船上
5
アリーの声に導かれ、僕はいそいそと船に乗る。
かつて僕を島から大陸まで送ってくれた船と同じ名前の船が、僕たちを出迎えていた。
今度はその船で僕は大陸から島に行くのだ。
なんだか感慨深い。この船であったヴェーグルに色々教えてもらったことを思い出し、彼が死んでしまったことも同時に思い出した。
「なに考えてたのよ」
「あ、いや……そのさ」
自分に弟子ができるのがむずがゆい、だなんていうのが恥ずかしくて、僕はごまかすように話を切り出した。
「集配社はどうするのかな、って。きっと前みたく情報集めに来るのかな、って思ってさ」
「そりゃ来るでしょうね。札術士……だっけ? 新しい職業の子もいるんだし……情報を第一とするあいつらが来ないわけがないわ」
「まあ、そうだよね。ところでアリーはどんな子を弟子にするつもりなの? 札術士の子?」
「その子はしないわね。実力が未知数だもの……。それに……」
「それに……?」
アリーが何かを言いよどむ。
「選択肢はそんなに多くないと思うわ」
それだけを言って、アリーは押し黙った。それ以上はこの話題に触れるのは止めようと言っているかのようだった。
その雰囲気を察して、僕はアリーの言葉を深く考えないようにする。
それでもアリーとは話したい。久しぶりにあったのだ。
いろんなことを聞きたい。知りたい、欲求に駆られて何かしらを尋ねようと、意を決するわけではないけれど……そう意思決定をする。
「あのさ、アリー「やや、アリーどのではありませぬか」」
言葉が重なる。
コジロウも気遣ってくれてふたりっきりだったっていうのに、珍妙な闖入者がそれさえもぶち壊しにしていた。
「ああ、イロスエーサか」
アリーが妙に気さくに声をかけた。
鼻の下に、整った髭を生やした珍妙な男は、アリーの呼びかけに笑顔を向ける。
「この人は?」
「ああ、イロスエーサよ。あんたがルルルカって子たちと旅してたみたいに、私もイロスエーサと少し旅してたのよ」
「へぇ~」
思わず頷いてしまったけれど、なんだか妙に気に食わない。
「アリーどの。それより、彼が例のレシュリーですな?」
「僕のことも知ってるの?」
「アリーどのと旅をしているとお主のことばかり、話すものでしてな。いやはや、お主のような人と付き合っているとは、アリーどのはうらやましい限りですなあ」
髭を少し触り、ほんのりとイロスエーサの頬が赤い。もしかしてそっち系の人……?
「イロスエーサ、あんた、まずは最初に自分の性別を言ったほうがいいわよ。レシュ、きっと引いてるわ」
「やや、これは失礼しました。某、イロスエーサ・エンテロープ。女子ですぞ」
「ええーっ!」
全然、そんなふうには見えない。確かにちらっとさっきの笑顔だけは女の子っぽいと思ったけれど、言われなければ信じられない、いや言われても信じられない。
「まだ疑ってるみたいだけど、イロスエーサは本当に女よ。意外と出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるわ」
「いやはや照れるのですぞ」
「なんにしろ、初めまして……だよね?」
イロスエーサの性別と、僕の中にあった気に食わなさが解消したところで、僕はイロスエーサに握手を求める。
「やや、実は的狩の塔でニアミスしてるのであるぞ。アエイウどのと言ったか、彼が挑んだ時点では三位だったのであるな」
「全然、覚えてないな」
「それも当然、すぐに急落して、あの試練が終わったとき二十位以下のである。がしかーし、それから頑張ってこうしてランク5に到達したのである」
「そういや、私と会ったときはまだランク4だったわね。けどランク5になっても修行するから今回は弟子を作るのは見送るとか……言ってなかった?」
「そのはずだったのであるが、これからはどんどん弟子が作りにくくなるという噂もあるうえに件の札術士の少年を見にきたのであるぞ」
「弟子が作りにくくなる?」
不穏な噂だ。
「どういうことなのよ、イロスエーサ」
「どうもこうも円滑にランク5になれるようになったであるからな。そのぶん、多くのランク5冒険者が弟子を求めにやってくるらしいでのあるぞ」
「なるほど。ある意味僕のせいでもあるわけか……」
「いや、責めてるわけではないであるぞ」
「違うから。こいつ変に皮肉るときがあるのよ」
「レシュリーどののことをよく分かっているのであるな」
「バッ……そういうんじゃないから。それより、もうすぐ島着くわよ」
それが照れ隠しだというのは僕じゃなくても分かる。
イロスエーサと僕は顔を向き合わせて笑った。
アリーの言葉通り、船は島へと辿り着く。




