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tenth  作者: 大友 鎬
第4章 見捨てられる想い
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求声

 0.


「これをやりたいだと?」

 目に生気が戻った、と皮肉られながらも僕はディオレスに手配書を突き出していた。

「確かに、全員がランク3になり、鮮血の三角陣(レッドトライアングル)まで時間がある。修行を兼ねて何かしようとはしていたが……これは駄目だな」

「なぜですか?」

「こいつもお前と同期だろ。また救いたいとか思ってんじゃないだろうな」

「……」

 何も言えない。その指摘は正しいからだ。

「ほら、図星だろ。お前のは英雄を気取っていたいだけなんだ。いい加減諦めろ。『そんな子じゃなかった』なんて他人から見た判断だろ。劇的な何かが一瞬にして誰かを犯罪者へと変えることだってあるんだ。それこそリゾネットが一回の挫折でああなっちまったようにな」

「それでも救いたいんです」

「またそれか……俺はお前に呆れている。お前には確固たる意志がない。今のお前は誰かへの憧れに影響された他人任せのバカ野郎にしか見えない」

 ……ディオレスは何が言いたいのか? 分からず睨みつける。

 僕の睨みの意味を理解したのか、ディオレスは頭を掻いて、

「なんてっかな、空中庭園って呼ばれるところに闘球ってもんがある。これには選ばれたやつしかなれない。選ばれたら闘球専士っていう空中庭園でしか転職できない職に就ける。誰かが言う『俺は闘球専士になりたい』と。また違う誰かが言う『俺は闘球専士になる』と。違いが分かるか? 前者は他力を含めた単なる願望。後者は自力でなんとかやってやろうという確固たる意志。お前はどっちだ?」

 救いたいと言う僕はなりたいと思う誰かと同じだ。僕の憧れから生まれた願望を叶える義務はディオレスにはないのだ。

「理解したなら、最初からやり直しだ!」

 それでもディオレスは僕に権利をくれた。

 突き返された手配書をもう一度、ディオレスに見せる。

「何だ?」

 先程までのやりとりがなかったようにしれっとそんなことを言ってくるディオレスが若干可笑しいが笑いを堪え、僕も言葉を紡ぐ。

「僕はこれをやります」

 手配書を突き出し、確固たる意志を見せつける。

「ここに載っている人は僕が一度組んだことのある仲間です。だから分かる。彼女はこんなことをする人間じゃない! だからこそ僕は彼女を救う!」

 確固たる意志を全て吐き出し、それでもディオレスから視線を離さない。

「分かった。ならば俺が協力してやろう。なぜなら俺はお前の――師匠だからどぅわあああ!!!!!!!!」

 五月蠅い声がこだました。

 それが合図となり、僕の意志を確認するための寸劇、茶番劇、臭い演技は終わりを告げた。ディオレスは笑っていた。

 救う。僕はヴィヴィを救うのだ。

 なぜヴィヴィが指名手配されているのか理由は知らない。

 それでも救うのだ。

 救いたいという僕の願望じゃない。救うという僕の確固たる意志だ。

 「したい」というのと「する」というのは全く違う。願望と意志は違うのだ。意志を持ってこそようやくそれは行動へと移る。

 その段階でようやく誰かに助けを求めることができるのだろう。願望だなんて不安定なものに誰も力を貸してくれない。

 力になるよ、とテキトーにあしらわれてお終いだ。だから僕ははっきりと自分のしたいことを告げた。これをするから助けてくれと。

 だからディオレスは手伝ってくれる。ディオレスだけじゃない、アリーだってコジロウだってきっと手伝ってくれる。一度も話したことのない、僕が一度一緒に戦っただけという仲間を助けるために。

 それは僕の救うという意志があってこそ。救いたいという願望ではきっと動いてなどくれない。自己満足に付き合ってくれるほど暇じゃないのだ。

 そしてなんとなくだけれどようやく僕は悟る。なぜリゾネとハンソンを僕は救えなかったのか。

 それは僕が自分の願望だけで動いていたからだ。助けたい、そんな気持ちだけで動いてしまったから、だからふたりは絶望のなか、死んだのだ。

 僕はそれを真摯に受け止め、なおかつ活かさなければいけない。

 だからこそヴィヴィを救うのだ。

 アリーとコジロウに事情を説明する僕とディオレス。ふたりは快く引き受けてくれた。

 ヴィヴィ、キミの苦しみは分からない。キミに何があったのか知ったこっちゃない。

 だけど僕はキミを救うよ。エゴでもいい。迷惑でも構わない。

 僕が救うと決めたから救うんだ。


 ***


「姉上に何をしている!」

 彼女は激怒していた。

 眼前の男が約束を違え、W9と刻まれた首輪をした女性と口づけをしていた。

「お前が居っなくなってちょっと寂しくなったんだよぉ~」

 男は泣きそうな声で言い訳するも、それがいつものことだと知っているので彼女の怒りは募る一方だった。

「それに~、僕が求めたんじゃなくて~、こいつから求めてきたんだから~、セーフだろ~。僕から求めたわけじゃないし~」

「嘘をつくな。お前が操っていると分かっている以上、姉上がそんなことを求めるはずがない」

「ケッケケ~! それが勘違いかっもよ~?」

「ふざけるな!」

 掴みかかろうとする彼女を止めたのは、彼女が姉上と呼ぶ、W9の首輪をつけた女性。その目はまるでドールマスターに操られたクローンのように虚ろに見えた。

「なんであれさ、僕から求めてなけりゃお前との約束は違えてないってことだよね~。それに指名手配されたお前を僕以外の誰が匿ってくっれるのさ~?」

 それも全ては姉を助けるためだった。だから命令に従い、罪のない人を彼女は殺した。それも男のやり方だった。彼女を指名手配させ、さらに姉を人質に取り、束縛する。

 逃げられなくする。本当なら冒険者の彼女はどこにだって自由にいけるはずなのに、それだけで行動が制限される。彼女はそれが男の作戦で、自分が嵌められたことに気づくのが遅すぎた。姉が解放されるまで、彼女は男に従い続けるしかない。どんな命令にさえも。

 何も言えなくなった彼女は部屋に戻る。与えられた部屋は僅か一畳ほどの空間。

 そこに横たわる。何も敷かれてない床は冷たく固い。

 そんな彼女の首にも首輪が嵌められていた。彼女の番号はW110。百十番目の奴隷である証拠だ。

 どこで道を違えたのか、彼女にはもう分からなくなっていた。姉を救う道はこれだ、とそう信じていたはずなのに。

 「誰か、助けて」

 彼女は渇いた声で、誰にも聞こえぬように嘆いた。

 彼女の心は誰かに依存しなければならぬほどに崩壊寸前だった。

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