの表情が翳る。図星だった。アエイウなら必ず居場所をつきとめるとエリマは思っていた。

「無駄ですよ。ミンシアも今、ここにいますから」

 そう言ってノードンに視線を送るとノードンは【収納】で棺を取り出して蓋を開ける。

 そこには意識を失ったミンシアが収納されている。

「【収納】は道具なら何でも収納できるのは知っていますよね? こうやって道具のなかに人間を入れれば道具と見做せたりもするのです」

 一種の応用ですよ、とブラギオは言った。再びミンシアの入った棺は道具扱いとして【収納】されていく。

「非道……」

 小さくエリマはそう呟いた。従うしかない自分が悔しかった。

「それでは行きましょうか。邪魔は入りません。存分に戦い、制覇するとしましょう」

 ブラギオがそう宣言するなか、

 そういえばあの幹部候補の名前はなんだったやし? とステゴはふとそんなことが気になった。

 束の間、封印の肉林に入るとステゴは昂揚感でそんな些事は忘れてしまった。


 ***


「なるほどな。なるほど、なるほど、なるほどな」

 必要以上にシッタは呟いて舌をなめずった。

「つまりアエイウのほうは仲間が浚われて、ウイエアとヒゲ女のほうは、ウィッカのスパイと連絡が取れない、と。んで、アエイウは嗅覚、ウイエアは直感で本社にやってきた。ようやく要約できたが、こんな感じか」

「二組が別々の人を探していたとはいえ、ここに辿り着いた、ということは二人ともやはりウィッカに関係しているということだね」

 フィスレの確認にアエイウとウイエアが素直に頷く。アエイウがおとなしく頷いたのは、フィスレがシッタに似つかわしくないほど美人で、どうにかしてハーレムに入れたいから従順に見せているだけであった。

 もちろんフィスレもアエイウがどんな男なのかを理解しているからその程度で気を許すはずもなかった。

「ま、なんにしろ手伝うぜ。こっちはヤマタノオロチ討伐を蹴ってまでここにいるんだ。お前らに何かがあったら、何やってんのー、って怒られちまうからな」

「それは助かるのである」

「なら、とっとと忍び込もうぜ。慎重さも大事だが臆病になってたら機を逃す。大胆に行こう」

「お前を待ってたから忍び込んでなかったってのを分かってるっぺ?」

 呆れながらも5人はウィッカの裏口へと辿り着く。

 裏口といってもそれを認識できる人間は少ない。

 ウイエアは目を凝らしてみれば分かる程度の凸凹を決まった規則で触っていく。

 その規則は当然行方不明のエンバイトがかつて持ち帰った情報のひとつだ。

 情報が更新されていれば、裏口へと入る手立てはない。

 裏口が開く。

 この手の裏口の開場方法は定期的に変えておく必要があるのだが、そこらへんは情報を取り扱う集配社であるにも関わらず杜撰だったのだろうか。

 それとも、あえてなのだろうか。古い情報で入ってきた侵入者を騙すための罠というのも考えられる。

 ウイエアも、イロスエーサももちろんそれは分かっていたが、それでもここから入るしかない。

 正門はアエイウなら破壊できるだろうが目立ちすぎるのだ。

 「行くっぺ」

 5人はウイエアを先頭に通路を進み、エントランスを覗く。

 エントランスの中央に人影。

 その姿を確認してウイエアは無警戒にも飛び出していた。

「無事だったか、エンバイト」

 エンバイトの肩に手をかけ、振り向かせる。

「待つである。何かがおかしいである」

 イロスエーサの制止は間にあわなかった。

 虚ろな目をしてこちらを睨みつけるエンバイトの姿がそこにはあった。

「う゛ぅうあ゛あああああ゛あああああ゛ああ!!」

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