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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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拉致

 15


「どうして……?」

 要求されたのが自分だと知ってエリマは戸惑いの声をあげる。

「どうしてって、そりゃあ……、ああ、あんたは知らない……というか忘れているんだったやし。自分の境遇を」

「境遇……なんのこと……?」

「記憶の一部分がない、そうやし?」

「それは……」

 それはアエイウにさえ語ったことのない過去だった。

 エリマには冒険者として旅立ってからランク2になるまでの記憶がない。

 何があったのか分かっていない時期がある。

 誰にも語ったことがない過去をどうやらステゴは知っているようだった。

「何があったか知りたくないやし?」

 エリマは唾を飲む。知りたいという欲求は当然あった。

 けれどそれを知ってしまえば、もう戻れない、そんな気がしている。

「エリマ、行く気か?」

 出血も気にせずアエイウは尋ねた。

 エリマを手放したくないという独占欲ももちろんあるがそれ以上に嫌な予感がしていた。

 それはエリマが感じていたものと同様のものだろう。

「さて、どうしますか?」

「拒めばどうなるか……もちろん、分かってるんやし?」

「マジやばーい!」

 ノードンがミンシアの首筋に簡易短剣を当て、ミンシアは涙を流していた。脅すようにわずかにノードンは首筋をわずかに出血させた。

 エミリーはウルによって髪の毛を引っ張られ、足蹴にされているが、弱々しい態度は見せず必死に耐えていた。

「……分かった。ついて行くわ」

「それでいいんやし」

 そう言ってステゴはウルに合図を出す。

「マジやばーい」

 エミリーを蹴飛ばして解放する。エミリーは必死に走りアエイウのもとへとやってきた。

「ミンシアも解放して」

「それはお前がこっちに来てからやし」

「分かったわ……」

「おい! エリマ、勝手なことをするな! ミンシアはオレ様が助ける」

「今のアエイウじゃあ無理よ」

 実力差はエリマにも分かっていた。それに後ろにはまだ未熟な新人が9人もいる。

 数で勝っても戦闘力では確実に負ける。

 エリマは武器を【収納】して、ステゴのもとまでやってくる。

「ミンシアも解放しなさい」

「それは無理やし」

「約束が違う!」

「この子はあなたに従順に動いてもらうための人質です」

 ノードンが冷静に言った。

「なんとでも言えやし。どうせあんたは記憶を取り戻したらもう逃げる場所なんてないんやし」

「早く行きましょう」

「ああ、任務達成やし」

「マジやばーい!」

 大人しくなったエリマと人質のミンシアを連れ、三人は歩き出す。

「勝手に話を進めるんじゃない。オレ様の許可なく女を連れ出していいと思うなよ。そしてそこの女も置いていけ!」

「なんなんやし、こいつ。マジむかついてきたやし」

 猛進してくるアエイウにステゴはぼやく。

「少しアレを使ってもいいんじゃないやし?」

「ダメですよ。アレはランク7になってからではないと身体に負担がかかると蟲毒の生き残りに使った結果分かったでしょう?」

「そうやけど、むかつくんやし。こいつ」

「ではこうすればいいでしょう」

 言ってノードンは魔法筒〔咽び泣くジジェレニ〕をエミリーのほうへと向ける。その後ろには数人の新人の姿があった。

「慈悲を与える私も時として無慈悲でなくてはなりませんからねぇ」

 魔法筒から放たれたのは高速の雷撃、魔砲技能【電磁砲(カノン・ア・ライユ)】。

 躊躇いのなき雷撃は確実にエミリーを狙っていた。

「くそったれどもがああああああああ」

 狙いに気づいてアエイウは【瞬間移動】。【鋼鉄表皮】を展開させ、エミリーと【電磁砲】の射線へと入る。

 本来なら貫通するその雷撃をアエイウは受け止める。

「では、去りましょうか」

 次いで【閃光弾(フラッシュバン)】が射出され、周囲を閃光が包む。

「あれで死んだりしないやし?」

「死なないでしょう。彼は狂戦士ですし。まあ、死ねばエリマは私たちを殺しにかかるでしょうが……まだ人質もいます」

「計画は狂ったりはしないか……」

「狂ってもブラギオが修正するでしょう」

 三人は閃光のなか、翻り去っていく。

 エリマはその後ろをついていくことしかできなかった。


 ***


 閃光が消え、周囲が元の風景に戻るとそこにはアエイウの顔だけがあった。

 しかしそこで電磁砲は消え、エミリーは無傷だった。

「アエイウ様……」

 とはいえエミリーは放心状態だった。

 その状態からアエイウが生き返ると知っていても、この感覚だけは、喪失感だけは拭えない。

 何度目かの喪失感を味わっていると、アエイウの身体が再生していく。

 【偽造心臓】による効果でアエイウは回復していた。

 けれど、その疲弊感は半端ない。

 しかもエリマとミンシアを奪われた、その悔しさもアエイウにかつてないほどの屈辱を与えていた。

「エミリー、貴様は癪だがミキヨシのところへ行け。新人も一緒に、だ。いや、もううんざりしたという奴はどこにでも行け」

 突き放すようにアエイウは言う。

「アエイウ様はどこに行くつもりですか?」

 それでもエミリーは心配する。

「知らん。だが、奪われた女は奪い返す。百万倍返しだ」

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