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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
228/874

大騒


 6


「レシュリーさんが来たらしいぞ」

 その一報は、祭りよりも、この島への来訪者を期待していた新人ドゥックーゾによって祭りを満喫していた人々へと伝えられた。

 ざわざわ……

 瞬間、周囲の新人の目の色が変わった。

 我こそは、とは顔には出さないが、それとなくいそいそと港側へと向かっていく。

 一年前、落第者と呼ばれ、蔑まされたレシュリー・ライヴは一年経って、その評価を一転させていた。

 新人の誰しもが、色々なことを成し遂げたレシュリーの弟子になりたい、と思っているのだ。

「デビは行かなくていいの?」

 他の新人と同じく、祭りを満喫していたデデビビにクレインが話しかける。

 クレインは綿菓子、デデビビは林檎飴を持っていた。

「ちょっと畏れ多いかな……」

「分かるよ、それ……いざ、会いたいって思うと怖いんだよね……」

 デデビビにとっても、クレインにとっても、レシュリーは憧れの存在だ。

 落ちこぼれ、だと思っているふたりにとって、落第者だったレシュリーの活躍は憧れ以外の何者でもない。

 だからこそ、いざ会えると思うと足が竦むのだ。

「ですがAINし(会いに行か)なければ、先にDS(弟子)を作られてしまうかもですわよ?」

 破裂蜀黍(ポップコーン)をムィに上げながらアテシアが言う。

 アテシアもレシュリーに対する憧れはあるが、ふたりほどではなく、緊張もない。

「そうなんだけど……ちょっと……躊躇いが……」

NNN(なんて情けない)!」

「そうは言われてもね……」

「そだ、じゃあさ、ボクも落ち着きたいし、アビルアさんのところ行って何が飲もうよ。ここじゃ座れないしさ」

「そうしよっか」

 デデビビはクレインの提案にのっかるが、アテシアはむしろそっちのほうが冒険者に会うのではないだろうかと思っていた。

 なにせ、そこは島唯一の宿屋。手荷物こそ【収納】してしまえる冒険者だが、泊りがけで新人を探したり、祭りも満喫したいと考えるなら、そこが拠点になるはずだからだ。

 とはいえ、アテシアはそれが分かっていても口には出さない。

 意地悪というわけではなく、彼女は純粋に、歴戦の冒険者をこの目で見てみたいのだ。

 言ってしまったら、ふたりが躊躇う姿が想像できて、それはそれで、アテシアには微笑ましいのだけれど、ちょっぴり自分の願望を優先することにした。


 ***


「とりあえずアビルアさんのところに行こう」

 船を出た僕はアリーとともにコジロウと合流してアビルアさんの宿屋を目指すことにした。

「……あんたにしては拠点の確保を優先するなんて珍しい」

「いやいや、アリー殿も分かっているのではござらぬか? 拙者の予想だと……」

「あ、やっぱりね。あんた、とりあえずココアとか思ってんのね」

「え、いや……それはそうだけど……」

 すんなりばれたので僕は素直に認める。

 正直、アビルアさんのココアに比べたら大陸のココアはイマイチというかニマイチというか、とにかくアビルアさんのココアは絶品なのだ。

「まあいいわ。どうせ、宿屋予約しないと一旦船でマンズソウルに戻らないといけなくなるし」

「どうやら、それも難しいかもしれないでござるよ」

「どういう……」

 そこまで言ってアリーも気づく。僕もコジロウの向けた視線の先を見て、気づく。

 新人と思しき冒険者たちが遠巻きであれ、僕たちを見ていた。

「注目の的、ってやつじゃん」

 後ろからやってきたジネーゼがこれから起きうる気苦労を見越してか、苦笑する。

「せいぜい苦労すればいいよ」

 ボソッと隣にいたリーネがつぶやく。

「ちょっと回り道して行こう。回帰の森あたりからなら、少し遠回りだけど、まけるはずだよ」

「まく、か……。それでいいの?」

「ふたりがいいなら。何より今はアビルアさんを優先したい」

「ココアが抜けてるわよ、ココアが……」

「まあいいではござらぬか。人が多すぎても迷惑なだけでござる」

「それもそれね」

 アリーたちに呆れられつつも、僕たちは回帰の森のほうへと駆け抜けていく。

「は、速い……」

 新人の声が聞こえ、あっという間に新人たちを離していく。

「ちょ、どいて欲しいじゃん」

 むしろ新人の狙いが僕たちだけじゃないと気づいたジネーゼが新人たちに囲まれていた。

 ジネーゼも僕たちと一緒に何度か戦ったこともあるし、名は知られているのだろう。

 ルルルカやシッタたちもジネーゼが取り囲まれているのを見て、こちらへと向かってくる。

 さすがにほとぼりが冷めるまで待つつもりだろう。

 ルルルカたちとも合流した僕たちは回帰の森近くの道を大きく迂回してアビルアさんの宿屋があった場所に辿り着く。

 そこにはマンズソウルに匹敵する宿屋があった。

「こんなにでかかったっけ?」

「ううん、そんなはずはないわ……」

「確かにこんなに大きくなかったの!」

「増築したんでしょうか……」

「にしてもでっかくねぇか?」

「でもこれなら、泊まる場所に困らなそうだね」

「行けば分かるでござるよ」

「そうだね。とりあえず、入ってみよう」

 おそるおそる僕たちはその大きな宿屋へと入っていく。

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