真仲
25
レシュリーがマンズソウルに急いで戻るとそこには多くの冒険者が集っていた。
ルルルカ、アルルカの姉妹、モココルとモッコス、アロンドにエル三兄弟の姿もある。
そのなかにシッタとフィスレ、エミリーの姿もあり、三人は息を切らしているものの、それを整えることすらせず、レシュリーへと近寄ってきた。
「レシュリー。ちいっとばかし話があるんだが……いいか?」
シッタが舌なめずりをして話を切り出す。
「何?」
レシュリーが視線を合わすと
「ああ、オレじゃなくて話があるのはコッチだ」
「エミリーさんな」
そんなやりとりのあと、シッタとフィスレは後ろに隠れていたエミリーを押し出す。
「えっと、その……どうも……」
「どうも……って話ってこれ? 挨拶?」
「そうそう……って違うわ!」
「えっと……その、ですね……アエイウさまを……アエイウさまを助けてくださいませんか?」
「……どういうこと?」
「いや、オレらも今詳しい事情を知ったし。オレらはお前を探してるってんで手伝っただけ」
「なるほどね。エミリーさん、詳しく話してもらえる?」
エミリーはたどたどしく、けれども正確に数日前の誘拐について話し始める。
「……信じられない」
それを聞いたレシュリーは驚きのあまり、そう言ってしまった。
「アリーンがそんなにあっさり死んで、エリマさんが連れて行かれるなんて……」
「でも本当なんです……」
「やっ。信じてないわけじゃないよ。そんな強い相手ってことはランク6なのかもしれない」
「ランク6でござるか。確かにそうかもしれんでござるな」
「時期的にも封印の肉林から脱出して身体の調子が戻ったから行動を始めた、そんな感じなのかもしれないわね」
「どうかお願いです。アエイウさまを助けてください」
エミリーが必死に懇願するが、レシュリーは戸惑いの表情。
どうすればいいか、分からないと言ったような顔。
「あのさ、エミリーさん……僕たちはその今からヤマタノオロチを倒しに行かなきゃならない。ううん、正確にはまだ猶予があるからアエイウをそれまでに助けれるかもしれない。でも、そうしたらヤマタノオロチの完全復活に間にあわない可能性だってある」
レシュリーの言わんとしていることはエミリーにも分かった。
アエイウを助けるか、ヤマタノオロチを倒すか、そのふたつが天秤に乗っているのだ。
極端に言えば、前者ならエミリーの願いが叶うが空中庭園は壊滅する。後者なら空中庭園は救えるが、エミリーの願いは叶わない。
もちろん、どちらを優先してもどちらとも救える可能性だってあるし、どちらも救えない可能性だってある。
でも、優先したほうが救われる可能性は高い。
そしてレシュリーはたった今持ち込まれた事項よりも、ずっと前に約束されていた事項を優先したいと言っているのだ。
それが道理だ。エミリーだって悟った。
「そりゃあねぇんじゃねぇのか?」
舌なめずりしながら、シッタは言った。
「お前がどちらも救いたいと思いながら苦渋の決断をしたのは分かってる。でもよ、だったらよ、他の選択肢を考えろよ」
ずっぱし、と格好をつけてシッタはレシュリーを指した。それにどんな意味があるかは分からない。
「アエイウは変な野郎だ。ハーレム、ハーレムばっか言ってるしよ。それに仲間にリゾートでもねえところでこんな格好をさせるやつだ」
エミリーの水着姿を指してシッタは言う。
「でも、それでもよ……一度でも戦った仲間だ。それともなんだ? お前は一緒に戦っても、あとは離脱してしまえば真の仲間じゃあないって疎外して、仲間はずれにして、助けに行かねぇのか?」
「そんな、ことは……そんなことはないよ」
「だろ? お前はそういうやつだ。むしろどっちも解決したい。そうだろ?」
舌なめずりして指摘したことはレシュリーにとって図星だった。
大きく頷いたレシュリーを見てシッタはこう言った。
「だったら、お前は誰かにこう言やいいんだよ。この子の手伝いをしてあげてくれ、って」
それはあまり人に頼み込んだことのないレシュリーには思いつかない方法ではあった。
レシュリーがしたいということをして、それを仲間たちが助けるのが今までだった。
あまり自分で助けてほしいとレシュリーは確かに言ったことがない。
むしろ助ける側だった。
シッタの言いようは少しは仲間を頼れ、と言っていた。
「はじめてシッタがいいことを言ったような気がするよ」
「はあ? オレはいっつもいいことばっかり言ってるつーの」
「いや、それはない」
「そりゃねぇZE、フィスレ」
フィスレの断言とシッタの落ち込み具合にレシュリーも笑みを見せる。
「まあなんだ、今回はオレが言いだしっぺだしよ、アエイウの手伝いはオレがすることにしてやる」
「ということは必然的に私もそっち側ということかな?」
「いいじゃん、手伝えよ。フィスレ。それともヤマタノオロチがいいのか?」
「いや、正直に言えばかなりの恐怖があったからな、ホッとはしている。まあどちらの道も険しそうだが……」
「んじゃ決まりだ。おい、弟子ども。あと数日はここらへんで修業しておけよ」
舌なめずりしてシッタがそう告げるとシッタの弟子たちはかなり緊張していた身体を和らげ、安堵した表情を見せる。
もしかしたらヤマタノオロチと戦うのかもしれないという気持ちは、弟子になる前に、それはないと舌なめずりしながら言われてもどこかに持ち続けていたからだ。
レシュリーたちの邪魔になるだろうと考えてか、シッタとフィスレはそのままマンズソウルの外に出る。
「さて、エミリーさんを助けると決めたのはいいが……どうやってアエイウさんを見つけるつもりだ」
「こういうときがむしゃらに探しても意味はねぇ。昔のツテってのを使うしかねぇZE」
そう言ってシッタは【念波】を使った。
「もしもし、オレオレ。オレだけど……」
詐欺だと勘違いされそうなフレーズでシッタは通話を始める。
名前も名乗らずに舌なめずりをすると
『おお、ひさしぶりっぺなあ、シッタはん……どうしたっぺ?』
相手が反応する。通信の相手はウイエアだ。




