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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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聚合


13


「ひひっ、いいよお」

 目覚めたミセスは拍子抜けするようにそう言った。

 戦闘狂のミセスがそうそう納得するはずがないと新人の冒険者たちは思っていたが、アリーが弟子にしたということを告げると素直に従った。

 ミセスとしてもアリーに思うところがあるのかもしれない、コジロウはそう推測していたが事実そうだった。

「ひひっ、だって強い人についていったほうが……楽しそうでしょお?」

 恐る恐るインデジルが聞くと楽しそうにそんなことを言った。

「……戦闘狂は戦闘狂か」

 意外性に認識を改めそうになっていたマムシだったが、その言葉で認識を改めるのはやめた。

 マムシはミセスよりも早く気を取り直し、弟子になることを了承していた。

 インデジルやアンダーソンが弟子になっていたし断る理由もなかった。

「それで、これからどうするってんですか?」

 酒場で待機を命じられたインデジルがアリーに尋ねる。

 アリーとコジロウ、ヤマタノオロチと戦うと言ったふたりの弟子をもの珍しげに見る視線を感じて、インデジルたちは居心地が悪い。

 インデジル、マムシ、アンダーソンは奇襲の準備をしていたせいでその噂を聞いておらず、途中参加のミセスは知っていてもなお、その三人に告げなかった。

 ミセスが意地悪したのではなく、ただ単に聞かれなかったから、告げなかっただけだった。

 とはいえ、ミセスがその噂を聞いていたからアリーの弟子にすんなりなった可能性は大きい。

「まあ待ってなさい」

 居心地の悪さを知ってかしらずかアリーは答える。

「お師匠様、レシュリーさんを待っているんだべ?」

「まあ、そうでござる。原点草原に修行に行ったはずでござるが、随分と長い時間がかかっているでござる」

「まったく……どこまで行ってるのかしら」

「あの、探しに行くほうが早えんじゃねぇですか?」

「そうでス。あんまり広くないでスよね、あそこ」

「んだんだ」

「あそこはランクによってさらに先に進めることができるから。今のあいつがいればレベル0~4まで行き来できるわ」

「ほえぇ~、そんな仕組みがあるだか」

「それは初耳。あっちも行きたいなあ」

「今日はもう遅いし行かないけど、祭りの間は島から出るつもりはないから行くつもりではあるわ」

 そのやりとりにインデジルとアンダーソンは顔をしかめる。

 戦闘が嫌い、戦いが嫌いというわけではないが、それでもミセスほど戦闘が好きなわけではないのだ。

「しかしそなたらの思考や戦い方を把握しないと修行の仕様がないでござるからな」

「まあそういう意味では奇襲してくれて助かったわ。ある意味で戦い方は見れたわけだし。その手間が省けたぶん、祭りの間は修行に専念できるわ」

「とはいえ、祭りのほうも楽しまなければ損でござる」

 アリーが鞭打ち、コジロウが飴を与える。

 その厳しさと優しさがちょうどいい按排を作り出した頃、

「ただいま」

 ボロボロになったレシュリーと満身創痍の3人が帰還した。

「どうしたのよ、その傷……」

 とはいえ、レシュリーは思ったより傷がなく、防具が傷ついているという印象だ。

 アリーの発言は後ろの三人を心配してのことだ。

「あー、ちょっと深入りしすぎちゃった?」

「深入りって……レベル2ぐらいまで行ったの?」

「いや……レベル4の手前まで入っちゃって……」

「どうしてそんな奥まで……」

「えっと、案外3人ともすごくてさ……ずがずが先に進んでいたら……」

 いや違うね、とレシュリーは首を振る。

「僕の不注意だ」

 レシュリーは言い訳を並べるの止め、自分を咎めた。

 弟子である以上、無理をさせすぎないのも師匠の役目だ。

「……それが分かってるなら、もう言わないわ」

「あの、明日オレらもあんなになるまで戦うってぇんですか?」

「あそこまでは戦わないわ」

 そこまで言ってレシュリーも気づく。

「もしかしてアリー……その子らって……?」

「そうよ。私たちの弟子。紹介するわ、このバカがレシュリーよ」

「良かった。見つかったんだね……」

 アリーのいつもの暴言という名の愛情表現はレシュリーにとっていつものことなのでもはや気にならない。

「なんとかね、6人とも挨拶しなさいよ」

 と言ったものの6人は微動だにしない。

 5人は同じ感想を抱き、ひとりは感動で昇天しかけていた。

「うはあ、これがレシュリーさんだべか……」

 きっと素朴で純粋な人に違いないと妄想していたユテロは、自らの視線で(フィルターを通して)感想を漏らす。

 デデビビと同じぐらいかそれ以上にユテロはレシュリーに尊敬の念を抱いていたので当たり前といえば当たり前だった。

 それ以外の5人といえば……自分たちの間に流れていた噂、偉業とかけ離れた姿に呆然としていた。

「美しくない……」

 ジョレスはアリーに並ぶほどの美形だと思っていたし、

「ヒヒッ……強そうにみえないなあ」

 ミセスはもっとゴツゴツとして筋肉質だと思っていたし、

「……」

 言葉を失っているマムシも

「マジってぇんですか……」

「この人がレシュリーさんだとは信じれないでス」

 インデジルもアンダーソンも、目の前のレシュリーがとてもヤマタノオロチを倒すと宣言したような強者には思えなかった。

「あんたら、どんなイメージ抱いていたのよ」

「たぶん、リンゼットさんが誇張しすぎたせいだろうなあ……」

 デデビビがつぶやく。

「リンゼット、というとあのリンゼットどのでござるか……」

「どのリンゼットさんか分かりませんけど、少し前にユグドラ・シィルまでレシュリーさんを勧誘に行ったことがあるって言ってました」

「今はあだしら、投球士のお師匠様だけんどね」

「投球士……!?」

「キミ、投球士なの?」

 リンゼットが何をやっているかよりも投球士に反応したのはレシュリーだ。

「んだべ。あだしだけじゃなく今年は投球士は10人ぐらいいっぺよ」

「僕も札術士になってしまうまでは投球士だったんですよ」

「そうか……そうだったのか……」

 驚きつつも、どこかにやけ顔が止まらない。

「あんたの成果ね。あんたが落第させた投球士だけど、あんた自身が評価を覆したのよ」

「そっか。それは……なんというか……」

 言葉が出ずにやけっぱなしのレシュリーは、やっぱりどことなく強いとは思えない。

 まだ騙されているんじゃないか、と5人の弟子はうっすらと思ってしまう。

「レシュ、あんたも投球士のその子とかと話したいとは思うけれど、今日はもう休みなさい。後ろの三人も。どうせ、明日も修行するんだし」

「そっか。そうだね……えーとキミは……」

「ユテロ。ユテロ・アリアスと申しますだ。お師匠様はコジロウさんだけんど、レシュリーさんにもご教授お願いしますだ」

 すっかり気に入ってもらえたユテロは元気いっぱいに挨拶をした。


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